第34話依頼理由
「この教会の司祭様が病気で寝たきりになっちゃって、治すには
依頼理由を話始めると、明るかったマヤの顔は日が陰ったように暗くなる。
「それでギルドに依頼したのね。オッケー、私達にまかせなさい。必ず紅水仙を取ってきてみせるわ」
史が同意を求めるように仲間達を見回すと、絵理歌達は親指を上げるサムズアップで答えた。
短い時間ではあるがマヤと教会を見た限り、真っ当な教会と孤児院であると判断したからである。
「……ほんとに? ありがとうお姉ちゃん達!」
答えを聞いたマヤは、表情から陰りが消えて笑顔を取り戻す。
「俺達も行くぞ! 司祭様には世話になったんだ。恩返ししたい!」
「ええっ! 私達にメリア湿地は無理だよ! 死んじゃうよ!」
それを見ていたトールはいてもたってもいられず自分も行くと名乗りを上げるが、ジニーが止めに入った。
「別に止めはしないけど、それは勇気じゃなくて蛮勇だよ。ジニーちゃんも死なせるつもりなの?」
トールの無謀な発言を絵理歌が嗜めた。
メリア湿地は高ランクの冒険者でも攻略の難しい危険地帯である。
まだまだ駆け出しの二人では、死にに行くようなものだろう。
自分が死ぬのは勝手だが、パートナーまで巻き込むなと絵理歌は言いたかったのだ。
「でも、俺はこの教会の出身で……でもジニーが……そうだ! 俺達を連れてってくれ! 絶対役に立ってみせる!」
「ええ……やだよ。足手まといは最大の敵になり得るし」
頭を下げて頼み込むトールだが絵理歌は即答で断った。
守るべきものが多いほど人は身動きが取れなくなる。
足手まといは実際に戦う敵よりも厄介な存在なのだ。
頭を地につけて誠心誠意お願いされても、大切な仲間を危険に晒すことはできない。
「分かった。どうやら頼んでも無駄みたいだな」
そう言ってトールは応接室を出て行く。
ジニーはぺこりと頭を下げて挨拶して後を追って行った。
絵理歌は「行っちゃダメだよ!」と声をかけるが返事は返ってこなかった。
「えりたんの今のセリフがフラグにならなきゃいいんだけど」
「ええ、私のせいになります?」
行くなと言ったら行きたくなる人間心理から史がフラグと表現すると、絵理歌は少し責任を感じてしまう。
「冒険者が死ぬのは実力不足だもの。えりたんのせいじゃないわよ。それに、まだ死んだ訳じゃないし大丈夫よ」
「そうですね……先走らなければいいんですが」
「あの……」
二人を心配する姿を見てマヤが口を開く。
「トール君とジニーちゃんはこの教会で一緒に暮らした家族なんだ。二人には死んでほしくないよ……」
マヤが教会の孤児について説明してくれた。
教会は孤児院も兼ねていて、成人とみなされる十五歳まで暮らすことができる決まりになっている。
大抵はそれまでに仕事を教会を出て行くのだが、二人は冒険者登録が可能な十二歳になると教会を出て独り立ちした。
絵理歌は二人の実力でやっていけるのか疑問に思うが、冒険者の仕事は迷宮探索や魔物討伐だけでなく、簡単な薬草採取や雑用まで多岐にわたる。
教会では戦闘訓練も行なっているので戦えない訳ではないがあまり強くない二人は、弱い魔物を飼ったり採取や雑用を中心に活動していた。
そんな時、自分達と歳の変わらないディステル会の噂が耳に入る。
「それで、ディステル会を倒して名を上げるんだってトール君が張り切っちゃって。マヤ達にいい物食わせてやるって言うんだけど、マヤは二人が怪我したりしないか心配だよ……。お姉ちゃん、二人を助けて……」
二人を心配するマヤの顔は再び暗くなる。
「マヤちゃんにそんな顔をされたら助けないって選択はないわね。みんなはどう?」
史の問いに絵理歌達は当然だと頷き返し、紅水仙の採取と二人の安全を約束して教会を後にする。
外に出るとトールとジニーが神妙な面持ちで絵理歌達を待っていた。
「これが最後のお願いだ。俺達を連れて行ってくれ!」
「放っておいて死なれたら約束を破ることになるし、いいわ、ついてきなさい。ただし、私達の指示に従うのよ」
「ほんとか? やったぜ!」
満面の笑みで飛び跳ねて喜ぶトールと不安そうなジニーを連れて、絵理歌達はメリア湿地に向かうのだった。
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