第11話 影の中には

昔、不思議な体験をしたことがある。

なんてことはない普通の日だった。

暇を持て余した僕は自室から窓の外の景色をぼーっと見ていた。

三階からの景色は特段変わったものなどなく平凡な風景だった。

どのくらいたっただろうかふと、影の中に動くものがあると気付いた。

小人のようなそれは列をなして窓に映った僕の影の中を踊るようにあるいてゆく。

なんだろう?最初はそう思ってただ影を通して見つめていた。

やがてそれらが過ぎ去った時

初めて違和感に気づいた。

あれは何だったのだろう?

影移動する何かなど聞いたことがない。

暫くの間、それについて考えていたがやがて考えることさえも禁忌のような気が来た。

ただ漠然とした恐怖感に飲み込まれそうになっていた時に母の

「何しているの!」

という鋭い声で現実に引き戻された。

何故勉強もせず窓の外を」見ているのか?

という普段ならうっとおしい小言も今はあれについて考えなくて済むという安心材料でしかなかった。

しばらく経つ自分の言いたいことが言い終わったのか母が去っていく。

部屋にはまた静寂だけが残る。

考えてはいけないとまた窓に目を移してまう。

居たらどうしよう

そんな考えは杞憂に終わる。

そこに映るのはいつも通りの僕の醜い顔だけだった。

安心と同時にあの奇妙な列を見たいという衝動に駆られる。


もしかしたらアレは影の中じゃなくて窓の外だったかもしれない。


そんな考えが浮かび窓を開けて網戸も移動させる。

身を乗り出し外を見てみるとアレはいなかった。

残念に思い体を引っ込めようとすると視界の端にあの奇妙な隊列を見つけた。


見つけた…!


そう思いもっとよく見ようと身を乗り出す。

やっとよく見えたと思ったその時、隊列の先頭にいて紫いろの旗に赤い帽子をつけている小人がニヤリと笑った気がした。


え?とおもったがもう遅く僕の体はふわりと宙に投げ出される。


しまった…と思ったがもう遅いもうすぐ地面だ。

不思議と恐怖はない奇妙な幸福感があるだけだ

ここでこのまま死ねるならいいかもしれない。


そう思ったとたんドン!と強い衝撃が来て意識がふっと無くなった


次にに目を覚ましたのは病院のベットの上だ。

どうやら自殺未遂と思われたらしい。

大した高さじゃないのと落ちたのが植木の上だったことが功を奏したらしい。

僕は生きていた。

両親には泣かれカウンセリングと数日の検査入院でこの騒動は幕を閉じた。


そんなことあったなとビルの最上階で僕は思いだす。

目の前にはあの人同じように小人が不敵に笑い僕は身を投げしたい衝動に駆られる。


小人が誘惑をする。

僕はあがらえずにそのまま身を投げ出す。



ふわりとした幸福感の中で一つ思い出した。

紫色は「魅惑」という意味があると。

ひょっとしたら彼らを見た時点で魅惑には勝てなかったのかもしれない。


まあ、幸せだからいっか。




後日、ニュースで飛び降り自殺を伝える報道があった。

自殺したのはかの有名な小説家だそうだ。

元々幻覚が見える気質だった彼は限界になると小人が読んでいるとつぶやく。

もっちちゃんとみておけばよかったと今更後悔した。

面倒を見るのは幼馴染の俺の役目ったから


あいつが作り出す魅惑の物語が好きだったのに…


そんなことを主思った俺の視界に紫がチラついた。

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