第19話VSヘルハウンド

 絵理歌がヘルハウンドと戦っている間に晴香たちはお供のハウンドとオーガを倒し、絵理歌の戦いの観戦をしていた。


「そこだー! いけーエリちゃん!」


「えりたん! 炎には気を付けるのよ!」


「やっちまえですわ絵理歌さん!」


「絵理歌ちゃんあたしらが付いてるぜ!」


 仲間たちが死闘を繰り広げる絵理歌に声援を送るが、景も歌うのを止めて応援に回っているため四色の燐光のバフもない素の状態で絵理歌は戦っている。もっとも絵理歌は自分の力でヘルハウンドを倒したいと思っているので望むところなのだ。


 ヘルハウンドは火球、爪牙、体当たりなど多彩な攻撃を繰り出すが、絵理歌はどの攻撃も躱すか気を纏った拳足で受けてみせた。

 絵理歌はヘルハウンドの周りをサークリングして隙を窺う。

 ヘルハウンドは火球が当たらないとみると、火球の時よりも深く息を吸い込み火炎ブレスを吐き出した。


(範囲が大きい! これは躱せないわね)


 ブレスを躱せないとみた絵理歌は、気を最大出力で放出して守りの体勢に入る。

 ヘルハウンドは動きの止まった絵理歌に火炎ブレスから噛みつきの連続攻撃を仕掛けてきた。


(一気に決めに来たわね! でも、私のチャンスでもあるわ」


 絵理歌は左腕をヘルハウンドに噛みつかせて動きを止めると、ヘルハウンドの顎に下から右肘を打ち上げる。

 一瞬怯んだヘルハウンドに腕を噛ませたまま背負い投げで地面に叩き付けると同時に、首に全体重を乗せた右肘打ちを落とす。

 ヘルハウンドが血を吐き出して絶命すると迷宮に吸収された。

 ドロップアイテムはヘルハウンドペッパー。ヘルハウンドの魔石。


「巴理心流肘落とし。決まって良かったわ」


「やったねエリちゃん!」


「技名そのまんまじゃない」


「わたくしは分かりやすくて良いと思いますわ。絵理歌さん腕は大丈夫ですか?」


「回復はあたしに任せときな!」


 巴理心流肘落としとは、投げと同時に肘を落とす技だ。膝を落とせば膝落としになる。投げと打撃の衝撃が地面とサンドイッチになり逃げないため非常に危険な技だ。


(こんな危険な技、この世界にこなければ全力では使えなかった。血反吐を吐いて身に付けた技を何の躊躇いもなく、全力で繰り出せる事は、武術家にとって至上の喜びだわ)


 人に使うのは危険なため、今まで本気で肘落としを使ったことがない絵理歌は、修めた技を何の遠慮もなく、本気で繰り出せる喜びに心が震えるのだった。

 ドロップアイテムを回収して絵理歌たちは六階層に向かう。


 六階層は背の低い草が生い茂る草原ステージ。絵理歌たちはここで探索を切り上げて帰還することにした。

 傷は景の歌で癒えたが気と魔力は消耗しているし、精神的な疲労は取れないからだ。




 冒険者ギルドで本日の戦利品を換金すると金貨四十五枚ほどになった。迷宮も五階層まで行くとかなり稼げるようになるようだ。

 換金を終えると担当のビオラに話があるので一緒に応接室へ来るよう言われた。


「会議の結果、ディステル会の皆さん程の実力者をGランクで遊ばせておくのはギルドの損失になると判断されましたので、ランク昇格試験を受けてもらいます。試験の結果で判断しますがB、C、Dどれかのランクに飛び級してもらうことになりました」


 絵理歌はビオラの話に得心する。

 ボクシングのプロテストも普通は受かればC級ライセンスを取得するが、アマチュアや他の格闘技で結果を出している人間はB級テストを受けることができるし、空手なら他流派経験者は審査で飛び級することもある。

 実力のある人間を遊ばせておくのはもったいないのだ。


「飛び級は嬉しいんですけど、私たちにデメリットはないんですか? 例えば強制依頼が来たりとか」


 絵理歌たちにはシスル女学園関係者を探すと言う目的があるので、強制依頼で自由がなくなるのは困る。しかし名声を上げれば向こうから絵理歌たちに接触してくる可能性もあるので難しいところだ。

 史の質問はそこを気にしてのものだろう。


「強制依頼は魔物の大量発生など緊急時に発令されるものですから、低ランクも全員参加になります。高ランクになって有名になると指名依頼は入るようになりますね。報酬が高いので稼げますよ」


 メリットの方が多いし、どちらにせよ試験は強制のようである。五日後の昼に試験をするので必ず来るようにとのことだ。

 絵理歌たちは冒険者ギルドを後にして服屋に向かう。資金に余裕ができたので、革鎧の下に着る服を買うのだ。鎧の下の服でオシャレさが決まると言っても過言ではないため大事な案件である。




 服屋に到着してまずは既製品を見るがどうもしっくりこないので、絵理歌たちはオーダーメイドで服を作ることにした。

 戦闘で使う服なので丈夫な素材を選び、デザインを考える。


「パーティーで服を統一するのはどうかしら? ユニフォームみたいで良くない? 改造して個性を出しても良いわよ」


「史ちゃん先輩それ良いね!」


「基本デザインは和風なんてどうでしょうか? 下をスカートにしたり袴にしたり個性がでますわ」


「ステージ衣装みたいで良いな。あたしはショートパンツにしようかな」


「景にはショートパンツも似合いそうですが、スカートも捨てがたいですわ」


 史とねむの案にみんな賛成し服作りが始まった。今日中に採寸とデザインを終わらせれば昇格試験に間に合うはずだ。

 試験はギルドの練習場で上級冒険者と戦って力を見るのだが、一般の観客も入れるそうなので名声を上げるチャンスである。

 ここはかっこよくて可愛い装備で出るべきだと、みんなの意見が一致する。

 絵理歌たちは和風デザインを各人アレンジした服を注文して完成を楽しみにするのだった。

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