第17話新たなる燐光
絵理歌たちがロータス武具店に行っている頃、景はねむの看病をしていた。
筋肉が損傷したねむは熱を出し苦しそうにうなされている。
景は熱を冷まそうと冷たい水で絞った布を額に乗せる。
すると、心なしか表情が和らいだ。
(あたしの歌が体の強度を強化できなかったせいでねむちゃんを苦しませることになっちまった)
実際はねむがはっちゃけて無茶をしたせいだが、景はそう思っていなかった。自分の力が足りなかったせいだと悔やんでいる。
(昔同じようなことがあったっけな。あの時もあたしのせいでねむちゃんが寝込んだんだ。確かあの時は――)
◇◇◇
従姉妹の関係である二人は幼い頃から仲が良かった。
ねむは東京都、景は島根県と住んでいる場所こそ離れていたが親同士仲が良かったため会う機会も多かったのだ。
二人が八歳の頃、島根に住む景の実家にねむが遊びに来ていた。
実家は島根の山の方にあり、自分の住んでいる山が景は大好きだ。その山を同じく大好きなねむに見てほしくて景は山を案内していた。
「どうだねむちゃん、ここは良い山だろ? あたしはここでいつも歌の練習してるんだ」
「緑がいっぱいで素敵ですわね。ここでサバゲ―やったら実に楽しそうですわ。でも、猟師の方もいらっしゃるからサバゲ―は危険ですわね。誤って撃たれてしまいますもの」
「それはちゃんと設備のあるところでやろうぜ」
ねむは昔から銃が好きだった。サバゲ―も嗜んでいるためか、景の好きな山も気に入ってくれたようだ。
「ここで歌の練習をしてるからこそ景の歌は素敵なんですわね。わたくしは景の歌好きですわよ」
「へへへ、ありがとうねむちゃん。この先に甘い果実が生る木があるから行こうぜ」
「あら、それは楽しみですわ」
二人は木の実を取りに山の奥へと入って行く。登山道を進み、少し順路を外れた場所に背の高いヤマボウシの木があった。
「この木はヤマボウシって言ってな、花も紅葉も綺麗なんだ。果実は獣の食料になってるからあんまり取っちゃダメなんだけど、今日はねむちゃんに食べて欲しいからあたしが取って来るぜ」
「ヤマボウシの花は本当は葉っぱらしいですよ。背の高い木だから無理はしないでくださいませ」
山育ちの景はスルスルと木に登り果実のところまでやってくる。
しかしヤマボウシは野生動物の餌でもあるためか、一頭の猪が現れヤマボウシの木に体当たりして来た。ぶつかった衝撃で果実を落とそうとしているのだろう。
「ちくしょう猪だ! ねむちゃん逃げてくれ!」
「景を置いて逃げるなんてできません! これでもくらえですわ!」
ねむはジャケットの下に隠したホルスターから拳銃を抜き猪を撃つ。コルトガバメントのエアガンだ。
猪にエアガンでダメージを与えることはできないが、基本的に野生動物は臆病で人間を恐れているため、エアガンに驚いた猪は逃げて行った。
景は猪が逃げたのを確認し、ヤマボウシの果実を少しだけ取り木を降りる。
「ありがとうねむちゃん。助かったぜ」
「なかなかスリリングな山ですね。あの猪今度会ったらぼたん鍋にしてやりますわ」
猪が戻って来る可能性もあるので、二人は取って来たヤマボウシの果実を食べながら家に帰った。
しかし果実が傷んでいたのか、ねむは熱を出して寝込んでしまう。うなされるねむの姿を見て、景はなぜハズレの果実を取ってしまったのかと後悔する。
「あたしが傷んだ果実を食わしちまったせいでねむちゃんが苦しんでる……。こいつで気分だけでも落ち着いてくれたら」
景はねむのためにアコースティックギターを弾き歌う。心の落ち着く子守唄のようなバラード。
歌の効果なのか、うなされていたねむは次第に気持ちよさそうに寝息を立てていた。
◇◇◇
(――あの時の歌。やってみるか!)
景は歌う。アコギはないのでエレキギターだが、ねむの回復を願い歌う。
すると、景の体が赤橙黄緑の四色の燐光を放つ。
四色の燐光を浴びたねむは昔と同じように気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「今まで燐光は二色しか出なかったのに四色になりやがった。で、その燐光の効果でねむちゃんを癒したってのか?」
「景……。見ましたわよ。美しい四色の燐光がわたくしを包み込んで体を癒したようです。何だか今ならデザートイーグルも片手で連射できそうですわ」
「それマック〇さんみたいだな。燐光が二色増えてたから、回復と体の強化ができるようになったのかもな」
ねむは体が癒えたことにより目が覚めたようだ。
景は燐光が二色から四色になったことによって、回復と体の強化が追加されたと推理する。
「さあ、眠ってなんていられませんわ。今の感覚を忘れないうちに、四色の燐光を出す訓練をしますよ!」
「よっしゃあ! それでこそねむちゃんだ! キーボードは頼んだぜ!」
二人は四色の燐光を出す訓練を始める。
訓練は絵理歌たちが戻るまで続き、四色の燐光を自由に出せるようになったが、うるさいと宿屋の主人に怒られるのだった。
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