第五節 泣いたドラゴン
「はぁ、全く。まさかこのようなことになるとはのう……」
パラヴィーナが泣きながら出て行ってしまった後の談話室にて。
事の顛末を詳しく聞き終えた女王様は、呆れたような顔で額を押さえていた。
「す、すみません……」
「別にお主が謝る必要はなかろう」
確かに何も悪いことをしたつもりはないけれど、この状況はもの凄くいたたまれない。
「まぁ、これであやつもお主のことを認めたことじゃろう」
「ですが女王ちゃま。あんなん全然認めたようには見えないのですけれど?」
ニエーバの言う通り、これで認めてもらったかどうかは正直微妙なところだ。
そもそも途中からなんか趣旨が変わっていたような気もするし……。
「っていうか、あのまま放っておいて良いんですか? ちょっと心配だなぁ……」
「あやつは拗ねて部屋に閉じ籠もっておるだけじゃろうて。心配せんでもよかろう」
「そうそう、いつものことなのだ」
「あ、そうなの……」
あれだけ大泣きしていたパラヴィーナに対して、周りの反応は落ち着いたものだった。
割と良くあることなら騒ぐ必要もないってことなのかな?
「お主も言いたいことはあるじゃろうが、閉じ籠もってしまったあやつは聞く耳を持っておらん。話をするなら出て来るまで待つことじゃな」
「それじゃあ、明日また話してみますね」
「いや、そんなに早くは無理じゃろ……」
ありゃ、彼女は結構尾を引くタイプなのか。まぁ、あれだけボロ負けしたら顔も合わせ辛くなるのは仕方ないかもしれないけど……。
それなら女王様の言う通り、向こうが自分から出て来てくれるまで待つべきかもしれない。
「多分、三年くらいすれば出て来ると思うのだ」
「そんなに待てないよ!?」
そこまで閉じ籠もるほどのこと!?
「しかし、この前は二年ほどで出て来たじゃろう」
「でもあの落ち込み様なら、今回は三年かかると思うのだ」
「なら私様は五年くらい待つのに賭けるとするぜ」
三人は実に呑気な様子でそんなことを言い合っていた。
ええい、不老長寿どもめ。時間の感覚があまりにも違い過ぎる……。
「ともかく、私はそんなに待てないですよ! どうにか出来ないんですか?」
「そう言われてものう……。落ち込んでいるあやつは想像以上に面倒くさいぞ?」
「面倒くさくても、です!」
あんなのが原因で何年も引き籠もりになるなんて辛すぎる。
っていうか、侍従長がそんなに長期間引き籠もっていて大丈夫なの? この王宮。
「……それなら、あやつを部屋から引き摺り出すことを、お主の次なる仕事にしようではないか」
「はい?」
「失敗しても構わん。もともと、あれが勝手に拗ねておるだけじゃからな」
そう言って女王様は椅子から立ち上がり、テーブルから離れていった。
「って女王様、何処に行くんですか?」
「風呂じゃ。後のことはお主の好きなようにせい」
怠そうに手を振りながら、部屋を後にしてしまう女王様。
うーん、心底面倒くさいって態度だなぁ……。
「ねぇ、引き籠もった侍従長ってそんなに大変なの?」
まずは情報収集というか、情報の整理が必要だ。
そう思って投げかけたその質問に対し、ヴルカーンは悩まし気な表情を見せた。
「ああなったパラヴィーナ様を外に出すことに成功した者は、今まで誰もいないのだ。だから、彼女が自分で立ち直るのを待つしかないのだ」
「腐っても
「なるほど……」
それは確かに骨が折れそうな仕事だ。
そもそもの話、引き籠るほど落ち込んでいる人にずけずけと近寄るのは良くない気もする。
うーん、でも、このまま何も話せないまま三年も待てっていうのも……。
「……というか、なんでヒカちんはパラちゃまと話そうってんですか? そんなん必要ありますの?」
「そうなのだ。パラヴィーナ様が閉じ籠ったことに対して、ヒカリが負い目を感じる必要はないのだ」
「それはそうかもしれないけど……」
負い目を感じる必要はないと言われても、どうしても泣いた彼女の顔が頭から離れない。
言葉にするのは難しいけれど、このままじゃ何かスッキリしないのだ。
「別に喧嘩したわけじゃないけど、仲直りがしたいんだ」
初対面の時点で嫌われていたし『仲直り』というのはちょっと違うかもしれないけど。
「せっかくこうしてリバーシで沢山遊んだりして、仲良くなれそうだったんだからさ。これでお別れってなったら寂しいじゃない」
そう、多分私は、彼女のことが好きになったのだ。
あれだけ負け続けても諦めず、自分を貫いて勝利を目指し続けたその姿。結果は全然伴わなかったけれど、その姿勢は褒めてあげたいことだと思う。
出来ることなら、そんな彼女ともっと仲良くなりたい。
「お別れって……別に死んだわけじゃないでしょうに。大袈裟ですなぁ」
「人間にとっては、三年会えないのはお別れって言うくらい長いの」
「まぁ、ヒカリとパラヴィーナ様が仲良くなるのは良いことだと思うのだ」
これを仲直りと考えるならば、こういうのはすぐに行動に移した方が良いはずだ。
時間が立ってしまうとお互い中々歩み寄れなくなったりするし。ある程度勢いでやってしまうのが良いだろう。
それで、仲直りと言えば──あれだ!
「ねぇ、プルちゃん! 起きて!」
「……あら~?」
今の今までずーっと寝ていたプルートを揺り起こす。
寝起きのせいなのか、いつにも増して雰囲気がほわほわしている。
「プルちゃん、ヴルちゃん、ニエちゃん。皆に協力してほしいことがあるの」
三人に対して、私が考え付いた仲直りの作戦について説明する。状況を全く把握していないプルートには、手短に前提から。
「……なるほど、そういうことならボクも協力できるのだ」
「いいわ~。わたしに出来ることなら任せて~」
「面白そうですね。私様も手伝ってあげましょう」
説明を聞き終えた皆の表情は明るい。
こうして協力の同意も無事に得られたので、改めて気合を入れ直す。
「みんな、ありがとう! それじゃ、早速……作戦開始!」
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