第44話屍鬼の元は

 ダンデライオンに到着した絵理歌達が見たものは、燃える家屋と屍鬼と戦う冒険者達だった。

 燃える火を消化しようにも絵理歌達には水属性の使い手はいない。

 まずは屍鬼を片付けようと戦闘に参加することにした。


「加勢するわ! こいつらは何なの?」


「ディステル会か!? こいつらは屍鬼ってえ魔物だ! 最下級だが吸血鬼族だから手強いぞ! だが、倒せば一体につき金貨一枚貰えるらしい。うまうまだぜ!」


「あら、タコスのおじさん奮発したわね。私達も稼ぐわよ!」


 屍鬼と戦っている冒険者に話しかけると状況を説明してくれた。

 冒険者達のやる気を見るに、屍鬼に褒賞金をかけたタコス作戦は大当たりのようだ。

 しかし屍鬼は強く、目の前にニンジンをぶら下げられた冒険者達は苦戦を強いられていた。

 だが、Bランク冒険者である絵理歌達は屍鬼の群れを危なげなく殲滅していく。

 先に戦っていた冒険者達は絵理歌達の強さに呆然と立ち尽くした。


「お、おい、ディステル会さん。倒すのはいいんだが、討伐証明部位は頭だぞ。頭を破壊しちまったら褒賞金は出ないぞ」


「ちょっと! そういうことは先に言ってよ!」


 屍鬼をオーバーキルで殲滅する絵理歌達に堪らず冒険者が声をかけると、史は聞いてないとクレームを入れるのだった。

 屍鬼と戦っていると喧しく叫ぶ声が聞こえそちらを見ると――、


「お……お前、シャールか? 俺だ! ディアスだ! 分からねえのかよ!」


 少し離れた所で戦っていた男が何やら屍鬼に大声で話しかけていた。

 その顔にはただ事ではなさそうなほど焦りの色がうかがえる。


「どうしたの!? 屍鬼に知り合いでもいたの!?」


「こいつはシャールってえ俺のダチなんだ! 最近姿を見ねえと思っていたが、屍鬼になっちまうなんて……」


「……まじ? じゃあ今戦ってる屍鬼って……」


 冗談のつもりで言った史の言葉は当たってしまった。

 今戦っている屍鬼が、元は人間だったことを知らなかった絵理歌達は男の話に戦慄する。

 その場にいた他の冒険者も皆同じように顔を青くしていた。

 同じ冒険者稼業をしていた仲間の変わり果てた姿を見たのだから無理もない。

 その時、立ち尽くす絵理歌達に声がかけられた。


「そうですよディステル会の皆さん。屍鬼は多種族が吸血鬼によって眷属化された姿です。正確に言えば眷属化に耐えられなかった者のなれ果てですね」


「学者のお姉さん……。貴方なら屍鬼を元に戻す方法を知ってるんじゃないですか? 教えてください!」


 話しかけてきたのは吸血鬼学者のシエルだった。

 絵理歌は学者のシエルならば屍鬼を元に戻す方法を知っているのではないかと質問するが、シエルは悲しそうに首を振って答える。


「吸血鬼が己の血を与えて眷属化すると、早くても一日仮死状態になります。この状態でしたら元に戻すことも可能なのですが、眷属化が終わり動き出したらもう戻りません。意思のない屍鬼になってしまったら殺すしかないのです……。苦しませず介錯してやるのがせめてもの救いだと思います……」


「くそっ! ならやってやる……ダチの俺がシャールを楽にしてやるんだ!」


 絵理歌達はシエルの回答にショックを受けるが、それを聞いた友達を屍鬼にされた冒険者は奮起し、友だった屍鬼の心臓を剣で貫いた。

 実力こそ劣るものの、気持ちを切り替えて最善を尽くそうと頑張る冒険者魂に絵理歌達は衝撃を受ける。

 例えばシスル女学園の仲間が屍鬼にされたなら、介錯して楽にしてやるのが最善だったとしても自分達にそれができるのだろうかと考えてしまう。

 それができるダンデライオンの冒険者達を凄いと思ったのだ。


「シエルさん、ここは危険だから安全な場所に避難した方がいいですよ」


「私は貴方達を待っていたんですよ。さあ、屍鬼を操る吸血鬼を退治しに行きましょう」


「居場所が分かるんですか!?」


「ふっふっふっ、私は吸血鬼専門の学者ですよ。当然調べはついてます。まあ、この騒ぎが起きなければ分からなかったんですけどね。事が起これば推測できますよ」


 外は屍鬼が徘徊する危険地帯である為避難するよう促すが、シエルは絵理歌達を待っていたと語る。

 吸血鬼の専門家であるシエルは、親玉の吸血鬼の居場所を突き止めたので倒しに行こうと自信ありげに誘うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る