第11話階層ボス

 ボス部屋へ入ると中は二十メートル四方くらいの広い部屋だった。


 全員が入ると扉が閉まり、中央に大きな魔法陣が展開され魔物が姿を現す。

 身長二メートルはある大きなコボルトだ。

 右手に幅広の大剣、左手に丸い盾を装備している。ボスの情報はギルドで聞いていたので知っている。コボルトの上位種、ハイコボルトだ。

 その周りにはお供のコボルトが五体。


「出たわね、犬は好きだけど、私たちを殺そうと襲い掛かってくる犬には容赦しないわよ!」


「犬さんたち。遊んであげるよ!」


 史と晴香が戦闘モードに入り、好戦的な笑みを浮かべながら武器を構える。

 ハイコボルトが雄叫びを上げると、お供のコボルトが向かってきた。


 一階層で戦ったコボルトよりも動きが速い気がするが、ハイコボルトの指揮官の能力でお供のコボルトにバフが掛かると事前に調べて分かっている。

 ハイコボルトは後方で動かない。


「みんな! 作戦通り行くわよ!」


 史が指示を飛ばすと、晴香と史はお供のコボルトを攻撃して、後衛のねむと景のもとへ敵を通さない壁になる。

 ねむは土魔法で援護射撃、景はギターをかき鳴らし歌い始めた。


 景が歌い始めると二色の燐光が迸り、燐光を受けた絵理歌たちは能力にバフが掛かり身体能力と反応速度が向上した。

 能力が上がった晴香と史は一撃でお供のコボルトを倒しハイコボルトへの道を開ける。


「えりたん今よ!」


「やっちゃえエリちゃん!」


 史と晴香が作った道を駆け抜け絵理歌が迫ると、ハイコボルトは大剣を振り下ろしてきた。

 絵理歌は大振りの振り下ろしをサイドステップで躱し、隙を晒したハイコボルトの頭に飛び膝蹴りを叩き込む。


 ボンッ! と頭が破裂し、ハイコボルトはゆっくりと後ろに倒れ迷宮に吸収される。

 ドロップアイテムはハイコボルトの毛皮。

 ハイコボルトが吸収されると、二階層へ続く階段が現れた。


「「「やったね!」」」


「景さんの歌は本当に凄いよ! 体に力が漲るし、反応速度が嘘みたいに速くなるんだから!」


 みんなで円になりハイタッチすると、絵理歌は景の手を取り歌を称賛する。

 歌のバフ効果でハイコボルトの攻撃は、小足見てから昇竜余裕でした状態だった。


「景ちゃんの歌でパワーアップして速攻作戦が上手くいったわね」


「ハイテンポな歌のリズムでノリノリで戦えたよ」


「かっこよかったですわよ景」


「あたしは道中役立たずだったからな。やっと活躍できたぜ」


 みんなが景を称賛すると景は顔を赤くして嬉しそうに笑顔を見せる。

 みんなで勝利を祝い、ドロップ品を回収して二階層へ進んだ。






「二階層は一階層と代わり映えしないわね」


 二階層に出ると辺りは一階層と同じで石造りの壁に覆われたダンジョンだった。

 魔物を倒してお金を稼ぎたい絵理歌たちは、気配感知を使い魔物を狩りつつボス部屋を目指して進む。


 二階層に出る魔物はスライムを中心にコボルトが少々と、一階層とは逆の出現率のようだ。

 スライムのドロップアイテムであるスライムの粘液はポーション系の材料になるためコボルトの骨よりも買取価格が高く稼げるので二階層は入念に探索していく。


「あの行き止まりの奥に気力反応がいっぱいありますね」


「隠し部屋かもしれないわね。調べてみましょう」


 袋小路を調べると、壁に押し込める石を見つけた。

 戦闘の準備をして石を奥に押し込むと、袋小路だった通路の壁が「ゴゴゴゴゴッ」と音を立てて開いて行く。


 開いた通路の先へ進むと、スライムとコボルトがうじゃうじゃひしめき合う十メートル四方くらいの部屋に出る。

 モンスターハウスだ。


「史さん範囲攻撃を!」


「オッケー! 宝の山に変えてあげるわ! ファイアストーム!」


 全員が史の後ろに下がり、史が魔法を唱えると炎の嵐が魔物を飲み込んだ。

 炎が消えると辺りにはスライムとコボルトのドロップアイテムが大量に落ちていた。


「凄い威力じゃない。でも何だか体がだるくてやる気がなくなっちゃったわ。……もう帰らない?」


「史さん! ――おそらく魔力切れですわ。この部屋で少し休憩していきましょう」


 史が大魔法で魔力切れをおこしたため、ねむの提案通り休憩することにした。

 史は横になって「このまま朝まで寝ていたいわ~」とぐったりしている。

 絵理歌たちは普段ビシッとしている史のだらけた様子に魔力切れの恐ろしさを実感する。


「近くに気力反応もないし、アイテムを回収したらここでお昼食べて行こうか。史さんは休んでて」


「そうさせてもらうわ~。働いたら負けよ~」


 絵理歌たちは史に休んでもらいまずは大量のドロップアイテムを回収した。

 終わったらお昼ご飯だ。今日のお昼はサンドイッチ。肉サンド、卵サンド、サラダサンドと三種類のサンドイッチを買ってきている。

 まずはブラックファーブルの肉サンドからいただく。


「美味しい! 牛型の魔物の肉って聞いてたけど、やっぱり牛肉の味だ! ちょっと高かったけど買って正解だね」


「シンプルにパンとステーキを挟んだだけなのも肉の味が際立って美味しいね」


「濃い目のソースと肉汁がパンに染み込んで、これがまた美味しいですわ」


「卵サンドとサラダサンドもさっぱりしてて旨いぜ」


「えりたん動くの面倒だから食べさせて~」


 絵理歌たちはつかの間の食事を楽しむが、史の回復にはもうしばらくの時間がかかりそうだった。

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