第23話次鋒戦

「俺の相手はお前か、俺はジャギーだ。女、お前の名前も聞いておいてやる。覚えてやるかは分からんがな!」


「あらあら、名前も覚えられないなんて脳味噌スポンジなのかしら? 一応名乗っておくわ。私は九条史くじょうふみ。苦情は九条まで、なんてね☆」


 史の対戦相手は試合前に言い合いをしていた相手だった。試合場でも突っ掛かってくるジャギーに対して、ユーモアを交えて答えてやる史には強者の余裕を感じる。

 試合場に上がった二人はお互いから目を逸らさずに試合開始の時を待つ。


「お前たち、諍いは試合での力に変えろよ。……それでは、次鋒戦始めい!」


 レフリーが試合開始の号令を上げると、開始前の舌戦が嘘のように二人は静かに武器を構えた。


「ふんっ! まさかお前も槍使いとはな」


「お前じゃなくて九条史よ。言わないなら何で名前聞いたのかしら」


 奇しくも二人の武器は槍と槍。史は通常サイズの長さだが、ジャギーの槍は少し短めのサイズだ。

 まずは互いにジリジリと距離を詰めつつ様子を窺う。史は自分の槍の方がリーチが長いことを確認するとジャギーの間合いの外から連続して突きを放つ。

 ジャギーは連続突きをバックステップとパリィで回避しつつ、突きの引きに合わせて飛び込んできた。突きで前傾姿勢になっていた史は槍を引いては間に合わないと判断し、槍を回転させて柄で攻撃を弾き飛ばした。


「なんだ、口だけの女かと思ったがやるじゃねえか」


「女じゃなくて九条史よ。いい加減覚えなさい。貴方も口だけかと思ったらやるじゃない。今のはヒヤッとしたわ」


「ふんっ! 俺に勝てたら覚えてやるよ!」


 ジャギーは叫ぶと同時に前に出て、史の間合いの外から突きを放ってくる。ジャギーの槍では届くはずもない間合いからの攻撃に史は困惑しつつも、念のため回避の動作を取ると槍が伸びてきた。気を飛ばして攻撃したのではなく物理的に伸びた槍に回避が間に合わず、肩から鮮血が舞う。

 肩に傷を負いながらもジャギーの槍を見ると、ヌンチャクや三節混のように折れた持ち手が鎖で繋がっている特殊な武器に変化していた。


「ちっ! 浅かったか。俺の連結槍の初撃を受けてその程度で済むとはな」


「連結槍って見たまんまじゃない」


(とはいえリーチが読めない厄介な武器ね。取りあえず私よりもリーチが長いなら距離を詰めなきゃ始まらないか)


 遠距離は不利と判断した史はファイアボールで牽制しながら間合いを詰めて行く。

 それに対してジャギーは広い円形の試合場を上手く使い後ろに下がりながらファイアボールを躱し、連結槍で攻撃する。史の攻撃は届かず自分だけが攻撃できる間合いをキープしていた。


「はっはっはー! どうしたどうしたー! そんなんじゃ名前なんて覚えてやらんぞ!」


「うるさいわね! 別に覚えて欲しくないわよ!」


「史さん落ち着いて! 相手のペースに乗ったらダメですよ!」


(それもそうね、えりたんの言う通りだわ。まずは私の槍が届く距離に入らなきゃいけないわね。そのためにはどうするか、考えるのよ私! 後輩にかっこ悪いところは見せられないわ!)


 史は考えを纏めると一旦距離を取り気を練り始める。

 ジャギーは気を練らせまいと攻撃してくるが、防御に専念した史に致命傷を与えることができないでいた。


「オラア! そんなに縮こまってどうしたよ女!」


「もうそんな見え透いた挑発には乗らないわ。それと、私は九条史よ!」


 気を練り終えた史はタンタンコロリンの槍に気を最大に込めて、連結槍に狙いを定め振りぬいた。武器破壊こそできなかったが、武器を弾かれたジャギーは大きく体勢を崩す。

 史の狙いは気を貯めた強力な攻撃で相手の武器を打ち、できれば武器破壊か武器を手放させること。悪くても体勢を崩して隙を作ることであった。


(狙い通りよ! ここで決めるわ!)


 チャンスと見た史は体勢を崩したジャギーの肩と太腿を狙った三段突きを繰り出す。大きく隙を作ったジャギーに史の槍が唸りを上げて襲い掛かり右肩と両太腿を貫いた。

 こちらの世界ではポーションや回復術があるためなかなか人は死なないが、殺さないために致命傷にならない位置を攻撃するあたりは史の優しさだろう。


「勝負あり! 勝者ディステル会九条史!」


 レフリーが戦闘不能と判断して勝ち名乗りを上げる。

 史は正直もっと楽に勝てると思っていたが、高ランク冒険者が自分に手傷を負わせるほど強かったことに少しの驚きと嬉しさが湧いてきた。それは武術家としての本能なのだろう。

 史はジャギーの傍に行き話しかける。


「ジャギー、貴方なかなか強かったわよ。何度も危ない場面があったわ」


「はっ! お前もな、九条史。いつかリベンジしてやるからな」


「やっと名前を覚えたわね。リベンジなら何時でもいらっしゃい。もちろん、私はもっと強くなるからリベンジなんてさせないけどね」


 二人は握手を交わして試合場を下りる。初めはいがみ合っていたが、戦いを通して互いに認め合っていたのだろう。二人の健闘を称える拍手が観客席から降り注いだ。

 次鋒戦、激戦を制したのはディステル会、九条史。

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