17日目(水曜日 仮)薪ストーブの部屋の午後「分別」

 



 清掃員の2回目の訪問だった。

 タイミングも前回と同じで、白い部屋で過ごした帰りだった。


 一昨日から今日まで、私は、白い部屋に本を持ち込んだものの、1ページどころか、一段か二段目の途中で読むのをあきらめて眠ってしまっていた。まさに、本自体が睡眠導入剤のようだった。

 だから、今日も、白い部屋でいったいどれくらいの時間を過ごしたのかは不明であったが、目出度くも清掃員に遭遇できた。


「今日もありがとうございます!」


 部屋に入るや否や、私は意識的に明るい声で二人に挨拶をしたが、初老の女は、ビリヤード台のラシャにブラシを掛けて私の方を見なかったし、若い女は、ソファの空間で、また、なんとかワイパーで床を拭いていた。


「あの~、ちょっと、お尋ねしてよろしいでしょうか」


 私が、若い女に声を掛けると、「はい。なんでしょう」と意外にもワイパーの動きを止めて応答があった。


「ええっと… ええっと… あ、そうそう、ごみなんですが、先週もそうだったと思うんですけど、ああやって、普通のごみとトレイとに分けてますよね?」

 

 海が見える窓側に置いてある二つのごみ袋を見ながら私はそう言った。


「はい」


「ここは、ごみ箱が一つしかないし、ビニル袋も無いもんだから、なんでもかんでも大きいごみ箱に捨ててしまって申し訳ないなって。あなたが、ああやって分別してくれているんでしょう?」


「いえ、私じゃなくて、スミエさんがやっています」


 若い女は初老の清掃員の方を見ながらそう言った。


「ああ、そうなんですか。ええっと、スミエさん、ごみ袋を置いていってくだされば、私の方で分別しておきますので…」


 私が、スミエさんの方を見ながらそう言った。


「申し訳ありません。この清掃作業の一切は決められたものになっているので、私たちの方で行います」


 名前がまだわからない若い女がそう言った。


「ああ、そうなんですね。わかりました。じゃあ… お世話になります」


 食い下がっても良かったのかもしれないが、私はあまり考えずにそう答えてしまった。この部屋で暮らしていく中で、すっかりあきらめが良くなったものだ、と他人事のように自分のことを思った。



 清掃が終わると、二人は、道具と二つのごみ袋を持って、黒いドアから外に出て行った。


(「失礼します」って挨拶くらいしたっていいのに… 無言を通すのも決められているとでも言うのか)



 私は、なんだかやるせない気持ちになって長いソファに寝転んだ。





(あゝ、でも、今日は、会話になったな。黒い服の男よりもたくさん喋れたし…)


 そう思うと、来週の水曜日、どんなことを言えば若い女やスミエさんと会話ができるか考えてみよう、という気になった。








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