第21話魔鉄製武器の完成

「いらっしゃい、待ってたぜ! て……みんな可愛い装備だな。ここらじゃ見ないファッションだけど凄く良いよ」


「ありがとうリリーちゃん。注文してた装備ができたから着替えて来たんだ。故郷の服をアレンジしたデザインなんだ」


「みんな似合ってるぜ。武器はできてるからついて来てよ」


 ロータス武具店にやって来るとリリーが元気に迎えてくれる。絵理歌たちの新しい戦闘服バトルクロスに驚いているようだ。みんな頑張って自分でデザインしたので褒められると嬉しくなる。

 リリーに連れられ鍛冶場へ行くとロータスが待っていた。


「よう嬢ちゃんたち。刀と槍はできてるが試し斬りして行くかい? 確認は必要だろう」


 ロータス武具店は鍛冶場の奥に裏庭があり、ここで作った武器の試し斬りを行っているそうだ。

 裏庭にやってきた絵理歌たちは、晴香から試し斬りをすることになった。


「これが魔鉄製の刀かあ。直刃の綺麗な刃文……」


「的はこいつを使ってくれ」


 刀の輝きに恍惚の表情を浮かべる晴香に絵理歌たちは若干引くが、晴香が人斬り大好きな殺人鬼にならないことを願うしかない。

 ロータスは試し切りの的に太めの薪を持ってきて切り株の上にセットした。置いただけで固定していないため難易度の高い試し斬りである。


「じゃあ行くよー」


 晴香が一瞬で刀を抜き放ち薪を斬りつけると「ズズズ」と薪はゆっくりと斜めに分断された。晴香はすでに納刀を終えている。


「木剣より気を流しやすいし良い刀だね。扱いやすいし見た目もかっこいい、気に入ったよ」


「晴香ちゃん凄え! 剣を抜く瞬間が見えなかったぜ。気づいたら薪が斬れてて剣は鞘の中だもんな」


「私もほとんど目で追えなかったわ。腕を上げたわね晴香」


「気で身体能力を強化してるからね、前よりダンチで速いと思うよ」


 晴香の抜き打ちの速さにリリーは驚きを見せる。絵理歌ですら抜刀から納刀まで晴香の動きを目で追うのが困難なほどのスピードだったので無理もないだろう。

 新しい刀は気を流しやすく身体強化と合わせることで凄まじいスピードを生み出した。新刀は晴香も満足するできのようだ。


「やるわねハルキャン。じゃあ次は私の番ね」


 史が前に出て槍を構え気を練り上げていく。史が突きを繰り出すと「カカカッ」と小気味いい音が響き槍が的に突き刺さっていた。音と穴が三つだったのは史の得意技、一瞬で三回の突きを繰り出す三段突きだ。

 過去に晴香が「技名の頭に神速とか高速とか付けた方がかっこよくない?」と提案したことがあるのだが史は「私の三段突きはまだそこまで大層なものじゃないわよ」と断っていたが、今の史の三段突きならば改名しても良いかもしれない。


「まだ終わりじゃないわよ。ヒートバースト!」


 史が技名を叫ぶと槍に火の魔力が流れ突き刺さっていた薪が爆発した。

 魔鉄とタンタンコロリンの木材を使用して作られた槍は気と魔力の親和性が高いため、力を乗せやすいし耐久性能も高い。気と魔力両方を使える史は槍に火の魔力を流して薪を爆破したのだ。


「槍ができたら試そうと思ってた魔法槍よ。奇麗な花火が上がったわね。てっ、ちょっと破片が飛びすぎよ! みんな消火よ消火!」


「おいおい史ちゃん、あたしの家を燃やさないでくれよ」


 史が爆破した薪の破片が辺りに飛び散り危うく火事になるところだったが、素早く消火したため事なきを得る。


「ロータスさん、リリーちゃん! 本当にごめんなさい!」


「大事にならなかったから気にするな。それより槍はどうだい?」


「槍は凄く良い感じよ。赤い柄もオシャレで気に入ったわ」


 史は新技でボヤを起こしたことを謝るがロータスは見た目とは裏腹に寛大だった。

 史も新槍を気に入ったところで試し斬りを終了する。

 ロータスは戦士の技を見るのが好きで、腕の立ちそうな戦士には試し斬りで技を見せてもらっているそうだ。「良いものを見せてもらった」と感謝された。


「じゃあねリリーちゃん。また遊びに来るよ」


「絶対だぜ。試験頑張ってくれよ!」


 ロータス武具店を後にし冒険者ギルドに向かう。戦闘服と新しい武器を手に入れて次はランク昇格試験だ。




 冒険者ギルドに到着するといつもより明らかに人が多く賑わっている。絵理歌たちは担当のビオラを見つけ声を掛けた。


「皆さんお待ちしてましたよ。それじゃあ試合場に向かいましょう。ギルド内の皆さんもディステル会が到着しましたので観戦希望の方は試合場に向かってください!」


「待ってたぞディステル会! 今日は魅せてもらうぜ!」


「嬢ちゃんたちなんか凄え可愛い服きてるぞ!」


「本当可愛い服ね、私もほしいわ!」


「今日はいけすかねえモーニンググローリーの連中をぶっ倒してくれよ!」


 ビオラが大声でギルド内に呼びかけると歓声が上がった。みんな観戦に集まった冒険者のようだ。

 絵理歌たちはビオラに連れられギルドに併設された闘技場にやってきた。


「ビオラさん、試験は練習場でやるんじゃなかったの?」


「それが期待の新星ディステル会が公開昇格試験を行うと聞いた町の住民や冒険者から観戦希望が殺到しまして、会場をより大きな闘技場に変更したんです。皆さん娯楽に飢えてますから」


 娯楽の少ない世界なのでこういったイベントをみんな楽しみにしているのだろう。娯楽の多い日本でも格闘技イベントに人は集まるのだから納得である。

 闘技場は中央を舞台とし、その四方を囲むようにすり鉢状の観客席を配した円形闘技場。到着すると住民や冒険者が集まり満員御礼だ。試合場には本日の対戦相手である高ランク冒険者モーニンググローリーが待っていた。


「おらあ! 新人のガキどもが先輩様を待たせてんじゃねえぞ!」


「あらあら、小物ほど良く吠えるものなのよ、アサガオパ・イ・セ・ン☆」


 大声を上げたモーニンググローリーの男に史が煽り返す。絵理歌は景が切れる前に史が言い返してくれて良かったと思った。しかし……。


「じゃかしい三下があ! ちぎって投げるぞ、絵理歌ちゃんがな!」


「えっ私?」


「そうです! 下がれ下郎ですわ!」


「斬り捨て御免だぞー!」


 1900wの業務用電子レンジは止まらない、やはりすぐ熱くなる。ねむと晴香も乗っかり煽り合戦が始まった。

 どうやら昇格試験は喧嘩マッチになりそうだ。

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