第13話ロータス武具店

 三階層へ出ると今までと一変して辺りは木が生い茂る森だった。

 迷宮は洞窟のようなダンジョンだけではなく、まるで外のようなフィールドステージが存在する。三階層は森林ステージになっており、冒険者を飽きさせない仕様はまるで冒険者のテーマパークのようだ。


 迷宮入り口への転移魔道具は各階層の入り口脇に設置してある。もちろん未到達階層には置いていないので注意が必要である。


 二階層の当たりボスとの戦いで消耗している絵理歌たちは転移魔道具で帰還し、冒険者ギルドに向かった。




 ギルドに到着し買取カウンターに向かうと二十代後半くらいの女性が受付をしていた。なかなかの美人である。


 この受付の女性も、担当してくれているビオラも、他の受付も美人しかいない。冒険者ギルドは顔で採用しているのだろうか?

 しかし能力が同じくらいであれば顔が良い方を採用するのは日本でも言われていたことだ。就活のために整形する人までいると聞いたことがある。


 コンプレックスを解消して自信が出るのなら、私は整形全然良いと思うけどと絵理歌は独り言ちる。


「エリちゃんは可愛いよ」


「私はえりたんの顔好きよ」


「キリッとして素敵ですわ」


「絵理歌ちゃんはかっこいいぜ」


 どうやら考え事が声に出ていたようだ。褒められたのは嬉しいが絵理歌は恥ずかしくなり「ごめん、なんでもない」とはぐらかして受付に声を掛けた。


「買取お願いします」


「では買取物をカウンターにお願いします」


 絵理歌たちはアイテムボックスから出した今日の戦利品をカウンターに乗せて行く。

 コボルトの骨三十二本、スライムの粘液六十九個、ハイコボルトの毛皮一枚、ジャイアントスライムの粘液一個だ。

 インゴットは鍛冶師に見てもらう予定なので買取には出さない。


「計算しますので少々お待ちください」


 そう言って受付嬢は計算を始めた。ジャイアントスライムの粘液には驚きを見せる。

 しばらく待つと計算が終わったようだ。


「お待たせしました。コボルトの骨が一本銅貨五枚なので、三十二本で銀貨一枚と大銅貨六枚。スライムの粘液が一個大銅貨二枚なので六十九個で金貨一枚と銀貨三枚と大銅貨八枚。ハイコボルトの毛皮が銀貨五枚、ジャイアントスライムの粘液が金貨八十枚。魔石が金貨十枚。合計金貨九十二枚、大銅貨四枚です。ジャイアントスライムの粘液を取って来るなんてすごいですね! Bランク上位のレアな魔物で、高級ポーションの素材になるので凄く価値が高いんですよ」


「まじかよ! ディステル会の嬢ちゃんたちジャイアントスライム倒して来たのか」


「さすがは新人狩り狩りの嬢ちゃんたちだぜ」


 受付嬢の声が聞こえたのか周りが騒ぎ始める。

 騒いでいる冒険者の中に以前絡んで来たファンガスが鬼の形相で睨んでいるのを見つけた。やはり恨みををかってしまったようだ。

 金持ちだと思われて狙われるのは避けたいので、受付嬢に人差し指を立てて静かにとジェスチャーする。


 しかしジャイアントスライムは強かっただけありドロップアイテムも高値が付いた。これで装備を整えることができる。


 買取が終わりビオラに二階層のボス部屋で見つけた冒険者の遺留品について相談する。


「ビオラさん、二階層のボスが当たりで私たちの前に入った冒険者の遺留品を見つけました。遺族に届けたいのでお願いできますか?」


「買取カウンターの騒ぎは聞こえていました。ジャイアントスライムが出たとか。先に入った冒険者の方は残念でしたが、皆さんが無事で良かったです……。遺留品は責任を持ってギルド経由で遺族にお届けします」


「それと、腕の良い鍛冶屋を知っていたら教えてほしいんですが」


「鍛冶屋でしたらダンデライオン一の鍛冶師と言われるロータスさんはどうでしょうか。町の西にある工房街にお店がありますよ」


 ギルドが遺族に届けてくれるそうなので遺留品をビオラに渡して冒険者ギルドを後にし、教えてもらった鍛冶師ロータスの工房へ向かう。




 ダンデライオン西に位置する工房街にやって来ると「カーンカーン」と金属を叩く音が其処彼処から聞こえてきた。


 ダンデライオンはアルストロメリア王国でも大きな町なので冒険者や兵士の数も多く、武器防具の需要が高いため工房街は賑わいを見せる。

 そんな工房街の少し外れに鍛冶師ロータスの工房はあり、武具の店と鍛冶場が併設されていた。


「腕の良い職人って話だけど、街外れに住んでるあたり頑固親父が出てきそうね」


「史ちゃん先輩、それフラグだよ」


 史の言葉に絵理歌たちは緊張しながら店の扉を開け中に入ると、店内にはロータスが作ったと思われる武器防具が整然と並んでいた。


「いらっしゃいませ、ロータス武具店へようこそ。おっと、こりゃまた可愛いお客さんだねえ」


 予想に反して背の低い絵理歌たちと変わらない年頃の少女が店番をしていた。

 髪は高い位置で結んだ短めのポニーテール、おでこにゴーグルを付けた可愛らしい少女だ。がっちりした筋肉質な体型で、細長い耳をしている。

 人族ではなくおそらくドワーフ族だろう。


「こんにちは。貴方がロータスさん?」


「あははっ! あんな爺と一緒にしないでくれよ。あたしは孫のリリー、まだ十二才だよ」


 リリーは朗らかな笑顔で笑った。快活な少女だなと絵理歌は思う。


「質の良い金属を手に入れたから武器を作ってもらいたいんだ」


「持ち込みのオーダーメイドだね。じゃあ金属を見せてくれるかい」


 絵理歌たちはアイテムボックスから二階層ボス部屋の宝箱で手に入れたインゴットを取り出して渡すと、リリーは驚きの表情を見せた。


「こいつは魔鉄だね。しかもかなり純度が高い。それじゃあ爺のところに案内するからついて来てよ」


 リリーはそう言って絵理歌たちを店の奥にある鍛冶場に案内するのだった。

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