第48話第二ラウンド
第二ラウンドが始まりブラドが初手に取った行動は絵理歌の攻撃を警戒して先手を取っての霧化だった。
姿を見失った絵理歌は自由に動けるようにステップを踏みつつブラドの出現に備える。
「ずるーい、あいつまた霧になったよ!」
「吸血鬼は基本能力も高いですが、本領は個々人に備わった特殊能力にあります。卑怯ではないんですよ」
「もうっ! シエルさんどっちの味方ぁ!」
霧化に文句を言う晴香にシエルは吸血鬼について説明するが、納得がいかないようだ。
別に同族の味方をしている訳ではないのだが、自分も特殊能力を使って戦うのであまり悪く言えないのだった。
(どこからくる? 前……は、ないか。右? 左? 後?)
ブラドの攻撃に備える絵理歌はステップを踏みながら警戒する。
前後左右の死角を警戒する絵理歌の上に霧化から実体に変化したブラドが現れ蹴りを放った。
「ちっ!」
紙一重で蹴りを躱した絵理歌は躱した勢いのまま回転して回し蹴りを放つが、そこにはもうブラドの姿はない。
蹴りを空振りした絵理歌は着地と同時に体勢を立て直し周囲を見回すが、どこにもブラドの姿はなかった。
「今の蹴りを躱すとは人間にしてはやるではないか。お前の力を吸収すれば、俺はさらに強くなれるだろう」
「誰がっ! 貴方なんかに吸収されるかっ!」
実体に戻り姿を現したブラドに向かって絵理歌は突撃するが、またも霧化で逃げられてしまった。
「もうっ! 腹が立つわね! 正面から戦えないの! 弱虫なの!」
「何とでも言え! これが俺のやり方だ!」
絵理歌は挑発で誘き出そうとするがブラドは乗ってこない。
師である祖父から話術による戦術も教わっている絵理歌だが、今回は不発に終わった。
(挑発にも乗ってこないし。さて、どうしようか。初見の打撃は当たったけど、それで警戒された。組技は霧で逃げられる。――あれならいけるか? 一応対抗策は思いついたけど、私にできるかしら……でも、やるしかない!)
対抗策を思いついた絵理歌はブラドの攻撃を待つことにした。
絵理歌の初撃を受けてからのブラドが警戒して自分が攻撃する時にしか霧化を解かなくなったからだ。
「あの吸血鬼どこいっちゃったのかな?」
「気も魔力も反応があるから近くにいるとは思うんだけれど」
「ずる賢いブラドのことです。機を窺っているのでしょう」
「シエルさんは本当にあの吸血鬼が嫌いですのね」
「あたしも嫌いだぜ! 野郎はやり過ぎた!」
「わ、私もです。よくもトール君を! 許しません!」
霧化状態のまま姿を現さないブラドに観戦している晴香達も焦れていた。
最強になりたい絵理歌の思いを汲んで参戦しない晴香達も心は一緒に戦っているのだ。
「うるさい連中だ。
晴香達の野次を不快に思ったブラドが命じると、教会の奥から屍鬼よりも身体の崩れていない五体の吸血鬼族が現れた。
「何こいつら? 結構強そうじゃない」
「あれは下級吸血鬼。屍鬼にならず吸血鬼に進化した人間です。ブラドの血を受けている為、奴の言うことしか聞かないですし、もう元には戻りません。屍鬼よりも強いですから気をつけてください!」
「殺すしかないってことね……」
シエルが注意を促すと晴香達と下級吸血鬼の戦いが始まった。
「加勢には行かせんぞ!」
(くそっ! あっちはみんなに任せるしかない。私はブラドに集中しなきゃ!)
晴香達の加勢に向かおうにもブラドがさせまいと邪魔をしてきて行けない。
絵理歌は下級吸血鬼を仲間に任せて対ブラドに集中する。
狙いはブラドの攻撃の瞬間。
その時だけは霧化から実体に変化して攻撃してくるからだ。
絵理歌は次の交錯でカウンターを狙う。
先程前後左右を警戒していたところに上からの攻撃を受けたことで、絵理歌は全方位に注意を向ける。
すると、ブラドは意表をついて後方下に現れ水面蹴りを放ってきた。
(ここだっ!)
絵理歌はギリギリで蹴りを躱し、水面蹴りを放つ為に下がったブラドの頭に回し蹴りを放つが、当たると思った蹴りは空を切る。
「何っ! ぐぅっ……」
蹴りを躱され体勢を崩した絵理歌にブラドのボディブローが決まり、衝撃で壁まで吹き飛んだ。
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