第15話ねむの新武装

 翌日絵理歌たちはアンタレスの迷宮三階層に来ていた。迷宮入口の転移魔道具で到達階層まで転移できるのは非常に便利だ。


 三階層は広い森林ステージだが他の冒険者が通った後が林道のようになっていて歩きやすい。だが、油断していると三階層に出現するトレントは木に擬態しているため気づけずに攻撃を受けてしまう。もっとも絵理歌たちは気と魔力の反応が見れるのでその心配はないのだが。


「今日はわたくしの新兵器が文字通り火を噴きますわよ! まあ、実弾ではないんですけど」


「ねむさん、昨日作ってた銃完成したんだ」


「土魔術の才があることが分かった時点で構想は練っていましたから、完成も早かったですわ」


 昨日作っていた銃はすでに完成して、ねむの腰のホルスターに収まっている。白と紫、二丁の自動式拳銃だ。


「さすが錬金術師ねむさんだね。かっこいいハンドガンだけどモデルとかあるの?」


「よくぞ聞いてくれましたわ絵理歌さん! 白い銃はオーストリアの銃器メーカーグロック社が開発した自動式拳銃グロック17をモデルにしました《グロック17ねむカスタム》ですわ。本当は実弾を打ちたいところなんですが、コストの関係で魔力弾を打ち出す仕様ですの。魔力はタダですし、魔力が続く限り連射できますの。ですので、銃と言うよりは魔法使いの杖ですわね」


 白い拳銃グロック17ねむカスタムは銃ではなく杖だったようだ。ねむ曰く「銃型の方が杖よりテンション上がりますわ」とのこと。


「あの木はトレントが擬態してるね」


「では、わたくしに試し撃ちさせてください」


 トレントが擬態している木は洞が顔のようになっているため結構分かりやすい。

 ねむがグロックを構え連射すると、トレントが苦しそうに叫びながらこちらに向かって来る。


「連射性能は良いですが、あまり威力が出ないようですわ。それではこちらはどうかしら?」


 ねむはグロックをホルスターに戻し、もう一つのホルスターから紫色の大型拳銃を取り出してトレントを狙い撃つ。ドパァンと大きな銃声が上がるとトレントに風穴が開いた。

 トレントは迷宮に吸収され、ドロップアイテムの薪を落とす。


「《デザートイーグルねむスペシャル》なかなかの威力ですわ」


「凄いぜねむちゃん! 昔から銃好きだったもんな! でも、なんで威力がそんなに違うんだ?」


「ありがとうございます。威力が違うのは弾をイメージして魔力を込めてるからですわ。9㎜パラベラム弾とマグナム弾の違いですのよ。ですが《デザートイーグルねむスペシャル》は魔力の消耗が大きいですし、反動が強くて肩を脱臼するかと思いましたわ。気の扱いを覚えて体を強化しませんと連射はできませんわね。マグナム弾は浪漫ですから使いこなしてみせますわ! ちなみに銃の色はどちらも薊の花をモデルにしましたの」


「正直ねむちゃんが何言ってるか全然分かんねえけど、嬉しそうで良かったぜ!」


 銃の威力に興奮した様子で話しかける景に、ねむは胸の下で腕を組むねむ立ちでドヤった。

 どうやらねむの新武装はグロックは連射できるが威力が弱く、デザートイーグルは連射できないが高威力のようだ。場面で使い分けすることで大きな戦力になるだろう。


 絵理歌たちはその後もトレントを狩ってドロップアイテムの薪を拾い三階層を進む。


「しっかしいくら木の魔物だからってドロップアイテムが薪ってどうなの? 売ってもお金にならなそう」


「晴香知らないの? 薪って買うと結構高いんだよ。キャンプ場だと一束四百円くらいするから。薪無料のキャンプ場もあったりするけどね」


「エリちゃん詳しい! ウチも針葉樹は火が付くのが早くて、広葉樹は火持ちが良いのは知ってるよ」


「晴香も結構知ってるじゃない。今度みんなでキャンプに行きたいわね」


 雑談しながら三階層を進みボス部屋前までやってきた。順番待ちの冒険者はいない。


「それじゃあタンタンコロリンをゲットしに行きましょう。私とハルキャンは武器が完成するまで後方で援護に回るから、攻撃はえりたんとねむちゃんに任せるわ」


 史がボス戦のブリーフィングを行う。

 今回は気を流すと武器が壊れてしまう晴香と史に代わり、絵理歌とねむが主に攻撃役になる作戦だ。ねむの銃は魔鉄製なので気も魔力もオーケーだ。


 ボス部屋に入ると一、二階層と同じ二十メートル四方の部屋に複数の魔法陣が出現する。

 お供はトレントが五体、ボスは大きな黒い幹にでかい洞から顔が浮かび、オレンジ色で顔型の果実を実らせる魔物だった。幹と果実の顔がケタケタと笑っている。


「これは、まんまタンタンコロリンじゃない。なかなか不気味な笑顔ね」


「史さんはホラー系得意みたいですね。あの顔は私たちを呪い殺しそうな顔ですよ」


「顔があれば歌も聞けるだろ! あたしの歌を聴きやがれー!」


 冷静に分析する史に絵理歌は頼もしさを覚える。

 景は歌を聞かせたいようだが、景の歌の効果は任意の相手の能力向上なので敵の能力は上げないようにしてほしいものだ。

 景が二色の燐光を放ち絵理歌たちの身体能力、反応速度が上がった。

 三階層のホラー系ボス、タンタンコロリンと絵理歌たちの戦いが始まる。

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