24日目(水曜日 仮)白い部屋の午後「雲の上の月」




 私は、一昨日の月曜日から、白い部屋には筆と障子紙と定規を持参して入室した。

 初日の月曜日には、その日の庭の風景を詩にして書いたが、昨日は、何も思いつかなかったから書かずに退室した。




「雲の上の月」


音がない 冷たい空気の中

とんびにさえ見ることができない

厚い 厚い灰色の雲の上の

はるか はるか 上空の

変わることのない 月の顔を

コンパスで引いたような 正確な輪郭を

輪郭から放たれてる白い光を

うっすら色を染めている 影を

目を瞑って描く


目を開けると 厚い雲のせいで見えない


だから

目を瞑って描いて  


そっと 見る



その月の光は眩しかった



D





 私は、昨夜の夜空について詩を書いて、一昨日、書いた障子紙の隣にそっと置いた。



 ドキュメント番組の主人公、92歳の老男は、自分の体力の限界を知って、その年、船を降りる決断をした。

 インタビューでも「寂しい」と漏らしていた。しかし、船を降りてもなお、老男は、詩を書くことをやめなかった。しかも、船を降りた寂しさを詩にしたためることなく、生まれ育った離島の自然の素晴らしさを半紙に表し続けていた。


 自分が何者かを知らない私ではあるが、人生のなんたるかの部分で、到底、この老男の域には達していないだろう。

 だけど、この得体のしれない部屋に居ても、自然の美しさを感じることはできる。

それをただ、この青いペンキと毛筆で表したい、という気持ちに素直に従ってみたまでだ。



 普段よりもだいぶ短い時間だが、今日は、これで、白い部屋で過ごす時間を終わりにして部屋に戻る。


 清掃員の二人。いつも通り、部屋の掃除をしてくれているはずだ。





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