第27話大将戦決着
「甘く見ましたね。私の分銅鎖は気を流す事によって自由自在に操れるのですよ」
「く……がぁ……」
分銅鎖で首を締め上げられる絵理歌は呼吸ができず意識を飛ばしそうになっていた。
絵理歌の意識を飛ばすべく、ニルはさらに分銅鎖に気を込める。
(このままじゃ落とされる……。まずは分銅鎖をなんとかしなきゃ)
「おおおぉぉぉおお!」
絵理歌は臍下丹田に気を貯め凝縮し、一気に首に流し込む。
すると、首の筋肉がパンプアップして膨れ上がり分銅鎖を引きちぎった。
「かひゅっ……かはっ……はあ、はあ」
分銅鎖から解放された絵理歌は深呼吸を繰り返し呼吸を整える。それをニルは信じられないといった目で見ていた。
「はははっ、やりますね。いったいどんな魔法を使ったのですか?」
「巴理心流
巴理心流金剛筋。それは筋肉を一瞬だけ硬化させる技で、基本的には防御に使われる技である。
絵理歌はこの世界の気と、巴理心流金剛筋の技を合わせることで一瞬筋肉を肥大硬化させる事で分銅鎖を引きちぎったのだ。
締め落とすつもりだったニルは動揺を隠すようにポケットに手を入れ、その表情に笑みを張り付けていた。
(自然な動きで暗器を取り出したわね。油断ならない男)
「面白い、もっと貴方の技を見せてください!」
ポケットから暗器を取り出したのを見逃さなかった絵理歌は、ニルの手中の暗器を意識する。
対するニルはまたも独特な歩法で絵理歌を幻惑しつつ距離を詰めてきた。
「はっはっはっ、暗器は手中だけではありませんよ!」
パンチのフェイントから蹴りを放つニルの靴には刃物が仕込まれていた。
上段に放たれた蹴りをダッキングで躱すと、回転して放ってきたニルのボディブローを腹で受け止めた。
暗器の可能性を考えると受けたくはないが、胴体への攻撃を躱すのは難しい。
腹の打たれ強さには自信がある為受け止めた絵理歌は刺すような痛みを感じる。
(ここで手中の暗器!? 恐らく小さな刃物を握り込んでるわね。それなら――)
「何! 抜けな――」
絵理歌は金剛筋で腹筋を収縮させて暗器を引き抜くのを妨害しニルの動きを止めると、髪を掴んで顔面に膝蹴りを叩き込むが腕でガードされる。
ニルは逆の手で絵理歌の腕を殴り拘束を解くと一度距離を取った。
殴られた絵理歌の腕からは鮮血が舞い腹には血が滲む、ニルは両手に手の内に隠せるほど小さな刃物を握り込んでいたのだ。
「本当に強いですねぇ。私とここまで渡り合える人間がこの国にいるとは思いませんでしたよ」
「貴方もね。でも、ここからは私のば――」
上機嫌に話すニルに言葉を返そうとした絵理歌だが、突然眩暈に襲われ地面に膝を付いた。
(血を流しすぎた? この程度で? ――まさか毒!)
「どうやら暗器に仕込んだ毒が効いてきたようですね。死ぬような毒ではありませんので心配はいりません。少し体が動かなくなる程度の麻痺毒です。さあ、ここからが殺戮の始まりですよ!」
体が痺れ意識は朦朧とする絵理歌は、ニルの攻撃に防戦一方となり苦戦を強いられてしまう。
そんな絵理歌を見守る仲間達が――、
「エリちゃん頑張れ!」
「えりたん、貴方は私達の大将なのよ!」
「絵理歌さんは副将ではなかったかしら?」
「ねむちゃん! あたしがあんな化物にタイマンで勝てるかよ! 頑張れ絵理歌ちゃん!」
声援を送る仲間達の声に絵理歌の心は熱く燃え立ち上がる。
(みんなが私の勝利を信じてくれている……。体が痺れて動かないのなら……気で無理やりにでも動かしてやる! 体がNOと言っても……私はYESと言うわ! 地上最強になる為には……こんなところで負ける訳にはいかないのよ!!)
「まだ戦いますか。では、もう一度麻痺毒を食らわせてあげましょうか!」
ここがチャンスと決めにきたニルに、全身に気を張り巡らせた絵理歌は反撃に転じる。
深く踏み込んで右ストレートを撃ってきたニルにライトクロスを合わせた。
「がはっ」
ニルは深く踏み込んだにもかかわらずスリッピング・アウェー(パンチの伸びる方向と同じ方向に顔を背けて衝撃を和らげる技)でダメージを最小限に抑える。
(スリッピング・アウェーで衝撃を殺された!)
「くそあまがあ!」
思わぬ反撃を受けたニルは激昂して返しの左フックを放ってくる。
ここがチャンスと見た絵理歌は――、
「おらあっ!」
左フックをダッキングで躱した勢いのまま回転し、ブラスターソード(回転バック肘打ち)をカウンターで叩き込む。
顎を砕いた手応え感じた絵理歌は体制を整えると残心を取った。
「そこまで! 勝者ディステル会、巴絵理歌!」
ニルの失神を確認したレフリーは試合終了と勝ち名乗りを上げた。
「うおおおぉぉおお! ディステル会の嬢ちゃんやりやがった!」
「モーニンググローリーのニルって言ったらこの国でも有数の手練れだぜ!」
絵理歌の勝利に会場に集まった観客は沸き上がり、激闘を制したディステル会の面々に歓声を送った。
「エリちゃああぁぁああん! ほんとにほんとに心配したよおお!」
「晴香……手こずっちゃってごめん。この人本当に強かったよ」
試合場に飛び込んできた晴香を抱きとめると、すりすりすりぷにぷにぷにと頬擦りしてくる。
晴香が本気で心配していたと感じた絵理歌はしばらくされるがままにする事を許したが、おっぱいをぷにぷにしてきたところで頭を叩いて止めさせた。
こうして冒険者ランク昇格試験は幕を閉じ、完全勝利したディステル会はBランクに昇格する事となった。
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