森に囲まれたこどもの城

 安川のおじいちゃんの養護施設は、こんもりとした森の中に建っていた。その森にゴルフ場と野球場、印刷会社と介護施設、近所のお母さんが働くお惣菜屋さんが集まって建っている。元々貿易商であちこち走り回っていたおじいちゃんが、安川の両親の事故がきっかけで仕事を辞めて安川の為にこのお城を築いたらしい。

「おい、おい、これホントか、でかいな」

「……」

「天才を育む最適環境って、か」

 安川に聞こえないように小さくつぶやく…

「よく迷子になったわ。物心ついた時からGPS付けてたから」

「だろうな、なんたってこのゴルフ場は子供にしたら大草原に違いない」

「こっちの林からあっちの林へ雉が飛ぶの、超低空飛行で、それはね感動的。そういう環境をいつまでも残したいでしょ。ここはそういうところ」

「走っても良い?」

 走り出す覚の目が輝いた。駆け出したくなる。確かにここなら何でもやれそうな気がする。安川の言った広い場所で空気も清々しい。を思い出した。

「柚菜もつれて来れば良かったな」

「ガールフレンドなの、その子」

「あ…」っと口を押さえた顔が幼くて可愛かった。

「日頃、僕の愚痴を聞いてくれる親友」

 思い返してみれば、解決しようと努力もしないで愚痴ばかりこぼしている日頃の自分に思い当たる。

「逃げてばっかりいたな〜」

 覚は自分を振り返る。

「どうぞこっちへ」

 ここからはゆるいセキュリティーがあって、善治たちは今日のところは顔パスで通り抜けた。受付にニコっと笑って2階へと誘われ、クラブハウス2階の突き当りまで歩いた。

 どうやらここから上が今回の秘密基地になる場所。隣の棟にある介護施設の上の階の養護施設と繋がっているらしい。

「あれ、どうしたの?」

 その声の主は政嗣だった。

「ま、まさか…だろ」

「え?」

 善治の不審な目…

「今日は…水曜日、バイトの日か」

「此処なの?」

「2階は児童館エリアなの、クラブハウスに食堂もあるから便利で此処を使ってもらってる」

「………」

「ってことは…」

 この沈黙は、此処で会って良いのか、あるいは此処がバイト先なんて嘘だろ、あるいは、安川と抜け駆けとか信じられない。というような複雑な感情によるものなのだろうか…

「安川も児童館でバイトを?」

「バイト?そんなものかな、手が足りなかった時とか、一緒に遊んだり宿題解いたりしている」

 全てが安川の遊び場なんだなと合点するとそれはそれで平気な善治だった。

 つばさがこっそり人差し指を立てて二人の間で行ったり来たりした。

「こちらがあのメモを書いたさとる君?改めてこんにちは、どんな字を書くの?」

「覚えるって字。覚悟の覚」

「へえ〜」皆んなから声が上がる。知らないことが一つ解った共感。名前って偉大だな。

 此処なら覚のやりたいことが思いっきり出来そうだ。賢そうな子供がいっぱいいる。安川と一緒に遊んでる子供たちの無邪気さと聡明さに、確かに抜群の環境だと思わずにはいられない。

「すでにこんな場所があったんだ」

 覚がつぶやく…

「で、君の特許を取ろうって言うアイデアは、現実に形にしたい設計図とか存在するの?」

 と、切り出したのは安定の安川だった。

「いくつか考えたんだけど一番の推しはこのパイロットカメラ」

「パイロットカメラ?」

 いつしか覚の周りを沢山の子供たちが囲んでその図面に釘付けになった。

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