パイロットカメラ
「これはね僕が持たされてる防犯ブザー。だけどこれが現実にどれほど役に立つか、と考えたとき、もっといろんな機能があっても良いかなと思ってるんだ」
覚の掌に水色の楕円形のブザーが乗っている。
なるほど、着眼点がいい。子供のことを考えた商品ってとこが、と青年たちは思った。
「うん、持たされてるってとこだよね」
子供の反応は違って面白い。
「これどうやって使うの?本物を初めて見た」
安川が興味深そうに手に取って一つ一つの機能に反応している。
すると…
「みんな楽しそうだけど、宿題やらないといけない子いたよね」
政嗣が空気をぶった切って声をかけた。確かに、児童館のスタッフとしては生徒全員が離脱とは由々しき事態なのか…
「じゃ、10分だけ、意見出し合ってみる」
善治が政嗣の言葉を繋いだ。
みんなの緊張が解ける。
「この紐を引っ張ると警戒音が鳴って危険を知らせる」
フンフン…
「防水になってて雨に濡れても良いんだよ」
「私のはここを引っ張るとブザーと一緒に明かりが点滅するよ」
それぞれが自分の持たされている防犯ブザーについて語る。
「一人一個、みんな持ってるんだね」
「危険だからね。ランドセルに付けるんだよ。ここ!」
と当然ランドセルにも専用の取付金具があるのを自慢する。
「へぇ良く出来てる。そんな時代なのね」
「でもさあ、誰もいなかったらどうするんだろう。鳴らしても助けてもらえない」
「音は犯人に聞こえ無いほうがいいの?聞こえるほうが予防になるのかな?」
「一人のとき怖いよね。さらわれたりしたとき、役に立つのかな」
「そこだよな」
「で、僕の考えたパイロットカメラ。ここにカメラが付いていて引っ張るとシャッターが切れる。強く引っ張ると外れて現場に落ちるんだ」
ここからは全員の目が図面に移る。
「ふ〜ん」
「上手く写真撮れるかな?」
「落としたら、それからどうなっちゃうの?」
子供の飽くなき好奇心は膨らんで、どんどん次の問題が出てきそうだった。そしてしばし沈黙。時計を眺めていた政嗣が声をかける。
「よし、10分。後はそちらでよろしく。向こうに行って勉強するぞ〜」
と、政嗣が子供たちを連れて部屋を出て行った。
「やるなあいつ」
「政嗣ってあんな奴だっけ?」
ちゃんとメモを取っていた安川が、問題点の洗い出しと改善計画を立てようと着座した。
「これはマスコットみたいね。半分お守りみたいなものなのかな?」
キャラクター化した面構えは危機意識とは遠いところにあった。
「でもせっかく持ってるんだから役に立ったほうがいいと覚君は思うわけよね」
「GPSが付いてると場所も特定できるんじゃない」
「小さな携帯みたいなもんなんだ」
不思議そうに眺めて茜が言う。
しばし静寂が流れる中ポチポチと意見が出てくる。
「カメラってもっと全体360度写ったら良いと思うな。何かあったとき写ってる情報が多いほうがいいでしょ」
覚は、隈なく情報が収集出来るように衝撃を受けてもデータが壊れないようにとカメラにこだわった。
「今はカメラも小さいし電池もコンパクトだからなんとかなるかもね」
「丸いカメラって無いのかな。360度写る魚眼レンズが二つ合わさったみたいな…」
「データが転送出来ても良いよね。常に見えてて何かあったらブザーが鳴って知らせてくれる」
「お前もうそれ、親目線だよ」
つばさが善治をからかう。
「二段階になってもいいわね。危険を感じたら一回引っ張る。それで録画開始。ヤバくなったらもう一回引っ張ってブザーが鳴る。丸いものならアクセサリーみたいで可愛い」
安川が親指と人差し指で輪っかを作って眺めていた。
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