第2話 なにか足りない

2度目の目覚めも最悪だった。うるさい蝉の声に蒸し暑い空気、汗で濡れたシーツが体に張り付いてすごく気持ち悪い。相変わらず体は痛かったけど、1回目の目覚めよりまだマシになっていた。意識もはっきりしていてまだ震える手を抑えながら隣にあったナースコールらしきものを押した。廊下からパタパタと騒がしい足音が聞こえ、いつかの騒がしい看護師さんがガラッとドアを開けた。私を見るなり目をうさぎみたいに赤くうるうるさせ、「さくらちゃぁぁぁぁん!」と飛びついてきた。何が何だか分からないけど、抱きしめられて悪い気はしなかったので黙っておいた。

……ん?

私はここでひとつ疑問を覚えた。さくらって?誰のこと?そもそも、私ってなに?どうしてこんなところにいるの?なんで?気付けば私の頭の中は、はてなだらけになっていた。でも、何故かぐるぐると回る頭の中で一つだけはっきりとしていることがあった。思い出さなきゃいけない。何を思い出さなければいけないのかはさっぱり分からない。でも、私は私の中にある記憶を思い出さなきゃいけない、これだけははっきりしていた。

私はカラカラの喉から声を絞り出すようにして、「看護師さん私は…」どうしてここにいるの?と聞くつもりが上手く声が出てくれない。きっと長い間私は眠っていたのだろう喉が声の出し方を忘れてしまっている。けれど、何故か目の前にいる看護師さんは目をまん丸にして私の方をじっと見つめて、「ごめんね、ちょっと先生呼んでくるからここで待っててね」と言い残してまたパタパタと走ってどこかへ行ってしまった。胸がざわつく、意識がはっきりすればするほど何かを忘れてしまっているこの状況に不安を抱いた。何、私は一体何を忘れたの?自分に問いかけても出てくる答えはなくて、まるでゴールの見えない迷路を行ったり来たりしているようだった。早く、早く思い出さないと…気持ちは焦る一方で自分でもなんでこんなに思い出したいのか不思議なくらいだった。しばらくして、さっきのうるさい看護師さんと白い髪を後ろでひとつにまとめた背の高い女の先生を連れてきた。その先生は私にこう問いかけた

「自分が今どうしてここにいるか分かる?」

私は首を横に振った。すると、その白衣を着た白髪の先生はうるさい看護師さんに何かを話してどこかへ行ってしまった、看護師さんは私に今からちょっと検査するから、少し待っててねと言って車椅子を出し始めた。

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Iあなたの見た桜を私はまだ知らない Sati @nene724

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