第8話気力と魔力
呆然としていた受付のお姉さんが
「わ……私も初めて見る色です。ギルドに記録したいのでどんな魔力を使えるのか聞いても良いですか?」
「あたしも分からねえんだ。魔力があるなんて知らなかったから」
景は受付のお姉さんに質問されるが、まだこの世界に来たばかりなので分からないのも無理はない。
だが絵理歌は路上ライブで歌っている景が輝いて見えたことを思い出し尋ねてみる。
「私には景さんが歌っている時に輝いて見えるんだけど、歌に関係した能力なんじゃないかな?」
「本当か絵理歌ちゃん! ……歌ってるあたしが輝いてたか」
顔を赤くして照れる景は実に可愛いと思って見ていると、他の三人も微笑ましそうな笑顔で見ている。
少し口が悪く、すぐ熱くなるがみんなから愛される子だ。
「吟遊詩人なんかが歌で人を引き付ける能力を使える話は聞いたことがあります。歌が発動のトリガーになっている可能性がありますね。魔力は同属性でも使い手の魔力操作によって出来ることが違ってきます。ギルドの記録に残したいので、守秘義務は守りますから特殊属性持ちの景さんには能力が判明したら教えてほしいです。本日は冒険者ギルド登録ありがとうございます。私ビオラが承りました」
受付のお姉さん改めビオラに頼まれ快く引き受けた。
どうやら景の魔力は相当に珍しいようで、例えるならレアリティSSRのカードだ。かなりの引き強と言える。
能力測定が終わり、気力と魔力の講習を一人銀貨五枚で受けられると聞いてギルド内にある修練場にやってきた。
この世界の冒険者ギルドは死亡者を減らすための取り組みを頑張っていて、引退した元冒険者を講師としてギルドで雇っている。
「俺は気力の講師を務めるブッシュだ。よろしくな嬢ちゃんたち」
講師のブッシュと挨拶を交わし気力の講習を受ける。
気力は魔力と違い全ての生き物が持っている力なので全員で参加した。
「気力の訓練だが、まずは自身の体にある気力を感じることからだな。立禅からやってみるか」
絵理歌たちはブッシュの指示通り立禅を開始する。
立禅とは武術の修行でも行うもので、簡単に言うと立った状態で行う瞑想だ。膝を軽く曲げ踵を少し浮かせて足の前方に重心を持ってくる。両手は大きなボールを抱えるように円を作る。そして精神を集中させる。
立禅を始めて五分程経過すると能力測定で気力の才能が出ていた絵理歌、晴香、史の三人は気力を感じることができ、多少の操作まで可能になった。
気力を放出させて体に纏うことによる身体能力と防御力の向上、武器や拳足に気力集中させることによる攻撃力の向上だ。
「……初めてでここまで使えるようになるなんてな。スーパールーキーって話は本当だったか。気力による攻撃は攻撃に気力を使った分だけ体に纏う気力が減る。その分防御力は落ちるから気をつけろよ。素早く気力操作することでリスクを減らすんだ」
要するにカウンターに弱いのかと絵理歌は得心した。
気力を使えるようになることで物理戦闘力は飛躍的に向上する。絵理歌は気力を極めることで地上最強に近づけると心が震える。
一方で。
「全然できませんわー!」
「あたしもできねー!」
能力測定で気力の反応が出なかったねむと景は気力を感じることに苦戦していた。
絵理歌、晴香、史は今まで武術の修行を積んできた下地があるので、気力の練り方が感覚的に分かるのかもしれない。
気力自体は誰もが持っているものなので、時間はかかるだろうがこれからも修行を続ければ使えるようになるだろうとブッシュは二人を激励するのだった。
「私はガーベラよ。現役冒険者だけどバイトで講師もやってるからよろしくね」
気力講習が終わり魔力講習が始まる。講師は現役冒険者の色っぽいお姉さんだ。
ガーベラによると魔力の扱いは良くある詠唱ではなく、自身の魔力を外に放出することで持っている属性が現れるそうだ。イメージを具現化しやすいように魔法名は存在する。
魔力制御の修行も気力と同じで魔力を自覚するための瞑想から始まる。瞑想は立っていても座っていても集中できれば何でも良いらしい。
能力測定で魔力の光が出た絵理歌以外の四人はすぐに魔力を扱えるようになったが、景だけは魔力の自覚はできるが放出は出来なかった。
「歌ってみたらどうかな? 景さんが歌ってる時の輝きは魔力の放出なんじゃない?」
「よっしゃ! 絵理歌ちゃんが言うならやってみるか!」
「あら、景ったらいつの間に絵理歌さんと仲良くなりましたの?」
絵理歌の提案で景が歌い出すと体から赤色と橙色の魔力が放出される。
測定の時に出た七色ではなかったが魔力を放出することはできたようだ。
「やったぜ絵理歌ちゃん、ねむちゃん! あたしも魔力の放出ができた!」
講習の間色々試した結果、景の二色の燐光には身体能力と反応速度を上げる効果があることが分かった。
「凄いわね貴方たち。もしかしなくても私越えられちゃったかしら……」
絵理歌達は講師ガーベラのお墨付きを貰えたようだ。
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