scean5 庇護
◆◇◆
朝日を浴びて起きた少女は、その状況に戸惑っていた。見たことのない部屋のベッドに寝ていたことにまず驚いて、部屋の汚さにも驚いた。壁には棚が据えられていて、そこに
(私は確か――この眼のせいで――魔女裁判に――)
足の火傷は手当をされて、包帯により覆われている。
何が起きたか思い出そうと頭を振ったまさにその時、
思い出される、酷い拷問。その恐怖から、少女は叫ぶ。
青い光を放つ右の目。
金属を
瞬きの間に凍りつく部屋。
ドアの向こうで、悲鳴があがる。
「落ち着いてくれ、僕らは味方、怖がらないで。君と同じで魔女狩りに
モニカと共にドアに隠れて、顔だけを出すクロムが言った。
少女はキッと彼を
「嘘よ、私に味方だなんて――いるはずないわ!」
その顔を見て、モニカはそっと両手を広げ、部屋に入った。
「ホントにキミを助けたいんだ。魔眼の事で辛かったよね。ええと――この人、専門家なの。クロム=アクアリオ。わたしはモニカ。モニカ=ヴァルプルガ」
モニカに腕を引かれるクロム。部屋に入ると、衣服の
「君に魔術の手ほどきをする。魔眼を制御できれば、いつか、普通に生きていけるはずだよ」
クロムがそっと差し出した手は、すぐに魔眼で凍ってしまう。クロムは顔を歪めはしたが、出した右手を引き戻さない。
「っ……ロンドンにいれば、審問官には手を出されにくい。
手首や腕も凍り始める。しかしそれでも、手を引くことはしようとしない。吐息が白く見えているので、息を荒げて耐えているのはすぐに分かった。
「なんで……」
「――君の名前を、教えてくれる?」
少女は彼をじっと見つめて、おずおず彼の右手に触れた。
「私は……フィオナ」
クロムは、ふっ、と優しく笑い「よろしくフィオナ」と言うとすぐさま顔を青くし、後ろを向いた。
「なあモニカ……お湯を……沸かしてくれないか……?」
手当てを終えて、クロムはすぐにフィオナの魔眼、これを封じる策を講じた。直線的な記号を書いた眼帯をその右眼に着ける。
「一時的には有効だけど、長く保たないから気をつけて」
部屋の端から、ヴァイスが「俺とお
「あの……いいですか? なんで私を助けたんです?」
「わたしは自分の信じるところに従ったまでね。『ヴァルプルギス』なら、理不尽に
「僕は……なんだろう、君を見捨てたら僕の人生が嘘になるから、と……そんなところかな」
フィオナは、部屋の端で
「貴方達は?」
「あたしはリズね。リーズカッセ=ドラコ。この狼は相棒の『リル』。本当の名は『フェンリル』だけど、この名を聞くと、
「説明雑だな! あー、ヴァイス=イェーガーだ。魔術学院に籍を置いてても、魔術ができない奴等もいるんだ。俺達みたいに。そういう奴等は魔術に関わるために、信条が近い
「モニカがあなたを助けると言えば、あたしもあなたを助けるってこと!」
「あんまり恩には着なくてもいいぞ。魔女の濡れ衣を着せられた奴を助けるのなんて、こいつらにとっちゃ日課同然だ」
「ふうん……」
◆◇◆
冬が終わって花が開いた。
花が終わって、緑が茂る。
緑はいつか赤く色づく。
赤い葉は散り、また冬が来る。
フィオナの
フィオナが覗く窓の外では、季節に応じ、木立の色が変化していき――
――クロムと過ごす冬も三度目。
フィオナの服が小さくなって、袖から腕が見えだした頃、彼女の顔が曇り始めた。
ある
「クロム、私……外に出たいんです……」
「まだ早いかな。君も相当魔術の基礎は固まったけど、僕のルーンの助けがないと、魔眼を制御できないだろう?」
フィオナは彼の言葉を聞くと、頭を上げて目を見開いた。固く拳を握って、胸に大きく息を吸い込み、叫ぶ。
「とうに二年経つんですよ!」
瞬時に凍り、割れる眼帯。ある程度まで魔眼を抑え
ガラスの破片のようになったそれを、クロムはそっと拾ってフィオナに見せた。
「君の安全を確保するためだ。辛抱してくれ」
フィオナは服の
涙はこぼれた端から凍って、床石に落ちて、音立て、転がる。
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