第24話中堅戦
「ごめんみんな。試合には勝ったけど交代させて」
史は絵理歌たちのもとに戻ると交代を願い出てきた。
気も魔力もかなり消耗しているし、肩の傷も浅くはないので早急に手当てが必要なため連戦は無理だろう。
「史さん、凄い試合でした。後は私と晴香に任せてゆっくり観戦してください」
「史ちゃん先輩の試合でウチ感動しちゃったよ。何だか今凄く戦いたい気分なんだ」
「史さん……わたくし、涙が止まりませんの。感動をありがとうですわ!」
「あたしもだぜねむちゃん! 史パイセン、良い物見せてくれてありがとう!」
絵理歌たちが戻ってきた史の健闘を称え次々と声を上げる。みんなの心に感動を与える戦いを魅せることができて史も満足そうに笑顔になった。
喜びを分かち合っているとレフリーから中堅が呼ばれる。
「それじゃあみんな、行ってくるね」
「ハルキャンは強いから私から言うことは一つだけよ。殺さないようにね」
「そうだよ晴香。殺さないよう気を付けて」
「えーっ! ウチの心配もしてよ!」
殺さないようにと言うアドバイスと言えるか分からないアドバイスを貰い試合場に上がると、モーニンググローリーの中堅が準備万端で待っていた。
対戦相手はモーニンググローリーの紅一点。唯一の女性メンバーで、杖と魔法使い風のローブを着てた歳は二十代前半程の女性。
「待ちくたびれたわ。私はマリーよ。さあ、試合を始めましょう」
「ウチは
マリーは何を言ってるのか分からないような怪訝な表情を浮かべる。そんな顔を見て、晴香は少し残念そうな表情になった。
少し会話を交わしたところでレフリーが開始の号令を上げる。
「それでは、両チーム正々堂々と戦うように。中堅戦、始めい!」
始めの号令と同時にマリーが魔力を練り上げると、体から赤い火の魔力が迸る。
晴香は自然体で立ち、マリーをただ見ているだけだ。
「どうしたの? 私の魔力にビビっちゃった? 無理もないわ。私はダンデライオンで一番の魔法使いだもの」
「もう始まってるよね? 斬ってもいい?」
「むかーっ! この小娘が! 斬れるもんなら斬ってみなさいよ!」
マリーは怒りを露わに複数のファイアボールを放つが、晴香は向かってくる火球を素早い抜き打ちで全て斬り落とした。
マリーは放ったはずのファイアボールが敵に当たらず、明後日の方向に割れて飛んで行ったことに呆然とする。晴香の抜き打ちを目で追うことができず、何が起こったか理解できなかったのだ。
「何で私のファイアボールが当たらないのよ! おかしいでしょ! 貴方何かインチキしたわね!」
「え~っ! インチキなんてしてないよ。ただ火球を斬っただけ」
「私のファイアボールはそんじょそこらの火球とは違うのよ! 魔力量がダンチだからね! だから斬るなんておかしいの! インチキなの!」
マリーは顔面に青筋を立て、それなりに整った顔を歪ませながら次の魔法を放った。炎の範囲攻撃魔法ファイアストームだ。
かつて史がモンスターハウスで使用したことがあるが、あの時は一発で魔力切れを起こしていた。マリーに魔力切れの様子が見られないところ、魔力量が多いと言う話は本当なのだろう。
マリーは勝利を確信して薄ら笑いを浮かべるが、ファイアストームの炎が切り裂かれる光景を見て愕然とした表情に変わった。
「あらあらあら、今度はどんなインチキを使ったのかしら? ――まさか……幻術魔法の使い手なの?」
「だから斬ったんだって! 今のはちょっと火傷したけど。もういいや、終わらせるよ」
幻術と勘違いしたマリーに晴香は少し呆れたような表情で終わらせると宣言し、倒れ込みそうな程の前傾姿勢から強烈な踏み込みでマリーへと突っ込んだ。
あまりのスピードに晴香の姿を見失ったマリーが一陣の風を感じると、腹に強い衝撃と痛みを感じて息が詰まり倒れ込む。晴香の刀の柄頭が腹にめり込んでいたのだ。
腹を打たれて倒されるのは地獄の苦しみと表現される程に苦しい。呼吸困難なのに意識がはっきりしているため苦しみが倍増するのだろう。
だが、内臓破裂や肋骨を痛めるなどの怪我をしなければ、頭を打つよりも敵に大怪我をさせることなく安全に倒すことが可能なのだ。
今回の試合は殺し御法度なルールのため、晴香は敵を斬らずに腹を打って倒した。
「マリー選手! ギブアップ? ギブアップ?」
「ノ……ノーギブアップよ」
レフリーが戦意を確認するとまだ戦う気があるようだ。それを聞いた晴香は、しょうがないなあと言う表情で蹲るマリーの首筋に刀を突きつけた。
「お姉さん。まだやるの?」
「ひぃっ……ま、負けました」
「勝負あり! 勝者ディステル会出雲春香!」
マリーの降参によって、レフリーは声高に晴香の勝利を宣言した。
実力のある魔法使いとして知られるマリーを圧倒した姿に場内が鎮まる中、晴香は蹲るマリーに歩み寄る。
「マリーさん、あのダメージでギブアップしなかったのは凄いよ。ナイスガッツだね」
「ありがとう。貴方強いわね、手も足も出なかったわ」
マリーを助け起こす姿に、観客席から両者の健闘を称える割れんばかりの拍手が起こるのだった。
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