第2話 戦後

「母ちゃん!みんなで遊んでくっからね!」

「一!店の手伝い!!」トキが言う。

「1時間したら戻るよ。行ってきます!」

鞄を玄関に投げ捨てた。

中から習字道具と習字で黒く塗られた教科書が飛び出してきた。

下駄の音をカタカタといわせながら外に飛び出して行った。

話し声がきこえる。

友達が呼びにきたのであろう。

ここの子供たちは神社を遊び場にしている。

陽の当たる木々が生い茂る

春は桜が舞、夏は木陰で涼み、

秋は落ち葉で

冬は雪が降りかまくらを作る。

神社では落ち葉が、カサカサと音を立てながら

りすや小鳥たちが遊んでいる。

季節は秋。

「いっちゃん、今日は缶ケリしようよ!」

手を振りながら友達が数人呼んでいる。

「いいねー。やろう!」

そんな風に遊んでいた日だった。

神社奥の林の中から三毛猫が足から血を流してヨロヨロしながら

こちらに向かってきた。

「猫が、怪我してる!」友達が一に言う。

「足、何かに挟まれたようなキズだ!虎バサミだよ。すぐに手当しないと!!!」

一が猫をそっと抱えて

家まで走る。下駄なんて履いてたらダメだ。走れない。

下駄を飛ばした。

飛ばした下駄は神社境内の外

鳥居の辺りにある神社の案内板の木の下に当たった。

「母ちゃん!お湯をくれ!!早く!!!」

「帰ってきて「ただいま。」

も言わず「お湯くれ」とはなんなんだい。」

店の厨房から出てきたトキが

一の手の中にいる猫を見て

ハッとした顔をし

「この猫は神社の胡桃ではないかい!?」

「母ちゃんこの猫知ってるの!?」

眉間にシワをよせ

「店を閉めてきて!

家の四隅に盛り塩と煮干し三匹、清めを置いて

夜には弟を外に出さないように!!!」

「えっ何で、胡桃はどうすんの?」

「早くしな!!陽が落ちるまでに!」

そう言われて家の四隅に言われた物を置いて玄関を入ろうとした時

「下駄忘れたから、持ってきたよ」

と知らない着物を着た子供がいた。

「猫の手当ありがとう。私には何もできないからのぅ。これはお礼の品だから、玄関に置くように」

とヘンテコな柊に似た木の束をくれた。

「母ちゃん、こんなの神社の子がくれた」

と声を掛けた時

「今、神社の子と行ったかい?!それは武様だ!!!

その木の束をほどいて玄関に並べな!!!早く!!!とびらをちゃんと閉めて!鍵もかけて!!!」

「鍵もかい?変なの?鍵掛けた事ないのにぃ」

トキが怖い顔をして言った。

「イイかい!よく聞きな!

今から魔が物がくる!

絶対!家を開けては行けないからね!!!」

母の形相がただ事ではなかったのでコクリと頷き言う通りにした。

母は、巫女だった。

かなりの霊力があったらしく、たまぁに家相やら占いやらをしてほしいと

うどんを食べに来ないで店にくる客?がいる。

胡桃という猫は何者なんだろう?

虎バサミなら

猫の足の幅なら表、裏で2箇所のキズくらいだ、、、

でもあの足のキズは何かに齧られたように横に少し円を描くように

歯型!そうだ!!歯型だ。

猫を食う動物なんているのか?!

母ちゃんが巫女の衣装に着替え

居間にしめ縄と垂を張り巡らせ中央部に桶を置き清めとお湯を半々に入れた。

そこに胡桃を入れ洗い始めると、キズの方から黒い煙が出てきた。

「うわぁーー何だぁ!!!

あれ!!!」

指を刺そうとした時

「刺すでない!」

また一喝されて店の方へ戻った。

「兄ちゃん。今日は二人でご飯なの?」

気がつくともう陽がくれていた。

店の扉をドンドンと叩く音がする。

変だ!店を閉めている時は

みんな家の玄関に来る。何かがおかしい。

弟が店の扉を開けようとしたので慌ててとめた。

「兄ちゃん、お客さんだから『今日はもう休みです。』と言わないとダメだよ」

「今日はいいんだ。家の台所に豚丼があったから食べよう」と笑いかけると

腹が空いていた弟は走って台所に向かった。

母ちゃんの声がした。

「もう胡桃は大丈夫だ。でもこれから家の外が騒がしくなるが、母ちゃんがいるから大丈夫だから。

武様の木もある。安心してご飯を食べよう。」

台所に行く母ちゃんが

疲れた顔をしながら言った。

弟が豚丼を凝視しながら待っていてくれた。よほどお腹が空いていたらしい。

3人揃って

「いただきます。」を言った時だった。

玄関から

「痛い!痛い!誰か開けてくれ‼︎」

大声で怒鳴る声が聞こえてきた。

「母ちゃん、誰か怪我してきてるよ。

開けないの?」と弟。

「うちは父ちゃん死んじゃっていないから

夜に男の人なんて入れたら

空の父ちゃんがびっくりして槍さ落としにくるさ。だから

反応すると」

ドドドドドーー〜ん!!!

ばーー〜ん!!!!

家に何かがぶつかり跳ね返った音がした。

何かが家の外にいる。

そう感じた。

長い夜の始まりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る