第22話冒険者ランク昇格試験先鋒戦

「あいつらバチバチじゃねえか!」


「モーニンググローリーの連中は悪い噂があるからな。ディステル会の嬢ちゃんたちに勝ってほしいぜ」


「ねえねえ、ディステル会の装備可愛くない?」


「わかるー! わたしもあんな装備ほしい!」


 煽り合いで始まった冒険者ランク昇格試験に会場も盛り上がりを見せる。

 どうやら新参者のディステル会に声援が集まっているが、モーニンググローリーの高圧的な態度を見れば納得できる。実力があるからと威張っていれば嫌われるのは当然だ。


「新入りがでかい口叩くじゃねえか。もう怪我じゃすまねえぞ!」


「あら、怪我ですまないのはどちらかしらね」


「お前らいい加減にしろ、没収試合にするぞ!」


 舌戦が止まらない両陣営にレフリーのギルド職員が見かねて止めに入る。

 静かにはなったが睨み合いが続く中、レフリーが今回の試験試合のルール説明をする。


「今回の試験はディステル会の実力を見るために、Bランク冒険者であるモーニンググローリーと五体五の勝ち抜き団体戦形式で一人ずつ戦ってもらう。ある程度の怪我や魔法はポーションで治せるが、あくまでも試験だから殺しはするなよ。武器は自前の物で構わない。それでは両陣営別れて先鋒は前に出るように」


 試験試合はスポーツの勝ち抜き団体戦形式で行われる。絵理歌たちは話し合いの結果、先鋒ねむ、次鋒史、中堅晴香、副将絵理歌、大将景の順番になった。戦闘能力のない景まで回さずに終わらせる作戦だ。


「両チーム先鋒前に!」


「それでは行ってきますわ」


「ねむさん、後ろには私たちが控えてるから無理はしないでね」


「ありがとうございます。無理はするかもしれませんが無茶は致しませんわ」


 先鋒が呼ばれ、ねむは試合場に向かう。

 対戦相手の剣と盾を装備した男は、ねむを見るとニチャアと醜悪な笑みを作った。


「ねむちゃん気を付けなさい! あれは犯罪者の顔よ!」


「誰が犯罪者だオラア!」


「いい加減にしろ! 試合で決着をつけるんだ」


 対戦相手の醜悪な笑みに堪らず史が警戒するよう叫ぶと男も言い返す。収拾がつかなくなる前にレフリーが止めに入った。

 絵理歌が史の顔を見ると、本気でねむを心配している表情をしている。


「それでは、先鋒戦始めい!」


 レフリーの号令で試合が始まった。

 開始と同時に男はねむに向かってダッシュしてくるが、ねむは後ろに下がりながらグロックを連射して男の動きを止める。

 盾と防具をうまく使い急所を守っているところはさすが高ランク冒険者だ。


「はっ! やるじゃねえかデカ乳女」


「減らず口叩いてんじゃねえぞですわ! ハチの巣におなりなさい!」


 速攻に失敗した男は一旦距離を取り回避に専念する。

 景の燐光による身体強化を受けていないため、ねむのスピードと反応速度が遅くなっていて魔力弾が当たらない。

 モーニンググローリーの先鋒は魔力切れを狙っているのだろう。


「ねむさん! 相手は持久戦に持ち込んで魔力切れを狙ってるよ! 無駄撃ちはしないで!」


「そう言われましても、撃たなければ距離を詰められてしまいますわ!」 


 グロックの連射を躱し続ける男を近づかせないため、弾幕を張るねむの魔力はたちどころに減っていく。

 男はねむの魔力が低下して魔力弾の威力が下がると徐々に距離を詰めて来た。


「この、近寄らないでくださいまし! 下がれ下郎ですわ!」


「誰が下郎だクソアマが!」


 男は威力の下がった魔力弾を受けながら飛び込み、タックルを決めてテイクダウンするとマウントポジションを取る。ねむを見下ろす顔には下卑た笑みが張り付いていた。


「さあ、これからレフリーが止めに入るまで俺のおもちゃになってもらうぜ」


「キャー! 痴漢! 変態! 犯罪者! 離れろですわ! ……なーんて、引っ掛かりましたわね!」


 ねむはホルスターから紫色の大型拳銃デザートイーグルを抜き、銃口を突き付け撃ち抜いた。

 男はデザートイーグルの魔力弾を受けて場外まで吹っ飛びピクピクと痙攣し、ねむはデザートイーグルの衝撃で頭を打ち、痛そうに転げ回る。

 何とかねむが立ち上がるとレフリーが勝ち名乗りを上げた。


「勝者ディステル会薊ねむあざみねむ!」


「ディステル会が勝ちやがった!」


「嬢ちゃんがひどい目にあわされなくて良かったぜ」


 ねむの勝利に観客席から安堵の声が上がる。

 モーニンググローリーの素行の悪さは有名だが、ギルドに証拠を掴ませない狡猾さを併せ持っていたためこれまで処罰されずにいたのだ。


「ねむちゃんお疲れ様、はらはらしたわよ」


「普通にデザートイーグルを撃っても躱されそうでしたので罠を仕掛けましたの。史さん、後はお任せいたします。わたくしはもう体も魔力も限界ですわ」


 ぐったりするねむを景が支えて休ませる。連戦は無理だろう。


「頑張ったわね、後は任せなさい。……それにしても、ギルドはなんであんな半グレ集団を試験相手に選んだのかしら」


「本当ですよ。今も危うく乱入するところでした」


 絵理歌は危ないと判断したら止めに入るつもりでいた。

 モーニンググローリーの先鋒が武器を使わず抑え込みに来たのはおそらく無力化して嬲るつもりだったのだろう。レフリーがいるのですぐに止めに入るとは思うが、絵理歌は友人が嬲られるのを黙って見ていることなどできない。


「史さん、奴らかなりイカれた連中みたいです。気を付けて下さい」


「えりたんまで私の心配? ディステル会会長の実力、魅せてあげるわ。じゃあちょっと行って来るわね」


 ちょっとコンビニ行って来るみたいな乗りで、史は試合場に向かうのだった。

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