第18話アンタレスの迷宮五階層

 景が四色の燐光を出せるようになった翌日、絵理歌たちはアンタレスの迷宮四階層に来ていた。三階層と同じような森林ステージで、道中の敵もボスも同じだったので難なく突破し五階層へ進む。


 五階層は荒れた大地が広がる荒野ステージだった。この乾燥した養分の乏しい大地では作物も育たないだろう。


「ギルドの資料によると五階層の魔物はハウンドとオーガが出て来るわ。ここから一気に難易度が上がるわよ」


「強い奴と戦うのは望むところですよ」


「ウチと史ちゃん先輩もリリーちゃんが作ってくれた木剣と木槍があるし行けるよ」


 朝のうちにロータス武具店に行き、頼んでいたタンタンコロリンの木材を使った木剣と木槍を受け取っているので、今日は晴香も史も気を使って前線で戦える。

 後方でねむと景が援護してくれればバランスの良いパーティーになるだろう。

 

 気の反応を探りつつ迷宮を進むとハウンドとオーガを一体ずつ発見した。

 ハウンドは大型犬くらいの体格をした犬型の魔物。オーガは三メートル近い体格で頭に角を生やし、大きな棍棒を持った巨人。どちらも見るからに強そうだ。


「これは強そうですわ。いきなり難易度上がりすぎではないかしら」


「ビビったかねむちゃん? そんじゃあ激しく歌うぜ!」


 景の歌が戦いの火蓋を切った。

 四色の燐光を受けた絵理歌たちは身体強化、反応強化、身体強度の強化、常時回復の効果を受ける。


「私がオーガの相手をするのでハウンドはお願いします」


「オッケーエリちゃん、任せて」


「美味しいところはえりたんに譲ってあげるわ」


 絵理歌はフェイントを掛けながらオーガに近づいて攻撃を誘う。先に攻撃させて隙を作る作戦だ。

 オーガはフェイントを掛ける絵理歌を見て、上から叩き付けたら躱されると判断したのか棍棒を横薙ぎに振るってきた。


「鬼に金棒とは言うけど、そんな重い武器じゃ隙だらけだよ」


 絵理歌は棍棒をジャンプで躱し、ジャンプの加速を乗せて顎を蹴り上げ、反対の足で首に蹴りを入れた。絵理歌は足にオーガの顎を砕いた感触を感じる。絵理歌が残心を取るとオーガは迷宮に吸収された。

 ドロップアイテムはオーガの角と魔石。


巴理心流ともえりしんりゅう疾風はやて。実質ただの二段蹴りなんだけどね」


 オーガを倒した絵理歌はハウンドと戦っている晴香たちを見る。

 晴香が木剣でハウンドの首を切り落としていた。木剣であの威力なのだから魔鉄製の刀ができたら恐ろしいなと絵理歌は冷や汗を流す。

 ドロップアイテムはハウンドソルト。


「ハウンドは塩を落とすんだ」


「迷宮探索で安定して調味料の供給があるからこの世界の食事は美味しいのかもね」


「わたくしこちらの世界の魔物肉は大好きですわ」


「ねむちゃんはいっぱい食べるともっとおっぱいおっきくなっちゃうよ」


 晴香がねむの胸をペシンペシンと叩くと絵理歌よりも見事に揺れる。


「きゃんっ! 晴香さん、止めてくださいまし」


 絵理歌は晴香の頭を叩いて止めさせ、ねむに謝るのだった。




 五階層を順調に探索していきボス部屋前に到着する。ボス待ちはいないようだ。


「五階層のボスはヘルハウンド。お供にハウンドとオーガが出て来るわ。炎のブレスを吐くから注意してね」


 史がギルドで購入したアンタレスの迷宮の資料を見ながら告げる。

 ブリーフィングを終えてボス部屋に入ると、これまでと同じ二十メートル四方の部屋に魔法陣が展開されヘルハウンドとお供のハウンド、オーガが現れた。

 ヘルハウンドは黒い体に薄っすらと炎を纏う犬型の魔物。体格はハウンドよりも二回りは大きい。


「出やがったな犬畜生が! あたしの歌を聴きやがれ!」


「犬はあんな恐ろしい顔をしてませんわ……」


 景が歌い出し戦いが始まる。

 強い相手とタイマンで戦いたい絵理歌がヘルハウンドと戦い、他のメンバーがお供を倒す作戦だ。

 戦闘が始まるとねむがグロックを連射してハウンドとオーガを引き付ける。


「ハウンドとオーガのタゲを取りましたわ! 絵理歌さんヘルハウンドはお願いします!」


「ありがとうねむさん!」


 これで絵理歌はヘルハウンドと一対一になった。

 絵理歌は五メートル程距離を取り、フェイントを入れながら様子を見る。先に相手を動かして攻撃する得意のカウンター狙いだ。


 ヘルハウンドは大きく息を吸い込むと火球を吐き出してきた。絵理歌は火球をサイドステップで躱して間合いを詰めていく。

 絵理歌は攻撃が届く間合いまで来ると、ヘルハウンドの顔に回し蹴りを放つ。ヘルハウンドは蹴りをバックステップで躱しつつ火球を撃ってきた。

 蹴りで体勢を崩していた絵理歌は躱すのを諦めて気を纏った拳で火球を殴りつけ弾き飛ばした。


「ちっ! 熱いわね。今までのように簡単には勝たせてくれないか」


「えりたん、そいつ結構強そうだけど加勢しようか?」


「史ちゃん先輩、エリちゃんはいずれ地上最強になる女だよ。一人で大丈夫」


「ありがとう晴香。史さん、悪いけどここは私に任せてください」


「もう、しょうがない子ね。えりたん、絶対勝つのよ」


 絵理歌はタイマンでの勝負に拘りたかった。地上最強になるためには、こんなところで苦戦などしていられない。信じてくれる友のためにも絵理歌は負けるわけにはいかないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る