第47話絵理歌VSブラド

「シエルさん、それ以上は怪我じゃすまないですよ。交代しましょう」


「……皆さんごめんなさい。勝てると思ったんですが、思ったより強かったです。私はここまでのようですね……後はお願いします……」


 シエルは力の差をつけられたことを悔しく思うが絵理歌達に頼もしさを感じ、ブラド討伐の思いを託し交代を受け入れる。

 格下だと思っていた相手に完膚なきまでにやられたことに悔しさはあるが、自分では手も足も出ない

 中級吸血鬼以上の力を手に入れたブラドに勝てるかは分からないが、絵理歌達に託すしかなかった。


「さあ! ここからはウチが相手だよ!」


「ちょっとハルキャン、ここは私がやるわ」


「いえ史さん、ここはわたくしが!」


「ダメだねむちゃん、あたしがやるぜ!」


「えっ、待ってみんな。私がやりたい!」


「「「「どうぞ、どうぞ」」」」


「貴様ら、ふざけているのか」


「あれ~、大丈夫かなぁこの人達……」


 絵理歌達が戦う順番決めをしているとブラドは顔に青筋を立てて怒りをあらわにし、シエルは心配で胃が痛くなるのだった。

 だが、絵理歌達は別にふざけていた訳ではない。

 これが通常運転なのだ。

 どんな時でもユーモアを忘れるべからずである。


「次は貴様らが相手か? 人間ごときが吸血鬼族に勝てると思っているのか?」


「貴方は最強を目指してるんでしょ? だったら私も黙ってられないわ。最強になるのは私だから」


「最強? ああ、ユナに勝つ為に力を吸収し続けているからそう思ったのか。だが少し違う。俺は欲しいものは奪い取り、殺したい奴は殺す。それを邪魔するユナを殺して自由に生きたいだけだ」


 地上最強を目指す絵理歌とブラドは強くなりたい理由が少し違う。

 絵理歌は自分の内から湧き上がる衝動が強さを求めたが、ブラドの強くなる理由は自分の思うまま自由に生きたいだけであり、その邪魔になる存在を消す為に強さを求めたのである。

 だが、強さを求める理由は違うが強者との戦いを求める気持ちは同じだった。


「貴方随分嫌な奴ね。とにかく私が相手よ! かかってきなさい!」


「ふんっ、人間ごとき下等生物が俺と一対一で勝負だと? 余程死にたいらしいな」


 絵理歌の言葉を鼻で笑うとブラドは構えを取る。

 町を荒らし知り合いを傷つけたブラドに絵理歌は怒っていた。

 仲間とコントを繰り広げようと心は熱く燃えている。

 ブラドが構えを取ったことで戦闘開始と判断した絵理歌は軽いステップを踏みながらじりじりと間合いを詰めていく。

 あと一歩で懐に飛び込める間合いで絵理歌は一度前進を止めて身体を脱力させた。

 脱力により沈み込む勢いを推進力に変えて絵理歌は加速し、ブラドの腹に右中段逆突きを打ち込んだ。


「がは……あぁ……」


「うおおらああっ!」


 中段逆突きのダメージでブラドは呼吸が止まり身体をくの字に曲げた。

 絵理歌は右中段逆突きによってできた溜めを利用して左フックをブラドの顔面に叩き込んだ。

 パンチの衝撃で吹き飛んだブラドは壁に激突して突き破り外まで飛んで行った。


「絵理歌さん凄いです……私でも捉えられなかったブラドをぶっ飛ばすなんて……」


「離れて見てると分かりづらいけど、えりたんは攻撃の初動を隠して動いたのよ。実際のスピードはシエルさんとそれほど変わらないわ」


「そんなことができるのですか?」


「私達武術家にとっては割と知られた技法だけれど、こっちではあまり知られてないみたいね」


 絵理歌の使用した技について史はシエルに説明する。

 打つ気満々でピタリと構えていては動き出しが読まれやすく躱されやすい。

 そこで拳、肩、足を小刻みに動かしてその中に動き出しをを隠すなど初動を隠す方法が生まれた。

 絵理歌が使ったのは膝抜きと呼ばれる技で、地面を蹴って移動するのではなく脱力によって膝を落とし、それを前に進む推進力に変えて移動する縮地とも呼ばれる技である。

 移動の際のモーションが少ない為、対峙する相手にとっては実際のスピードよりも速く感じることになるのである。


「俺にパンチを当てるとは、やってくれたな女ぁああ! ただではすまさんぞぉおお!」


 教会の壁に空いた穴から瓦礫をかき分けブラドが戻ってくる。

 霧化が間に合わず攻撃を受けたことに怒りを露わにしていた。


「それはこっちのセリフよ! 私の仲間にも町にも酷いことをしてくれたわね。ただですむと思わないでよ。さあ、第二ラウンドを始めましょうか!」


 戻ってきたブラドに絵理歌は啖呵を切った。

 ここからが第二ラウンドの始まりである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る