第二節 作戦会議!

「……なんでボクはヒカリに抱っこされているのだ?」

 食堂で朝食を済ませて、三十分くらい経った後のこと。

 あれから私とプルートとニエーバの三人で話し合いをしていたものの、それはもう酷い有り様だった。

 考え事でプルートは固まっちゃうし、ニエーバはあっちこっちに逸れまくった話ばかりするし、話は一向に進まなかった。

 それが遅れてやって来たヴルカーンのお陰で、ようやくまともに進展するようになったというわけだ。

「ヴルちゃんが来てくれて助かったよ……。ありがとう、私の救世主……」

「何か分からないが、苦労を掛けたみたいなのだ?」

 膝に乗せたヴルカーンをぎゅっと抱き締める。もう離したくない。

 こうして肌に触れると湯たんぽのような心地の良い暖かさを感じるのは、この子が火竜ファイアドラゴンという種族だからなのだろうか。それとも、ドラゴンはみんな子ども体温なのだろうか。

「大方、ニエーバがふざけていたに違いないのだ。お前はもっと真面目になるべきなのだ」

「そんなことありませんよ、ヴルちん。私様はずっと真面目にふざけていますので」

「その二つは両立しないと思うのだ……」

 相変わらずニエーバは眉一つ動かさずに、けれども楽しそうに喋っている。

「で、ヒカちんや」

 それ、私のこと? と問い質す前に言葉が続く。

「お前様の実力はどの程度のものなのですか? ヒトって意外と強かったりするんでしょう」

「そういう人もいるかもだけど、私は全然だよ。なんなら普通の人よりも弱いくらい」

「むむぅ。剣技が超得意とかなら私様が剣を作ってあげてもよかったのですが」

「無理だって。剣なんて持ったこともないし」

 改めて、侍従長パラヴィーナとの決闘について考える。

 異世界転移で特別な力とかを授かったわけでもない私が、剣を持ったところでどうしようもないだろう。それ以前に剣なんて持てるかどうかも怪しい。

「そもそも、そういう怪我したりさせたりするようなことはしたくないんだよねぇ……」

 私が何かやってドラゴンが傷つくとは思えないけど、そこは気持ちの問題。

 ていうかそんな危ないこと、怪我どころか下手したら死ぬかもしれないし。

「それなら、お洗濯で対決するなんてどーお?」

「洗濯?」

 しばらく固まっていたプルートが不意に喋りだした。

「そう。シーツを沢山洗って、沢山綺麗に出来た方が勝ち、みたいな感じで~」

「なるほど……。それなら確かに怪我しないで済みそうだね」

「でしょう~?」

 対決と言っても、必ずしも殴り合いをする必要はない。そう考えるとプルートの提案は結構良さそうに思える。

 ただ……。

「残念だけど、それではやはりヒカリの勝ち目が無いと思うのだ」

「あら、どうして?」

「そもそもの体力の差が問題なのだ。ヒカリが一枚シーツを洗っている間に、ボクらならば十枚は洗えてしまうだろう」

 そういうことだ。

 洗濯対決というアイデア自体は悪くないのだが、それは基礎体力が拮抗しているから成り立つものだろう。

 できれば体力に関係なく勝敗を決められるものが良い。それこそ、パズルゲームとかなら得意分野なんだけど。

 ん? 待てよ……。ここはぷ〇ぷ〇もテ〇リスも無い異世界だけど、もっとアナログな……ボードゲームとかならあってもおかしくないのでは?

「ねぇ、将棋──いや、チェスとかってあったりしないかな?」

「チェス?」

 三人は同時に、頭の上に疑問符を浮かべた。馴染みのない言葉ということだろう。

「例えば、駒とか石とか使って、それを動かしたりして遊ぶ玩具なんだけど……」

 しかし、将棋やチェスでなくとも似たようなゲームはあるかもしれない。

 その可能性に賭けて、色々と言葉を変えて説明を続けてみた。頼む、何かあってくれ……!

「……それって『バーシニア』のことなのだ?」

「ああ、確かにあれっぽいですな。ヴルちん正解」

「似たようなものがあるの!?」

 どうやら思い当たるようなものがあるらしい。これ幸いにと詳しく話を聞いてみる。

「うーん……。あれも駒を動かしたりして戦わせる、暇つぶしの玩具だけれど~……」

 しかし、プルートは何だか渋い顔をしている。ヴルカーンも同じような難しい顔。ニエーバは……やっぱり無表情。

 『バーシニア』というゲームが何なのかは知らないけれど、何か良くないことでもあるんだろうか?

「決闘には使えなかったりするの?」

「いや、別にそれは問題ないのだ。ただ……」

「ルールを覚えるのが大変なのよ~。たぶん、今日のお昼過ぎまでには覚えられないと思うわ~」

 なるほど、そういう事情だったか。

 それなら特に問題はないはず。自慢じゃないけど、ゲームなら結構やり慣れている。

「大丈夫。私、ルールとか覚えるのは得意な方だから」

「でも、駒の種類が三百以上もあるのだ」

「よーし! 別な手段を考えよう!」

 それを今から覚えるのは流石に無理です。

 三百種類の駒を使ったボードゲームって……そんなの決着に一日以上掛かるんじゃないの?

「その『バーシニア』以外に無いの? もっと簡単なやつとかさ」

「聞いたことがないわね~」

 ぶっつけ本番でそんなヘビーなゲームをやるのは厳しすぎる。

 もうちょっと簡単なものなら、少し練習して戦法とか考えられるのだけれど。

「せめてリバーシでもあればなぁ……」

 いっそ、『バーシニア』が出来るようになるまで、決闘の時期を延期してもらうのも手かもしれない。パラヴィーナが承知してくれるかどうかは怪しいものだけれど……。

「ヒカちんや。その、『リバーシ』ってのは何なのですか?」

「ん? えーっと、リバーシっていうのは……」

 聞き慣れない単語に興味を持ったのか、ニエーバが食いついてきた。

 リバーシ──オセロとも呼ばれるそのゲームは実に簡単な遊びだ。ルールの把握も、勝負もすぐに終わる。

 そんなわけでリバーシについての説明はごく短時間で終わった。

「──まぁ、みんな聞いたことがないのならここには無いんだろうけど」

 そういえば、『本将棋』が生まれたのも『大将棋』という駒の数も盤の広さもやたらスケールの大きかったものが洗練されて、今の形に落ち着いたのだという話を聞いたことがある。

 そう考えると、この島に超ヘビー級のゲームしか無いのは、あんまりそういう文化が発展していないということかもしれない。

「……無いなら作ってしまえばいいんじゃないですか?」

「作るって言っても……」

「私様に任せて下さい。ニエーバちゃんは技師長なので」

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