第41話突然のキス
解毒薬を取り出し絵理歌は晴香の、景は史の治療に向かう。
絵理歌が側に行くと先程まで元気に助けてと叫んでいた晴香はぐったりとしていた。
「晴香、解毒薬よ。飲んで」
「……うう……」
解毒薬を飲ませようとするが、身体が痺れて自力で飲み込めないほど弱っているようだった。
飲み込めないのも無理はない、解毒薬は割と大きな丸薬なので無理に飲ませようとすれば喉に詰まらせて窒息する可能性がある。
どうやって飲ませるか考えていると晴香が口を開く。
「エリちゃん……苦しい……口移しで飲ませて……」
「う~ん……それしかないか。分かったわ!」
絵理歌は晴香の提案を聞き入れると丸薬を口に含んで噛み砕く。
十分に咀嚼して飲み込みやすいように水を口に含んでから晴香に口移しで飲ませた。
コクコクと晴香の喉が脈動し、しっかりと飲み込んでいるのが分かる。
「もっと~!」
「――なっ、ちょっと!」
絵理歌が丸薬を飲ませ切り唇を放そうとすると、晴香は動くようになった両腕でがっちりとホールドして放そうとしない。
口移しからキスに変わってしまい焦った絵理歌が頭を掴んで引き剝がすと、晴香は物欲しそうな顔でこちらを見詰めていた。
「貴方達大胆ねえ。みんな見てるわよ」
「えっ……」
その様子をじっと見ていた史に言われ周りを確認すると、仲間達が顔を赤くしながら絵理歌と晴香を見詰めていた。
「尊いですわぁ……お二人をおかずに丼飯三杯はいけますわぁ……しゅき……」
「破廉恥だぜ絵理歌ちゃん! そういうのは二人っきりの時にやってくれよ……」
いつの間にか目が覚めていたねむは頬に手を当てて蕩けたようにうっとりと見詰め、景は手で顔を隠しながらもしっかりと指の隙間から絵理歌と晴香を見ていた。
みんなに見られて急に恥ずかしくなってきた絵理歌は晴香を問い詰める。
「あんた……実は動けたんじゃないでしょうね……」
「え~そんなことないよ~、瀕死だったよ~」
絵理歌がジト目になって問い詰めると晴香は首を傾げてしらばっくれた。
こうなった晴香は梃子でも口を割らない、墓場まで持って行くだろうことを知っている絵理歌は、愛すべき友人のしらばっくれ顔を見て嘆息するのだった。
「皆さん無事で良かったです」
「凄い戦いだった……正直震えたぜ」
しばらくするとトールとジニーが合流するが、晴香との熱いキスは見られていなかったようで絵理歌は胸を撫で下ろした。
晴香と史の回復を待って先へ進むと、目指していたアンデッドの反応がないポイントに辿り着いた。
ポイントは湖で、メリア湿地によくある小さな池や沼とは違い水が澄んでいる。
湖の中心には小さな陸地があった。
「あの陸地が怪しいわね。行ってみましょう」
「えっ……泳いで行くのか?」
史が湖にある陸地に行こうと提案すると、トールとジニーは気まずそうな顔になる。
「あの~、私とトール君は泳いだことがないんです。すみません……」
「そうなの? じゃあ無理はさせられないわね。それじゃあ……」
二人とも泳いだことがないとジニーが申し訳なさそうに説明してくれた。
この世界では学校で水泳を習ったりはしないので泳げない人が多い。
そもそも学校に行けるのは裕福な家に生まれた者だけだし、近くに海や広い川や湖がある地域の者でなければ泳ぐ機会もないのだ。
それを聞いた史が考えながら辺りを見渡すとちょうどいい物を発見する。
湖の端にあった流木だ。
「あの流木につかまってちょうだい。私達が後ろから押して行くわ」
「なるほど、浮き輪代わりにするのか。史ちゃん先輩冴えてるー!」
「ありがとうございます。それなら行けそうです」
「俺も大丈夫だ。頼む」
二人の了承を得たところで出発する。
トールとジニーに流木につかまってもらい、絵理歌達五人がバタ足で押して行く。
運動が得意ではないねむと景は途中で疲れてリタイアしたが、気で身体能力を強化した絵理歌、晴香、史、三人のバタ足の推進力で流木はそれなりのスピードで進んで行った。
「ひゃー、びしょ濡れだよ。でも水が綺麗で良かったね。他の沼は泥沼とか毒沼だったし」
「恐らく紅水仙の浄化効果によるものだと思います。私もこれほどとは思いませんでしたが」
陸地に到着すると水で濡れた
だが、穢れを糧に育つと言われる紅水仙のおかげなのか、湖の水は飲み水にも使えそうなほど清浄なものだった。
「あれが紅水仙かな? 真赤で綺麗な花だね」
晴香が指し示す方向に真赤な花弁に真っすぐ伸びた緑の葉を持つ花があった。
数は多くないがこの湖の陸地に群生しているようだ。
「地球の水仙には毒があるのよね。ニラと間違えやすいから注意が必要よ」
紅水仙を見つけた晴香に史はドヤ顔で雑学を披露した。
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