第12話VSジャイアントスライム

 絵理歌たちは食事を楽しみ、史の魔力がある程度回復したところで二階層の探索を再開した。


「みんなごめんなさい。恥ずかしいところ見せちゃって……」


「気にしないでください。だらけた史さんも可愛かったですよ」


「史パイセンの意外な一面が見れたぜ」


「やめてー! 私はみんなの前ではかっこいい先輩でいたいのよー!」


 史が珍しく恥ずかしがっている様子が可愛くてみんな笑顔になる。ディステル会会長として、普段はしっかり者でかっこいい先輩の珍しい姿だ。

 まだ全快していない史には休んでもらい、絵理歌と晴香を中心に戦いボス部屋の前までやってきた。


「お! ディステル会の嬢ちゃんたちじゃねえか」


「昨日冒険者登録したばっかのルーキーがもう二階層のボスに挑むのか」


 二階層のボス部屋前も順番待ちのパーティーがいて声をかけて来た。


「二階層のボスはスライム系の魔物かしら?」


「そうだぜ、スライムの上位種とお供にスライムが出てくる」


 ギルドで聞いた情報と同じなので嘘は言っていないようだ。悪い人たちではないのだろう。

 世の中悪い人間の方が圧倒的に多いので絵理歌たちは当然警戒している。


「おっと、俺たちの番だ。じゃあな嬢ちゃんたち」


「ええ、頑張ってね」


 前のパーティーがボス部屋に入って行き、しばらくするとまた扉が開く。

 絵理歌たちは戦闘準備をしてボス部屋に入る。部屋の中は一階層と同じで二十メートル四方の大きな部屋だ。中央に魔法陣が展開され大きなスライムが現れた。お供はいない。


 ギルドで聞いた情報によるとお供がいない場合ボスの強さがワンランク上がるそうだ。通称当たりと言われ稀にあるそうだが、想定より強い魔物が出現するため迷宮が冒険者を殺すために用意した罠と言われている。

 当たりのボスは討伐されるまで変更されない。


「ジャイアントスライムね。これは当たりを引いちゃったかしら?」


「そのようですね。あそこに先に入ったパーティーの装備が……」


 先に入った冒険者たちの装備が辺りに散らばっている。迷宮は死んだ人間の肉体は食べるが装備はその場に残るのだ。

 遺留品はギルドでは発見したパーティーの自由にして良いとされている。


「殺されたパーティーのためにも絶対に負けられない」


「そうね! 攻撃はえりたんとハルキャンが担当して。景ちゃんは歌を、私とねむちゃんは攻撃をフォローしつつ景ちゃんをガードよ!」


 史が指示を飛ばし絵理歌たちは動き出した。

 景が二色の燐光を迸らせ歌い出し、絵理歌と晴香は気力を放出させてジャイアントスライムに向かって走り出す。


 ジャイアントスライムはプルプル震えながら回転して粘液を飛ばしてきた。

 すると、粘液に触れた地面が「ジュワアァッ」と音を立てて溶けていく。ジャイアントスライムの酸弾攻撃だ。


「こんなもの!」


「ウチらには効かないよ!」


 絵理歌と晴香は酸弾を躱しつつ間合いを詰める。

 避けられない酸弾は気力を纏った拳足と木剣で弾き飛ばすが、ジャイアントスライムが後退しながら酸弾を飛ばしてくるためなかなか距離を詰められずにいた。


「ちっ! これじゃ近づけないわね。被弾覚悟で行くか……」


 雨のように飛んでくる散弾に絵理歌は舌打ちし、被弾を覚悟する。


「絵理歌さん、晴香さん援護しますわ! ストーンバレット!」


「こっちも行くわよ! ファイアボール!」


 ねむと史からの援護射撃でジャイアントスライムの動きが鈍くなる。その瞬間絵理歌は距離を詰め、気を全力で込めた右ストレートを放つ。

 気を込めた拳を打ち込まれたジャイアントスライムの粘液が吹き飛び体積を減らす。


「核が見えた! 晴香、止めをお願い!」


「任せてエリちゃん!」


 絵理歌は気の再チャージに時間が掛かるため止めは晴香に任せる。

 絵理歌の後ろで木剣に気をチャージしていた晴香が飛び出し、体積が減り剝き出しになったジャイアントスライムの核を砕いた。核を砕かれたジャイアントスライムは粘液を維持できずに崩れて迷宮に吸収される。


 ドロップアイテムはジャイアントスライムの粘液。小瓶に入った緑色の粘液だ。Cランク以上だったため魔石も落とした。

 ボスが吸収されると三階層へ続く階段と、部屋の中央に宝箱が出現した。

 晴香の木剣がボロボロと形を保てずに崩れて行く。気に耐えられなかったのだろう。


「晴香、ナイスコンビネーション。帰ったら剣買いに行こう」


「倒すまで持ってくれて良かったよ」


 絵理歌と晴香はコツンと拳を合わせて勝利を祝い、みんなでハイタッチを交わす。


「今回は結構強敵だったわね。気も魔力も消耗したわ」


「ですね。結果だけ見れば無傷ですけど、割とギリギリの戦いでした」


 絵理歌たちは気力と魔力をかなり消耗していた。

 長引けば負けていた可能性もあったと気を引き締める。迷宮は長い、まだまだ強敵はいるのだ。


「宝箱は何が入ってるのかしら? 楽しみね」


「罠付きの可能性もあるので注意して開けてみましょう」


 絵理歌がそう言って宝箱を開けるとガスが噴き出してきたので気を放出させて吹き飛ばす。

 中身は金属のインゴットだった。良い素材であれば気や魔力を通せる武器が作れる。


「遺留品はどうしましょうか? ルールでは貰っても良いことになってるけど、遺族がいるなら届けてあげたいわね」


「回収してギルドで聞いてみましょう」


 遺留品は一旦アイテムボックスに入れてギルドに相談することにした。

 迷宮では階層入り口に外に転移できる魔道具が設置されている。消耗している絵理歌たちは一度三階層に出てから帰還するため、三階層への階段を進むのだった。

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