橋口の決意

「あの三人、僕は好きです。好みみたいに言うのもなんですけどね」

 照れくさそうにうつむきがちに話す橋口だが、言葉の端々に生徒会顧問としての意欲がほとばしる。若い橋口が最初に任された仕事を、なんとしても成し遂げたいという熱意が感じられた。

「まあ、それにしても随分惚れ込んでしまわれたものですね」

 危なっかしいものを見るように川園が顔をしかめた。一人ひとりの子供をこんなに熱心に観察した経験のなかった自分に教師として後ろめたさも感じる。

「この夏休みに口説いてみようと思ってるんです。あいつら勉強の心配も今の所無いんです。志望校はバッチリって先生からお墨付きをもらいましたから」

「あら、そこまでリサーチ済」

 川園は橋口の抜け目のなさに少し感心した。自分も顧問になることが決まっているんだし、これだけ積極的にやろうとする同僚がいるのなら、この際乗ってみるのも悪くはないかとそう思った。

 ただ、目星をつけるくらいなら誰にも出来る。それを実現するには面倒なこともあるんじゃないかと、隣で舞い上がる橋口をため息混じりに見た。

「さあ、誰から始めるかな、見ててくださいよ。僕の情熱で必ず彼らをうんと言わせて見せますから」

「はあ、でも彼ら目立つの好きじゃないって言いませんでした。生徒会って地味そうで究極のパフォーマンスですからね」

そのくらいはわかる川園だった。

「そ、そうか、いや任せて下さい」

「上手くいくといいですね」

 川園は半信半疑でうなずいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る