15日目(月曜日 仮)薪ストーブの部屋の朝「終着地点」




 朝、目覚めて、外を見たら大雪になっていた。積雪はすでに膝上くらいにまで達していた。空は鼠色で、横殴りの雪がなおも降りっぱなしだった。

 でも、残念ながら、私は薪を割りに小屋に行かなくてはならない。


 海が見える方の窓を開けると、雪が部屋の中に吹き込んできた。ひさしの下とはいえ、長靴にも雪が被っていたが、両手で左右の長靴を持ってパンパンと音をさせて雪を払ってから足を突っ込んだ。すると、素足だったものだからすぐに冷たさが沁みてきた。

 構わず、小屋に向かおうとしたら、すぐそばに、長い柄のラッセル型のスコップと普通の長さの柄のスコップが置いてあることに気が付いた。

 おそらく、昨日、黒い服の男が置いていったものと思う。もしかして、天気予報なんかで大雪の予報がされていたかもしれない。


 私は、普通の長さのスコップを手に取って、雪かきをしながら小屋までの道を付けることにした。スコップは、手で持つ部分が木製で、雪をすくう部分が紫色のプラスチックでできていた。これなら、金属製のスコップよりもかなり軽く扱いやすいのだろうと思った。

 しかし、雪は湿り気を多く含んでいるのか思っていたよりも重く感じた。私は、一人分歩けるだけの道を付け、取り除いた雪は遠くじゃなくてすぐ近くに投げた。



 

 すっかりかじかんだ両足を薪ストーブの方に向けながら私は床に座り込んだ。

 テレビのニュースで報道される大雪のニュースで、その地域の人たちが大変そうに雪かきをしている姿を観たことはあったが、以前の生活で、私が雪かきをした記憶はなかった。

 

 私は、この部屋に来るまで、いったい、どこで生活していたのだろう。雪かきなんて必要のない暖かい地域に住んでいたのだろうか。


 今でこそ、こんな部屋で、黒い服の男の世話になりながら食べて生きながらえているが、普通は、何らかの仕事をして生計を立てて、そのお金で食べたり、家族を養ったり… そう、家族。私には家族が居るのだろうか。私の父母、私の妻、私の子どもは…


 残念ながら全く思い出せない。

 今まで、この手の回想をこの部屋で何度も試みてきたが、私の記憶には無かった。

 もしかして、ずっと独り身だったのかもしれない。こうやって、冷蔵庫の食材を見て何らかのメニューを考えて、毎日、そんなに苦労しないで料理を作って食べているのがその証拠だ。


 男女の役割分担がなんちゃら、とか、テレビの世界で見聞きした覚えはあるけど、私のような世代では、母が、妻が料理を作って父や夫や子どもたちが「いただきます」と手を合わせて食べる姿が当たり前だったような気がする。なのに、こうして、事もなく私が料理を作って食べたり、洗濯をしたりしているということは、ずっと私が独りで暮らしてきたからなのではないか…


 大雪をきっかけにして、またも、この堂々巡りの想像に時間を費やしてしまった。 


 その終着地点はいつも同じ場所だというのに、だ。






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