親友というもの
次期生徒会顧問の橋口は、この三人の奇妙な符号を、こういうのが親友というものに違いないと少し照れながらも思うのだった。確かに橋口の中学生時代ならそんな友情も成立したのかも知れない。
中学三年の夏休みを控え、校内は林間学校の話題で盛り上がっていた。
毎年夏の恒例行事になっているこの合宿には、強制力がないにも関わらず多くの子供が参加した。今どきの中学生も蓋を開ければ皆んな可愛いもので、それほど塾にセミナーにと駆けずり回って夏休みを虚しく送るわけではない。
のんきに遊び呆けているものもいれば、中学生だと言うのに似合わない化粧をしたり、音楽にうつつを抜かす者も多かった。
バスケ部のレギュラーは夏休み前から始まるJトーナメントの試合の都合で、森林学校には参加できないのではないかと心配されていた。この話の主人公の一人、ヴァイルス菌所持者、つばさもその一人だった。
「ほら、あの三人ですよ。僕は良いと思うんだがな〜どうです川園先生」
新任の橋口がこれまた新任の若い女教師、川園にそう言った。
「どう言うところでそう思ったわけですか?」
川園がそう聞くと、これは脈ありと勘違いしてか、橋口が力を得た声でまくし立てた。
「いやあ教頭にこの話を来期生徒会顧問の話をですよ。持ちかけられた時、色々僕なりに考えたんですよ。ほら立候補とか推薦とか有るでしょう。今期だけは僕が選んでみようかなあって、それで毎日子どもたちのことを観察してですね…」
「ち、ちょっと、それってやらせじゃありませんか〜」
川園に問われて口ごもりながらも、
「そ、そうかな、しかしですよ、今までの自分の経験からしますとね。生徒会の立候補なんて、担ぎ上げられたか、お調子者か、点取り虫かそんな奴でしょう。本当にこの学校の将来を考えて、代表になって欲しいって奴を一度本気で探してみようと思ったわけですよ」
橋口の嗅覚はそれほど的外れでもないと言わなくてはならない。どんな観点で生徒を見ようと、模範生であるあの三人に行き着くのは至極当然のことだった。
しかし、ピーズの硬いバリア。それが効かないこの橋口にはどんな才覚があるのか。
「それであの三人?」
「そうです。あの三人面白いんですよ。一番良いところは敵がいないところですね。
つばさはけっこう人気がある。あいつは絶対格好良いから。あいつのバスケはそつがない。目立つほどの派手さはないがグッと来る時があるんですよ。僕はああゆう縁の下の力持ちみたいなポジション奴好きなんだよね。今どきちょっと上手いだけで目立ちたがる奴多いじゃないですか。なのに一味違うんだよな。
政嗣は信用できる。僕の仕事とかサボったことないし、宿題もちゃんとやってきます。話を聞く姿勢も良いですよ〜たいていの奴が姿勢崩して机に寄っかかって授業受けてるでしょ。寝てんだか起きてるんだかはっきりしない。前見て筆記しながら話し聞いてる奴なんて化石もんですよ。あいつのノートには色があるんだ。色ですよ。下線引いたりしないでしょ今どき、普通。
善治は優しい。誰にでも優しい。そういう奴なんですよ。良いよな〜媚びない。手柄なんて考えてないんだ。自己顕示欲の為せる技じゃなく自然体なんだな。
そういう奴は貴重です。これからの日本を支える逸材です。心の中が透明というか…何を考えているんだか今ひとつわからないところもあるけれどね。あの目は信用できるんです」
橋口に見込まれた三人はこんな評判だった。当たらずとも遠からじ…そう、そうインプットされた司令で動いている。
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