第43話屍鬼
「煙が上がってるわね。火事? 狼煙? それとも無差別テロ?」
町の異変に史が声を上げる。
まだ町まで距離があるが、ここからでも分かるほどに町の至る所から煙が立ち上っていた。
「これはただ事じゃなさそうですね」
「のんびり歩いてる場合じゃないわ。急ぎましょう!」
あまりにも広範囲で煙を上げる様子に、ただ事ではないと判断した絵理歌達は町に急ぐ。
緊急時に所属する町を守るのも冒険者の役割である。
冒険者ギルドは国同士の戦争には関与しないが、戦争ではない問題が起これば助けの手を伸ばす。
所属冒険者もランクアップの査定が上がるし名を売るチャンスにもなる為、積極的に参加する者が多い。
現状町がどういう状況か分からないが、冒険者の責務を果たす為にも名を売る為にも絵理歌達は先を急ぐのだった。
☆☆☆
時は少し遡り、絵理歌達が帰路についていた頃、城塞都市ダンデライオンでは町に魔物が現れ騒ぎになっていた。
現れた魔物は
血を求めて人を襲うことから魔物に認定されていた。
屍鬼は吸血鬼族が眷属を作る際の失敗作とされる。
吸血鬼が己の血を与えることで多種族から吸血鬼族に変異するのだが、相性が悪く変異に身体が耐えられなかった者が序列最下位の屍鬼になる。
吸血鬼族の序列は大きく分けて上級吸血鬼、中級吸血鬼、下級吸血鬼、屍鬼の四つあり、上級吸血鬼の中でも特に強い者は二つ名を持つ。
より上位の者の血を飲むことで強さが増し序列を上げることができる為、強さを求める吸血鬼族の
そんな吸血鬼族でも最下級の屍鬼が、城塞都市ダンデライオンの至る所に突如として現れたのだ。
突然の魔物の襲撃に町はパニックに陥っていた。
「手の空いている冒険者をかき集めて町の防衛に当たらせろ! 一体につき金貨一枚の褒賞金を出す! ダンデライオン支部の冒険者魂を見せてやれ!」
冒険者ギルドではギルドマスターのタコスが職員と冒険者に指示を飛ばす。
町には領主の兵もいるが常駐している数はそれほど多くなく、冒険者と連携して事件の鎮圧に当たっていた。
そんな中、緊急事態に忙しく指示を飛ばすタコスに声がかけられる。
「やはりことが起こりましたね。私の睨んだ通りです」
「貴方は吸血鬼学者の……」
「シエルですよ。忘れちゃったんですかぁ?」
現れたのは吸血鬼学者のシエルだった。
予想通りにことが運んだのが嬉しいのか、美しい顔には笑みが張りついている。
忙しい最中に現れて楽しそうに笑うシエルに少しいらつきを覚えるが、専門家の知識を得る為に抑え込んだ。
「もちろん覚えているさ。この緊急事態に専門家の意見が聞けるのは助かるよ」
「いえいえどういたしまして。早速ですが並みの冒険者では屍鬼には勝てませんよ。戦うのは腕利きだけにして、残りは避難誘導に当てた方がよろしいかと思います。戦いが避けられない時は守りを固めて隙を見て逃げてください」
「珍しい魔物だから知らなかったがそんなに強いのか?」
「最下級をとはいえ一応は吸血鬼族ですからね。多種族よりは戦闘能力が高いです。まあ、私としては屍鬼を吸血鬼族と言いたくはないのですが……あれは吸血衝動に支配された魔物です」
シエルは専門家の知識で対策を告げた。
だが、屍鬼についてはあまりいい感情を持っていないように見える。
吸血鬼専門の学者をやっているような特異な人物だ。
思うところがあるのだろうとタコスは得心する。
「シエル殿、協力感謝する」
「はい。でも、大変なのはこれからですよ。屍鬼が現れたということは、それを操る吸血鬼がいるということですから」
「やはりそうなるか……」
その可能性についてはタコスも気づいていたが、嫌な予感が当たってしまった。
屍鬼だけでも大変なのに、それを操る吸血鬼がいるとなると厳しい戦いを余儀なくされるだろう。
「恐らく屍鬼は行方不明になった冒険者達です。ということは、これは前々から計画された襲撃なんですよ。敵は本気でダンデライオンを攻め落とすつもりだと覚悟してください」
「……そうか。行方不明者は屍鬼にされていたのか……。だが、俺の目の黒いうちはこの町をやらせはしねえぜ!」
行方不明事件の仮説は納得のいくものだった。
だが、この町の冒険者を束ねる者として負けるわけにはいかないと、タコスの心に火が灯る。
「張り切ってますねタコスさん、頑張ってください。……まったく、肝心な時にディステル会の皆さんはいないんだから。早く帰ってきてくださいよ……」
屍鬼の後に強力な吸血鬼が控えている以上、ダンデライオン最強と言われる冒険者の力が必ず必要になる。
シエルには早く帰ってこいと願うことしかできなかった。
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