第10話アンタレスの迷宮

 アンタレスの迷宮一階層は石造りの壁に囲まれたダンジョンだった。

 前、右、左に一本ずつ幅広の通路が伸びている。

 絵理歌たちは明かりを持って来ていなかったが、迷宮自体が光っているのかそれなりに明るい。


「さて、前と左右どっちに行こうか」


「えりたん、こういう時は右か左決まった方の壁に常に沿って進めば迷うことはないのよ」


 絵理歌の呟きに史が答える。頼りになる先輩だ。一同は史の提案通りまずは右に沿って進むことにした。

 警戒しながら慎重に進んで行くと奥に一体の魔物が見える。

 犬の顔に体毛に覆われた人型の体を持つ魔物だ。手には短剣を持っている。


「あれはコボルトね。こっちに来てまだ私は戦ってないからここは任せてちょうだい」


 そう言って史はコボルトに向かって行き木槍を構えた。

 槍は近接武器最強と言われる。なぜ槍が強いのか、それは単純にリーチの長さだ。武器ありの一対一であれば先に攻撃できる方が断然有利になる。

 史はコボルトの間合いの外から攻撃して簡単にコボルトを倒した。


「どうかしら? 私も結構やるでしょ?」


「史ちゃん先輩つよーい!」


「さすが史先輩ですわ!」


 史は振り返り、どやあ見たかあとサムズアップした。九条流槍術の使い手である史にとってコボルトは敵ではなかった。


 倒したコボルトと持っていた武器は死ぬとすぐに迷宮に吸収されるように消えてなくなり、代わりにドロップアイテムのコボルトの骨が落ちていた。


 ギルドで聞いた話では迷宮で死んだ魔物はドロップアイテムを落とし、死体は迷宮に吸収されてまたリポップするそうだ。

 持っていた武器も同じく吸収されるので魔物リサイクルと言うわけだ。

 Cランク以上の魔物は魔石とドロップアイテムの両方を落とすのでお得である。


 美味しい魔物肉はドロップアイテムにならないと手に入らないが、倒すだけでアイテムが手に入るので、魔物の数も多いし楽ではある。

 先へ進むと今度はコボルトとスライムが一体ずつ現れた。


「次は私が気力を使った攻撃を試してみるわ」


「エリちゃんやっちゃえー」


 絵理歌はそう言うと晴香の応援を背に受け、気力を放出しながら走り出す。

 気力で身体能力が上がっているため、凄い速度でコボルトに接近してストレート気味の体重を乗せたジャブを放つ。

 コボルトの頭に当たったと思った瞬間コボルトの頭が破裂した。

 絵理歌は一瞬驚いたがまだスライムが残っているのでスライムの核目掛けて回し蹴りを放つ。

 スライムは核諸共弾け飛びスライムの粘液が辺りに飛び散る。

 コボルトの骨とスライムの粘液入りの小瓶がドロップした。


 ドロップアイテムを回収し振り返ると、絵理歌以外の仲間たちはスライムの粘液を浴びてビショビショに濡れていた。


「エリちゃ~~~ん」


「びしょ濡れで逆に気持ちいいですわ」


「みんなごめん! まさかこんなに威力が上がると思わなくて……」


 絵理歌たちは晴香の風の魔力と史の火の魔力の合わせ技で温風を出して服と髪を乾かした。

 幸いスライムの粘液はポップしたばかりのスライムだったため水と変わらず害はない。

 これが人間を溶かしたスライムだったりすると粘液が濁って酷い臭いを放つので運が良かったと言える。


 威力は凄いが体力の消耗を感じるし、気力の使い過ぎには注意が必要なことが分かった。

 一階層の魔物はコボルトを中心にスライムが少々出るようだ。


「さすがに魔物が多いわね。マッピングとか気配感知ができれば良いんだけど」


「集中すればなんとなく分かりますよ史さん」


「本当? ――あら本当ね。マッピングは無理だけどなんとなく魔物の気配と強さが分かるわ」


 絵理歌の言葉に史が精神を集中させると、どうやら魔物の位置と強さが分かったようだ。

 大分気力の扱いに慣れてきたように見える。


「マッピングでしたらわたくしが土の魔力で出来そうですわ。なかなか便利な属性ですわね」


 ねむが土の魔力でマッピングできると言う。

 これで迷宮を自由に探索できるようになった。


「あたしはどっちも分からねえよ……」


「景はわたくしたちの癒しですから、いてくれるだけで癒しの効果があるんですのよ」


 活躍の場がない景は少し落ち込むが、ねむがフォローする。

 二人の関係に残りのメンバーは見ているだけで笑顔になってくる。ねむの言う癒し効果は本当にあるようだ。


 絵理歌たちはマッピングと気配感知ができるようなったので、一番大きな気力を感じる場所に行くことにした。おそらくボス部屋があるはずだ。

 集めた情報によるとこの世界の迷宮は階層を守護するボスが存在し、ボスを倒さないと次の階層には行けないらしい。


 魔物を倒しながらボス部屋を目指して進んで行くと大きめの広間にでた。広間には大きな扉があり他のパーティーが二組いる。

 何故かボス部屋にはパーティー一組ずつしか挑めない仕組みになっているため、こういった順番待ちができるのは仕方ない。


「おい、七色の燐光ななしきのりんこうのパーティーだぜ」


「バカ! 嬢ちゃんたちはディステル会ってパーティー名なんだよ。知らないのか?」


「しかしもうボスに挑むとは、スーパールーキーって噂は本当だったか……」


 ディステル会の名が広まってきているようだ。

 《有名になればシスル女学園関係者が向こうから会いに来る作戦》は順調に進んでいる。

 絵理歌たちは順番を待ち、一階層のボスに挑むのだった。

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