第35話メリア湿地

 トールとジニーを仲間に加え、一行はメリア湿地方面を経由する乗合馬車に乗車した。

 不特定多数の客を乗せ、一定の路線を運行される馬車である乗合馬車には人族や獣人といった多種多様な人々が乗車している。

 目的は様々で商人、旅人、冒険者など様々な人が利用していた。


 目的地のメリア湿地までは馬車で一日かかる。

 暇を持て余した晴香は近くにいた老夫婦と談笑していた。


「へ~、爺ちゃん達は息子夫婦に孫が生まれて、田舎から見にきた帰りなんだ。やっぱり可愛かった?」


「そりゃあ可愛かったぞ。大きくなったらお嬢ちゃん達みたいに美人になるだろうな」


「マジか! 絶世の美少女になるのか! 将来が楽しみだね」


 晴香の返答に老夫婦は楽しそうに笑う。

 そんなコミュ力の高い晴香をすごいなと絵理歌は思っていた。


「ほっほっほっ、言うのう。見たところお嬢ちゃん達は冒険者のようだがどこへ行くんだい?」


「メリア湿地に採取クエストに行くんだ」


 地名を聞くと老夫婦の顔が青ざめ、心配そうにこちらを見てきた。


「お嬢ちゃん、メリア湿地がどんな所か知ってるのかい? アンデッドが跋扈する死の大地とも呼ばれる恐ろしい場所だよ」


「大丈夫だよ、あたし達強いから。ディステル会って知ってるかな? ダンデライオンでも割と有名な冒険者なんだよ」


 晴香は私達を誰だと思っているんだと言わんばかりに胸を張って名乗るが、老夫婦は首を傾げていた。


「ディステル会? 知らんのう、婆さんは知っとるか?」


「私も聞いたことないのう」


「なぬ川なぬ之助! あたしらそんなに有名じゃなかった!」


 ディステル会を知らなかった老夫婦に晴香は大げさに驚くが、二人は田舎から出てきた人間なので最近有名になった絵理歌達を知らないのは当然であった。


「今からでも遅くないから依頼はキャンセルした方がいい。死んだら元も子もないよ」


「だからあたしら強いんだってええ!」


 晴香の叫びも空しく説明しても信じてもらえず、馬車での移動中依頼をキャンセルして帰るように老夫婦から説得され続けるのだった。






 メリア湿地の近くを通る所で絵理歌達が下車すると老夫婦が声をかけてきた。


「気をつけてね! 危ないと思ったらすぐに引き返すんだよ!」


「爺ちゃん達も気をつけてねえ!」


 説得を諦めた老夫婦はせめて無理はするなと諭してくる。

 この世界での馬車移動は魔物や盗賊に襲われる恐れがあり危険な為、絵理歌達も老夫婦に手を振り無事を祈った。


「年寄りは心配性ね。でも気をつけるのは賛成よ。どこからアンデッドが出てくるか分からないから注意しながら行きましょう」


 メリア湿地に近づくほど危険になる為、馬車では途中までしか行くことはできない。

 馬車を降りた絵理歌達が徒歩で移動を始めて一時間ほどたった頃、段々と辺りに霧が出てきた。

 この霧はメリア湿地特有のものでアンデッドの怨念から生まれる瘴気と言われ、霧が出ると近くにアンデットがいると言われていた。


「霧が濃くなってきたわね。アンデッドは厄介だからできるだけ戦闘は避けて行きましょう」


 アンデッドには通常の物理攻撃が効きづらく、倒し切るには気か魔力による攻撃を加える必要がある。

 戦闘を避ける為、敵の気配を探知しながら慎重に進んで行った。


「次はこっちよ」


「おまえら何でそんなことが分かるんだよ? 道が分かるのか?」


 行き先を指示する史を疑問に思ったのか、トールが質問してくる。


「周囲の気や魔力の反応を探ってアンデッドがいない場所を通ってるのよ。まだ遠いけどこの先にぽっかりと反応がない場所があるから、恐らくそこが目的地だと思うわ。貴方は気や魔力は使えないの? 使えるなら同じように探知できるんじゃない?」


「俺は魔力は使えないが気が少し使える。ジニーは魔力が使えるぞ。その探知ってのはどうやるんだ?」


 目的地到着まで時間がある為、トールとジニーに探知を教えながら進んで行くと、それぞれ気と魔力の素養があったからか才能なのか、ある程度探知を使えるようになっていた。


「おい、もしかして囲まれてるんじゃねえか?」


「やっぱり完全にバトルを避けるって訳にはいかないようね。くるわよ!」


 まだ先は長い、余力を残す為に戦闘を避ける作戦だったが、そう簡単にはいかなかった。

 絵理歌達の周りに避けられないほどのアンデッドの群れが現れたのだ。

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