第46話吸血鬼の力
「シエルさん吸血鬼だったの!」
雰囲気をがらりと変えてブラドと対峙するシエルに絵理歌は動揺するが、他の面々はやっぱりなといった顔をしていた。
「えっ、みんな気づいてたの?」
「うん、何となくね」
「明らかに何か隠してたし」
気づけなかったことに少しショックを受ける絵理歌をよそに、シエルとブラドの戦いが始まった。
シエルは腕を垂らし、普通に歩いてブラドとの間合いを詰める。
ノーガードで近づいたシエルが変形させた手の爪で切り裂くと、ブラドは体を霧に変えて攻撃を躱した。
「皆さん! 私がブラドの気を引いているうちに子供達を安全な場所に運んでください!」
シエルの指示に従い、二人の戦いを観戦していた絵理歌達は気を失っている子供達とトールを避難させた。
もっとも、外は屍鬼が徘徊し、中は吸血鬼同士のバトルで安全な場所などないのだが、シエルとブラドの戦いに巻き込まれない位置まで移動させただけだ。
子供達の避難を確認するとシエルはギアを上げる。
変形させた爪に加えて肘打ち、蹴り、全身を凶器に攻めるが、追い詰められると霧に変化するブラドを仕留めきれない。
「シエルさん強い……。人間凶器みたいで私の理想に近いな」
「えりたん、人間じゃなくて吸血鬼よ。言うなら吸血鬼凶器ね」
子供達の非難を終えた絵理歌達は戦いの観戦に回っていた。
戦況はシエルが攻め立てブラドが守りに徹している。
シエルが追い詰めるとブラドが霧に変化して逃げてしまう為、決定打を与えられずにいた。
「霧化……相変わらず厄介な能力ですね。正面から戦えない臆病者なのですか?」
「ふふふっ、昔のままだと思うなよ。俺はユナを超える為にパワーアップを重ねてきた。血を飲んでいない空腹のお前など、とうに超えているぞ!」
「下級吸血鬼程度が生意気な!」
霧化で攻撃を躱し挑発してくるブラドにシエルは苛立っていた。
昔のブラドの実力であれば霧化する前に攻撃を当てることができたからだ。
吸血鬼族には個々人に能力が備わっている。
シエルであれば身体の一部を変化させて武器や防具の代わりにする能力であり、これは割と使用者が多く一般的な能力である。
対してブラドの能力の霧化は自分の身体を霧に変える能力であり、使用者が少ないレアな能力である。
だが、吸血鬼の国にいたころのブラドはレアな能力を持ってはいても、気や魔力といった基本能力が低かった為、総合的な戦闘力は下級吸血鬼に分類されていた。
レア能力を持つ自分が下級扱いされることに我慢できなかったブラドは国を出て行った。
理由は吸血鬼が手っ取り早く強くなる方法が他者の血を飲むことだからである。
吸血鬼の国では女王であるユナが禁止してできなくなったので国を出たのだ。
悪さをするはぐれ吸血鬼を許さないユナからの刺客がシエルである。
中級吸血鬼の戦闘力を持つシエルは、元下級吸血鬼のブラドを仕留めきれないことに焦りを覚えていた。
「どうしたシエル? 中級吸血鬼の力はその程度か? 下級吸血鬼の俺に攻撃を当てることもできんではないか」
「なめるなブラド!」
シエルが爪に風属性の魔力を込めて腕を振るうと、風の刃が霧化したブラドを切り裂いた。
以前のブラドであれば風で飛ばされた霧を集めることができず、実体に戻るまで時間と力を必要としたが、力を増したブラドは難なく元に戻って見せた。
「どうやら力関係は逆転したようだなシエルよ」
「確かにダメージを与えられていませんが、貴方も私に攻撃できていない。まだ状況は五分ですよ」
言葉とは裏腹にシエルは焦っていた。
格下だったはずの相手にここまで手こずるのが予想外だったのだ。
だが、焦ったところで攻撃は空を切るばかりであった。
「このままでは埒が明かないですね。様子見はおわりです。これならどうですか!」
シエルは気を練り上げフルパワーの爪撃を繰り出した。
霧化される前にとらえるはずだった爪撃は空を切り、一瞬で背後に霧化から実体に変化したブラドが現れるとシエルに蹴りを入れる。
蹴り飛ばされたシエルは回転して受け身を取るが、先回りしたブラドにもう一度蹴り飛ばされて壁を突き破り外まで飛ばされてしまう。
「はっはっはっ、俺は中級吸血鬼を圧倒できるまで強くなったか。今なら上級吸血鬼にも……いや、あの忌々しいユナにだって勝てるぞ!」
「まだ……終わっていませんよ……」
瓦礫の中からシエルは勝ち誇るブラドに呼びかける。
自分はまだ戦える。負ける訳にはいかないと、ふらつく身体に鞭を打ち立ち上がった。
「シエルさん。後は私達に任せてください」
「バトンタッチだよ」
絵理歌と晴香はシエルの肩を叩きバトンタッチを宣言した。
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