第14話新しい武器を作ろう
リリー連れられ鍛冶場に入ると熱気に満ちていた。そこには一心不乱に槌を振るい剣を打つ、小柄だが筋骨隆々な体をした老人がいる。
重い槌を振るう腕は太く、特に前腕の太さはアームレスラー並みに発達している。来る日も来る日も鉄を打ち続け作り上げた逞しい体を見ただけで、老人の鍛冶師としての腕が伝わって来るようだった。
「爺お客さんだよ! 素材持ち込みのオーダーメイドだ! 一級品の魔鉄だぜ!」
「今手が離せねえ! ちょっと待ってもらいな!」
見た感じ史の予想通りの頑固親父だ。いや、リリーの祖父だから頑固爺か。
「すまねえ姉さんたち。爺の仕事が落ち着くまでちょっと待っててもらえるかい」
どうやら時間が掛かりそうなので店に戻って待たせてもらう。
仕事が一段落つきロータスが姿を見せるころには絵理歌たちはリリーとすっかり仲良くなっていた。
「聞いてくれよ絵理歌ちゃん! あの爺あたしの打った剣がなまくらだなんて言うんだぜ。見る目ないよなあ」
「リリーちゃん、ロータスさん来てるよ」
「お前の打った剣なんざまだまだだ」
ロータスはゴチンッとリリーに拳骨を落とし、リリーは「痛ー!」と床を転げ回った。日本でやったらパワハラか虐待である。
「待たせたな。ワシが工房の主ロータスだ。孫が世話になったようだな。早速だが魔鉄を見せてもらえるか」
挨拶を交わし、絵理歌たちはアイテムボックスからインゴットを取り出してロータスに渡した。
「こいつは良質な魔鉄だな。で、どんな武器を作りたいんだい?」
「刀って知ってるかな? 片刃で反りがある剣なんだけど。太刀じゃなくて打刀って種類で刃渡りは七十センチくらい、柄まで含めた刀身が一メートルくらいで反りは浅め、刃文は直刃でも乱刃でも何でも良いよ。写真あるから見せるね」
「刀か、この辺りの国じゃ珍しいが極東の国で作られてる剣だな。その写真とか言う魔道具の方が珍しいぜ」
依頼主である晴香が説明する。どうやら刀を作ってほしいようだ。「良いよね刀。浪漫だよね」と、日本人である絵理歌たちは大きく頷いた。
準備の良い晴香はスマホで撮った愛剣の写真を見せて、ロータスは写真をスケッチしていく。
「ウチら戦闘で気と魔力を使うんだけど、魔鉄って気と魔力を流しても耐えられる素材なの?」
「普通の鉄なら何度か使えば消耗して砕けちまうが魔鉄なら大丈夫だ。魔鉄は名前の通り魔力を含んだ鉄で、気と魔力の親和性が高いからな」
噂通りロータスは腕の良い職人のようだと、絵理歌は二人のやり取りを見て感じていた。
依頼主の話を聞き、できるだけ理想に近づける努力をしている。ただ頑固なだけの職人ならオーダーメイドに柔軟に対応できないだろう。
晴香の刀の説明が終わり、次は史の番だ。
「私は槍をお願いするわ。穂は太めでシンプルなデザインが良いかしら。できるだけ軽量にしたいから柄を木製にしたいんだけど、気と魔力に耐えられる木材ってあるのかしら?」
「残念だが今は在庫がないな。迷宮に行ってるなら三階層、四階層の森林ステージのボスがドロップするタンタンコロリンて木材なら気と魔力に耐えられるな。取ってきたらウチで仕入れるより安くなるぜ」
「タンタンコロリンて柿の木の妖怪とか精霊じゃなかったかしら……」
史が槍のオーダーメイドを注文する。どうやらこの世界ではタンタンコロリンは素材らしい。
次の迷宮探索は三階層からなので取って来ると話をつけた。
「料金は二点で金貨七十枚ってとこだが、金は足りるのかい?」
「迷宮で稼いできたから大丈夫よ」
史はそう言ってアイテムボックスから金貨七十枚を取り出しロータスに渡した。
絵理歌たちディステル会ではパーティーで使うお金は史が管理している。もちろん個人で使う用のお金も別で分配している。
今回の武器購入でパーティーのお金はほとんど使い切ったので、また稼いでこなければならない。
「結構な大金をポンと出せるとはな、若いが優秀な冒険者のようだ」
「まあね、期待のルーキーって言われてるわ」
「史ちゃんかっけー! みんなまた来てくれよな!」
武器製作の依頼を終え、木剣と木槍を何本か買い店を出る。
仲良くなったリリーとは今度遊ぼうと約束し、外に出る頃には夜になっていたので今日の活動は終わりにして宿に帰った。
「ねむさん何作ってるの?」
「鍛冶師のロータスさんを見てたら武器を作ってみたくなりまして、余った魔鉄を頂いたので自分用の武器を土魔法で自作していますの。土属性はものづくりに向いてますのよ。錬金術師ねむですわ!」
宿に帰って夕食後部屋に戻るとねむが魔法で何かを作り始めた。
ねむと付き合いの長い絵理歌はねむの趣味嗜好を知っているため、何を作っているのかすぐに分かった。おそらく銃だろう。
武術に力を入れているシスル女学園だが、ねむは武術が得意ではない。しかしそれは素手ならの話だ。ねむの得意武器は銃火器である。
この世界でねむがどんな銃を作るのか絵理歌は楽しみになってきた。
「ねむさんなら凄い銃を作りそうだね。楽しみにしてるよ」
「あら、わたくし銃を作るなんて言いましたかしら? まあ、当たりなんですけどね」
ねむはそう言ってニンマリと笑うのだった。
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