25日目(木曜日 仮)白い部屋の午後「月に行くのがかなわないのなら」




「月に行くのがかなわないのなら」


月に行くのが かなわないのなら

せめて

強い風で 吹き飛ばしてほしい


僕が ドアをノックするときに思うことを

僕が 花の香りをかいだときに期待することを

僕が 路上の猫を見て感じることを

僕が ソファに座ったときに思い出すことを

僕が 耳にする全てのことを

僕が 目にする全てのことを

僕が 肌で感じるすべてのことを

すべて

すべて

吹き飛ばしてほしい


「永遠」がないのであれば

今の「僕の永遠」も 消えてなくなればいい


月に行くのが かなわないのなら

強い風で吹き飛ばしてほしい


そう ぜんぶ



D





 昨夜観た月のことを私は詩にして障子紙に書き、適当な余白を作ってから定規で切り取って床の上に置いた。



(あの、清掃員の二人は、なぜ、涙を流しながら餃子を食べたんだろう…)


 これで、300回目くらいの考察をしたが、満足いく答えは出なかった。


 二人は、それでも、全部で18個の餃子を食べてから「ごちそうさまでした。ありがとうございました」と言ってから立ち上がり、ごみ袋2つと清掃用具を持って黒いドアから出て行った。


(だって、餃子だよ。手の込んだフランス料理でもないし、逆に、煮つけとか味噌汁といったおふくろの味でもない。焼いて出しただけの餃子を食べて普通、泣くか?)



 私は、301回目の考察を試みたが、やはり、答えは出ず、私はすっかり、面倒くさくなって木の椅子に浅く座って脚を伸ばし、深い眠りに入っていった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る