第28話指名依頼
冒険者ランク昇格試験で傷を負った絵理歌達は三日間の療養を余儀なくされる。
特に絵理歌と史の傷は深かったが、景の歌や治療魔法のおかげで三日で傷を癒す事ができた。
療養中にやってきた冒険者ギルド職員に、傷が癒えたらギルドにくるように言われていた為、全快した絵理歌達は冒険者ギルドを訪れていた。
ギルド内に入ると絵理歌達に視線が集まる。
初めて訪れた時も注目を集めたが、昇格試験での活躍でディステル会の名はダンデライオン中に知れ渡っていたのだ。
「皆さんお待ちしてました。ギルドマスターがお待ちですので奥へどうぞ」
「ギルマスに呼び出されるとは王道ね。難しい依頼でも頼まれるのかしら?」
「それ、フラグですよ史さん」
フラグを立てつつ応接室に入ると四十代ぐらいの男が待っていた。
髪のないつるつるの坊主頭に、一見すると太っているようにも見える体格だが、その体は鍛え抜かれた筋肉の鎧に覆われている為そう見えたのだ。
「待ってたぜディステル会の嬢ちゃん達。俺は冒険者ギルドダンデライオン支部のギルドマスター、タコスだ。よろしくな」
「えっタコさん?」
「タコスなんだが……まあ、好きに呼んでくれ」
ギルドマスターのタコスが禿げているのと名前との語感から晴香が失礼な発言をするが優しく流してくれる。
強面の見た目に反して人間ができているようだ。
「まずはお祝いを言わせてくれ。ディステル会諸君、Bランク昇格おめでとう。試験での戦いは素晴らしいものだった。そこで、君達の実力を見込んで頼みたい依頼がある」
さっそく史の立てたフラグを回収してタコスは依頼を頼んできた。
高ランク冒険者が受けることがある指名依頼だ。
「依頼内容なんだが、近頃行方不明の冒険者が増えていてな、人攫いの可能性があるから調査を頼みたいんだ。犯人はわざわざ冒険者を狙っているくらいだから高い戦闘能力を持っていると思われる。そうなればこちらも実力者に依頼しなければならない」
「それで私達が呼ばれた訳ね。いいわ、受けましょう」
タコスの持ってきた厄介そうな依頼を史が二つ返事で受ける。
普段周りの意見を聞く史にしては珍しい事だ。
「そうか、受けてくれるか! 君達が受けてくれるなら心強い。よろしく頼む」
「実力がない人が受けても被害者が増えるだけだろうし構わないわ。それに私、悪人って大嫌いなのよね」
正義を愛し悪を憎むのがディステル会会長、九条史なのだ。
そんな史だから絵理歌は尊敬していた。
「闇雲に探しても効率が悪いわ。行方不明事件について何か情報を掴んでないのかしら?」
「そうだな、ギルドが掴んだ情報によると近隣の町で吸血鬼による事件が発生している事から犯人ははぐれ吸血鬼の可能性が高いと思う」
「はぐれ吸血鬼?」
この世界の情報に疎い絵理歌達はタコスに吸血鬼についての説明を受ける。
吸血鬼は不死と言われるほど永い寿命に、人間よりも強い気と魔力を持つ種族である。
大陸の北方には吸血鬼の国があり、吸血鬼の女王ユナ・ネクタリン・ポラースシュテルンは地上最強と言われる存在である。
先代の王までは無秩序に強大な力を振るう恐ろしい種族だったが、先代を殺して女王になったユナは他国と交易する為に他種族に迷惑を掛ける行為を禁止した。
先代を殺しておいて何を言うと思うかも知れないが、吸血鬼の王は一番強い者がなるもので、王への挑戦権を掛けたトーナメントが開かれたりしているのだ。
しかし、吸血鬼族は力こそ正義とされる種族だが、自由を愛する種族でもある為、ユナに従わず国を出て好き勝手悪さをするはぐれ吸血鬼もいた。
ユナが女王なってから吸血鬼族は国を出て悪さをするはぐれ吸血鬼を取り締まっているのだが、広い世界の隅々まで目を光らせることはできない為、こうして各地で事件を起こす事があるそうだ。
「地上最強のユナ女王か……」
絵理歌は自分の夢である地上最強の称号を持つユナの名を呟く。
それを聞いたタコスがユナについて話す。
「気になるのか? ユナ女王はこちらから手を出さなければ仕掛けてくることはない理知的な方だと聞くな。二つ名は鬼を姫と書いて吸血姫だ」
「女王なのに姫なのおかしくない?」
ユナの二つ名に史がすかさずツッコミを入れる。
ツッコミ所は見逃さない、それが九条史なのだ。
「女王が誕生した際の定番二つ名らしいぞ」
「分かるわ、テンプレは大事だもの」
「……よく分からんが、うちで掴んでる情報は以上だ。よろしく頼むぞ」
こうして絵理歌達ディステル会はギルドからの指名依頼を受け、冒険者行方不明事件の調査を始めるのだった。
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