2日目 薪ストーブの部屋の午前「火起こし」
二日目にして、もうすでに、ルーティーンは崩れ、洗濯も、朝食もとらないでソファに座り込んだまま、時計の無い時が過ぎた。
(まさか、テレビでやっていたような火打石とか、火起こし器とかなのか??)
(だいたい、そんな石や道具がどこにある?)
(普通の暮らしなら、コンビニにライターを買いに行けばそれで済むことなのに…)
と、不可能なアイディアか愚痴の堂々巡りしか思い浮かばなかった。
すると、庭に面した窓から太陽の光が差し込んで来たものだから、振り返って外を見ると、雪はあがって、キラキラ眩しい雪景色が広がっていた。
(ん?昨日は気が付かなかったヤッケが小屋の中にあった。もしや、小屋の中を探せば…)
そう思った私は、長靴を履いて再び小屋に向かった。
よく見ると、小屋には白熱灯の電球が天井から垂れ下がっていたからスイッチをひねってみたら、小屋の中が明るくなった。昨日は、パズルのように積み重なった丸太の半分サイズの薪しか気付かなかったけれど、それとは別の場所に棚のようなものがあって、道具らしきものが置いてあった。
すると、ライターやマッチは見つからなかったものの、“ファイヤー・スターター”とプラスチックのパッケージに書かれた黒い金属の棒と、長い
(ナイフや包丁は此処には無いが、この鑢で代用できるかもしれない)
そう思った私は、それらの道具ひと揃えを持って薪ストーブの部屋の中に入った。
まず、最初に図にあるように、巻き付けてある麻紐をほどいてから指でほぐして薪ストーブの中に仕込んだ。そして、パッケージの図にあるように、ファイヤー・スターターの黒い棒を左手に持って、ほぐした麻紐の前で、右手で持った鑢をこすりつけながら素早く振り抜いた。
すると、パシュッという音と共に鋭い火花が散って麻紐に火が燃え移った。
(よし! ん…?)
確かに、麻紐に火が燃え移りはしたが、薪に火が移ることなく燃え尽きた。
当たり前である。こんな小さな火種で大きな薪を燃やせるはずはなかった。
私は、さっき割った薪を一つ持って、もう一度、小屋に向かった。そして、薪を土台の丸太の上に置いて、斧でさらに細い薪を作ることにした。最早、斧を大きく振り下ろすのではなく、斧で薪に切り込みを入れて、斧の刃を刺した状態で薪ごと下の土台に打ち付けるようにすることで細い薪を作った。これも、テレビの何かの番組で見たような覚えがあった。
さらに、細くなった薪の先を斧の刃を当てて皮をめくるように傷つけてボサボサにした。これで、麻紐から火が燃え移りやすそうになった。
私は、再び、薪ストーブの部屋に戻って、ファイヤー・スターターを使って火を起こし、無事に、細い薪、そして、大きな薪に引火させることに成功した。
こんなことで、だいぶ感動して満足感を覚えていた私は、しばし、ソファで寝転がって燃える薪を眺めていたが、飛ばしたルーティーンをこなさなくては、と思い直し、ようやく、黒いスエットを脱ぎ始めた。
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