悩ましい日々

 毎日楽しくエアコンで涼んでいるつばさとは反対に、この頃政嗣は、気がつくとふさぎ込んでいた。

 一人になると気が乗らなくて口数も減りため息が出る。この状態はまさか…俺は誰かに恋でもしているのかなあと見当違いのことを考えながら、しっくりこない気持ちを持て余していた。

 プライドの高い政嗣は自分がホームシックに罹っているなんて疑ってもみないのだった。

「この頃政嗣おかしくない?」

「政嗣?」

 善治が意味ありげに笑った。

「あれは、多分ホームシックだな。ひどい奴は定期的に一年に一回くらいはくるよ。天才でもホームシックになる。政嗣は始めての海外派遣だし、ああ見えて繊細なんだ。自分のことはよく見えないから原因がわからなくて戸惑っていると思うけど…まあ見守ってやろうよ。きっとそのうち解決する」

「へえ〜ホームシック…」

「茶化すなよ。政嗣はお前とは違うから」

「今更ね〜お前もなったことある?」

「ああ、子供の時だからあいつとは状況が違うな。泣いても恥ずかしくなかった頃の話だ」

「泣いた。お前が、笑える」

「そういうお前は無かったのかホームシック」

「無い無い。当たり前だろ。海外遠征の多いバスケット部だぜ。運動部だ。慣れてるよ子供の頃から」

「そういう奴は人の気持ちがわからなくて恋に苦労するよ。そのうちガンと来る」

「なんだよ、それ」

「政嗣は親元で長く育っただけ有って愛情が注がれてるっていうか、いかにもお坊ちゃんだろ。つばさはそこんところ繊細さが足りない。おしゃべりじゃないから良いようなものの、気を許すと口数が多くなってボロが出るから注意しないとな」

「わかったようなこと言うなよ。俺が繊細じゃないって!」

「だろ、すぐむきになる」

「くそ!善治に言われたくない。お前だって相当無神経じゃないか」

 お互いを罵りながら政嗣のことを気にかけている。三人は良い具合に調和が取れてチームワークも良い。そこへ今度やってくるという新メンバー。一体何のために人員が増えるのか。そこがわからないスタッフたちだった。

「この時間に人員を増やすなんて考え難いけど、なんだろうね」

「さあ、こっちとしても受け入れ体制に問題はないけど、あいつらと上手くやれるかな。まあ政嗣も善治もできた奴だから、問題はつばさだけなんだけど」

「つばさが気になってる?それなら大丈夫でしょう。この頃大人になったよ。やたら突っかかってたけど、学校も楽しいみたいだし」

「確かにあいつが林間学校の実行委員?そんなのやるとはね」

「それに恋愛してるらしいよ。今のところ片思いだけど」

「何のために、なんて考えないか、恋だからな」

 まさかの展開。つばさの恋は計算外だった。


 自分のため息の理由がわからなくて苦しんでいる政嗣に、こんな時は忙しい方がこの状況を乗り越えられると考えて善治は知恵を絞っていた。

「つばさ、なんか政嗣に頼みたいこととか考えて欲しいこと。ない?」

「政嗣に?」

「ああ、かなりな難問が良いな。ちょっとやそっとでは解決しないような」

「考えとくよ。今のところ思いつかないけど。それよりこの前気がついたんだけど、安川、彼女の持っているノートに変わったのが有ったよ。赤い表紙のまあ、『SOPIA』のサインはどれにも付いてるんだけど『サイコス』って見出しのが有った、あれはもはやビンゴでしょう」

「ほんとに、いよいよソフィアか…」

「どうどう?」

「確かめてみたい。くそ!あのソフィアだったらなんかで負かしたい」

「善治さん。珍しいなお前が熱くなるなんて」

 善治は対抗心が自分っでも抑えられないほど湧いてきて不思議な高揚に支配されている。今までネットでしかやり合ったことが無かったソフィアが現実目の前にいる。自分がコテンパンにやられた相手。天才を自負する善治には耐えられない悔しさだった。

「政嗣に探らせるか?」

「興味ないと思うよ。ほぼ確実だしね。すぐ解決する問題じゃ駄目なんでしょ」

「そうだな、この件に関して熱いのは俺だけだ。お前でも冷静に思ってるわけだし」

 自分たちの連携を感じさせないためにもこれ以上安川には関わらない方が良いと誰もが了解していた。熱を上げているつばさでさえ、近づきすぎないようにしようと冷静に考えていた。

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