スクールヴィルス

@wakumo

 発端

 三人はたいてい一緒にいる。涼し気な顔で窓際に腰掛け、何気ない時間を楽しむように教室の外を眺めている。時折言葉を交わし、それぞれ別の方向を向いてはにかんで笑う。静かだが景色として美しく。教室の片隅に独特な空気を作っていた。

 かなり仲が良さそうだと、何処から誰が見ても解りそうなこの状態。なのに話題にもならない。存在すら希薄に感じさせる不思議な三人だった。

 彼らには、どうやら周りには知られてはならない別の顔があるらしい。彼らの周囲に放たれる特殊な、なんとも言えぬほのかな香りが、その秘密を守る不思議なバリアを作っていた。そのバリアの中だけは静けさが漂い、周りの雑踏から開放されて、三人は伸び伸び出来るらしい。

 ところが、この周到なバリアに阻まれることなく、三人の隠れた印象を垣間見てしまった教師が一人いる。いるにいたが、この教師でさえ、三人はただ仲の良い親友だと思っていたのだから、何かを見抜いていたとまでは言い難い。

 誰からも興味を持たれることなく過ごしている三人は何者だろう。どんな目的でこの場所に存在しているんだろう。

 何気ない日常の中で暮らす三人は、こう見えて…某国が最も優秀と認めた、日本人中高生向けヴァイルス菌所持者だった。闇結社ピーズが放つ最終兵器。人間改造ヴァイルス菌保菌者。

 大げさに言ってみた。しかし、なんのことはない。彼らの日常はいたって単調だ。普通の中学生らしく平凡に暮らしている。

 日常生活に置いて組織が介入することはないし、行動が制限される指示がくるということもない。毎日の生活そのものが司令であり、ヴァイルス保菌者としてのたゆまぬ活動だった。

 ただ、DNAに基本的にインプットされた防御プログラムにより、自分たちが繋がっているということを周りに悟られまいとする傾向があるには有った。

 また、周りから特別に見られないようにする配慮から、授業をサボるとか、あまりにも低レベルな点を取るという愚行に及ぶこともしないように訓練されていた。

 ところが今回の仕事は様子がおかしい。某国特殊工作チームのリサーチミスなのだろうか?任務にそぐわないちぐはぐなことが多い。

 それというのも、最近の日本の中学生は、昔ほど勤勉なものばかりではなく、学力も生活態度も全体に低レベル化している。授業中ひたすら集中して黒板とにらめっこする者もなければ、積極的に手を上げる者もいない。なのに、彼らにトレースされた情報は、時代錯誤もはなはだしく昔の日本人の勤勉さを十分に保っている。それが返って仇になって目立つことになってしまったのがこの話の発端である。

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