第9話冒険準備

 講習が終了する頃には夕方になっていたので、ビオラに景の燐光の効果を報告して、ゴブリンの討伐報酬をもらい(一体銅貨五枚だった)ギルドに宿を紹介してもらった。


 絵理歌たちは何気に良いところのお嬢さんだったりするので安宿などは論外だ。オークの素材と路上ライブで稼いでいたので中級くらいの宿を紹介してもらった。


 明日は朝から装備や道具の買い出しをして、依頼を受けるか魔物を狩る予定だ。

 この世界では依頼を受けなくても魔物を狩ってギルドに素材を売ることでお金を稼ぐことができる。


 解体は利用料はかかるがギルドでやってくれるし、持ち運びは絵理歌以外のメンバーが魔力操作でアイテムボックスを使えるようになったので問題ない。

 アイテムボックスとは生きた生物以外を魔力を使って異空間に保管できる便利な能力だ。保管する量に応じて最大魔力が減り、取り出すと魔力が戻るようになっている。


宿屋の前に服屋へ寄って買い物をする。何しろ絵理歌たちは制服以外持っていないので着替えがないのだ。うら若きレディが着替えを持っていないなんて大問題である。

 訓練や戦闘で制服を汚したくもないので動きやすそうな服を何着か購入した。オシャレな服はお金を稼ぐまでお預けだ。




 紹介された宿屋に到着し中に入ると十代半ばくらいの女の子が受付をしていた。

 十代前半の女の子五人組がやってきて少し驚いていたが、すぐに平静を取り戻し挨拶してくる。


「いらっしゃいませ。お泊りですか?」


「はい、泊りでお願いします。できれば五人部屋で」


「五人部屋が丁度空いてますよ。朝夜の食事付きで金貨二枚です。食事なしなら金貨一枚と銀貨五枚です」


 史が応対し、丁度五人部屋に空きがあるそうなのでお腹の空いている一同は食事付きで泊まることにした。

 絵理歌たちはお礼を言って五日分金貨十枚支払ってカギを受け取り、食事をしてから部屋に向かかう。

 

 ちなみに食事はパンとシチューでとても美味しかった。この世界は調味料がそれほど高値ではないらしく、食文化が発展しているようだ。

 部屋に入るとベットが五つ、小さな机とクローゼットが一つずつの割と狭い部屋だった。


「部屋が狭いのはまだ良いですけれど、お風呂に入れないのが辛いですわ」


「そうね、明日から頑張って稼いで高級宿屋に引っ越しよ!」


「史ちゃん先輩。家買っちゃうのもありじゃない?」


「のったぜ晴香ちゃん! 家買っちゃおうぜ!」


 お風呂に入りたいと言うねむの話に深く頷く一同は頑張って稼ぐことを誓い合うのだった。




 翌朝、絵理歌たちは朝のトレーニングを行う。

 ねむと景を起こさないように戦闘係の三人は宿屋を出てランニングから始める。その後近くの広場で自重での筋トレと徒手空拳での組手をしてから部屋に戻った。


「みなさん何でわたくしたちを置いて行くんですの!」


「あたしらも連れて行けよ!」


 戻ったらねむと景に怒られた絵理歌たちは、翌日からのトレーニングは全員でやることを約束した。


 トレーニング後はみんなで朝食を取るため食堂へ向かう。メニューはハムエッグ、サラダ、スープ、パンと元の世界で食べる朝食と変わらないものだった。

 絵理歌は卵が食べられるのを嬉しく思う。好きなのはもちろんだが、卵はアミノ酸スコア100の筋肉を作るのにとても良い食材なので、追加料金を支払って卵をおかわりした。




 宿屋を出てまずは武器屋で晴香用の木剣と、史用の木槍を購入した。

 二人は気力操作で武器を強化できるようになっているのでこれで十分戦える。もちろん安物ならすぐに折れるだろうが、硬い木材で作られた木剣は十分な殺傷力を持っているのだ。


 次は防具屋で全員分の動きやすい革鎧を購入し、道具屋で回復ポーション、解毒ポーションを購入して冒険者ギルドに向かう。


 冒険者ギルドでは死亡率の高い新人冒険者のサポートをしている。絵理歌たちの担当は登録の時に受付してくれたビオラだ。


「みなさんの実力なら迷宮で魔物を狩るのが一番稼げると思いますよ」


「迷宮って?」


「魔物を倒しても時間経過で復活したり、お宝が湧いたりする不思議なダンジョンです。迷宮は人にとって有用な魔物や宝で人をおびき寄せ、迷宮で死んだ人間を養分にしている生物だと言われています。迷宮を放置すると溢れた魔物が外に出てきてしまいますし、魔物から取れる魔石は街灯などの魔石製品に使う大事な資源になりますので、人と迷宮は共存しているとも言えますね」


 どうやらこの世界の迷宮は宝の山扱いらしい。夢があって良いことだ。

 ダンデライオンの町付近には迷宮が二つある。


 魔物が弱く浅い階層までしかない初級者向けのアルテアの迷宮。

 まだ全階層の攻略ができていない上級者向けのアンタレスの迷宮だ。

 浅い階層であればそこまで強い魔物は出ないとのことで、絵理歌たちは上級者向けのアンタレスの迷宮へ行くことにする。






 アンタレスの迷宮に到着すると入り口に兵士が二人立っている。

 ビオラの話によるとアンタレスの迷宮は国が管理していて、入るのに毎回入場料がかかる。一人銀貨一枚だ。

 ちなみに初級者向けのアルテアの迷宮はお金のない冒険者のために無料で入れるそうだ。

 絵理歌たちは入場料銀貨五枚を支払い初めての迷宮探索に挑む。

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