第25話副将戦
「えりちゃん、次もウチが戦っていいよね?」
「オッケー、大将戦は交代してよ!」
次の副将戦も連戦して良いか絵理歌に確認するとオーケーの返事が返ってくる。先程の戦いは魔法使いとの近距離戦だったため、あっけなく終わってしまい不完全燃焼だったのだ。
遠距離からなら魔法使いは一方的に攻撃できるため強いが、近接戦闘に持ち込まれると強くない。
そのため晴香は次の副将に狙いを付けた。試合場に上がってきたモーニンググローリーの副将は剣一本しか持っていない、筋骨隆々な背の高い男だ。おそらくは生粋の剣士だろう。
この世界の剣士とまだ戦ったことのない晴香は、異世界の剣士がどんな技や戦いを見せてくれるのか考えると胸が甘くなる気がした。晴香は自分も強い相手と戦うのが好きなんだなとつくづく思う。
「俺の名はドリアン。先程の戦いは実に見事だった。近距離からの戦いとはいえ、マリーに勝てる剣士はそういない」
「お兄さんもかなりやりそうだね。立ち姿を見ただけで身体能力の高さが伝わってくるよ」
ドリアンはしなやかなバネがありそうな筋肉が見事にビルドアップされた美しい体つきをしていた。天性の身体能力に努力で筋肉を付けたのだろう。
これほどの男がどんな剣を使うのか、試合開始を待つ晴香は心が躍る。
「モーニンググローリー副将ドリアン! ディステル会中堅出雲春香! 準備はいいな? それでは、始めい!」
二人は試合開始時の位置から動かずに武器を構え様子を見ている。剣術の基本通り中段に構えたドリアンに対して脇構えの晴香。
動かない二人に焦れた観客からヤジが飛ぶ。
「いつまで見合ってんだ!」
「お見合いか! このデカブツのロリコン野郎!」
酷いヤジで顔に青筋を立てるドリアンから動き出し、鋭い踏み込みから袈裟斬りに振り下ろした。脇構えの晴香は刀で受けることはせずに体さばきで躱すと、躱した勢いを利用し回転して斬りつける。回転の遠心力で威力が上がった斬撃をドリアンは剣を立ててガードする。
両者深追いはせず一旦距離を取り、中段と脇構えにそれぞれ戻った。
「ウチの回転斬りを受けるなんて、やっぱり強いねお兄さん」
「お前もな出雲春香。だが、マリーを倒した技のスピードはもっと速かったぞ」
「へー、あれを受けたいんだ。じゃあ見せちゃおうかな!」
倒れ込みそうな程の前傾姿勢を取りながら気を練る晴香が強烈な踏み込みで地面を蹴って突っ込むと躱すのは不可能と判断したドリアンは腰を落として防御の構えを取った。
ドリアンが一陣の風を感じた瞬間強い衝撃を受けて体が宙を舞う。辛うじて見えた動きに経験による予測で刃を合わせることにより、斬撃を受けることはできたが衝撃で吹き飛ばされてしまう。
追撃を警戒して素早く立ち上がるドリアンだが、晴香は追撃には行かず肩で息をしていた。
「恐ろしい技だが、一度目は見て、二度目は自分で受けてみてこの技の仕組みが分かったぞ。風魔法によって加速を付けた突進技だな? 体への負担は相当なものだろう?」
「ウチの一陣の風の仕組みがよく分かったね。お兄さん目が良いんだ」
仕組みが分かったところで破れるかは別問題だが、一陣の風には一つ欠点があった。一瞬で突風を生み出す魔力消費の高さと、突風受ける体のダメージだ。
一陣の風を二回使った晴香はかなり消耗していた。
(正直しんどいし、後はえりちゃんに任せて休みたいところだけど、ウチが勝つって信じて疑わないあの顔を見ちゃうと引けないよね……期待には応えなきゃね!)
チラリと仲間の方へ顔を向けると晴香の勝利を信じて疑わない仲間たちの顔が見える。真っ直ぐに見つめてくる瞳に少し顔が赤くなるが力を貰えた気がした。
「ドヤ顔のところ悪いけど、体も痛いし次で決めるよ。仕組みが分かったところで破れないでしょ?」
「こい! 破ってみせるぞ!」
晴香はもう一度極端な前傾姿勢からの突進技、一陣の風を繰り出す。だが本日三度目となると疲労の為か少しスピードが落ちてしまいドリアンの目を振り切ることができない。
だが、ドリアンは驚きの表情を見せる。晴香の向かう先が自分ではなくズレた場所だったからだ。
晴香は一度ドリアンの斜め後ろに着地すると、もう一度一陣の風を発動させて背中から袈裟懸けに斬りつけた。
殺さないように峰打ちだったが一陣の風の破壊力は凄まじく、ボキボキと鎖骨と肩甲骨が折れた手応えを感じる。
斬撃によって吹き飛ばされたドリアンは、意識こそあるが立つことはできなかった。
「勝者ディステル会出雲晴香!」
レフリーが戦闘不能と判断して勝ち名乗りを上げると、観客席から見事な戦いを見せてくれた二人を称える大きな歓声が上がった。
手を振って歓声に応える晴香は倒れるドリアンに話しかける。
「ドリアンさん、本当に強かったよ。またやろうね」
「……勝てる自信がついたらお願いする」
この世界の剣士と戦うことで晴香はより強くなれたと感じる。それは戦う相手がいてこそのものなので、ドリアンに感謝の気持ちを伝えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます