第六節 宣戦布告!
「おはよう、パラヴィーナ様。起きたのだな」
「おはようございます、ヴルカーン、プルート。それから……」
昼食の最中、突如現れたドラゴン娘は、ヴルカーンとプルートに丁寧に挨拶を交わした。
その礼儀正しい振る舞いとは対照的に、彼女はなんというか奇抜な見た目をしている。
髪型は二つ結びのおさげで、特に変な形ではないのだけれど……色が問題だ。中央を起点に右側が紫に近いピンク色で、左側が灰色混じりの黄緑色という、いわゆるツートンカラーになっているのが目を引く。
瞳の色も髪の色と同じように、右目がピンクで左目が黄緑色。オッドアイというやつだろうか。
翼は左右で色が変わらずどちらも黒色だが、大きさが違う。右が他の子よりも大きいのに対して、左は他の子よりも小さい。
要するにとにかく左右非対称。今まで会ったどのドラゴン娘とも違う、なんとも不思議な出で立ちの女の子だ。
「お前のことは報告を受けたですよ、ナツノ・ヒカリ!」
左右で色の違う瞳がずいっ、と迫って来る。
その表情は見間違いではなく明らかに怒っていた。
「あの~……。私、何かしましたっけ?」
この子とは初対面のはずだし、怒られるようなことはしていないはずだ。
こんなに敵意剥き出しで睨まれる原因が分からない。
「ふんっ。何故怒っているかも分からないとは、実に愚かですね」
むぅ、面倒くさい彼女みたいなことを言われてしまった。
本当に知らないんだけど……。いや、それなら『知らない』ってことが怒りの原因かな?
この子はさっき自分で
ええと、この子──じゃなくて、今さっきヴルカーンが名前を呼んでいたよね。
なんだっけ。確か、パラなんとかだった気がする。ええと、パラ……。パラ──
「……パラドックスさん?」
「パラヴィーナなのです! お前、馬鹿にしているのですか!?」
火に油を注いでしまったようで余計に怒られてしまった。
うーん……。ドラゴンの名前、どうにも覚えにくいなぁ……。
「自分は
そう言ってパラヴィーナは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
侍従長ってことは戦士長やメイド長の更に上のまとめ役ってことだよね。
それにしても、シャドウドラゴンって……。名前から考えると闇属性っぽいけど、ピンクと黄緑って全然闇っぽくないツートンカラーだなぁ……。
ゴールドドラゴンが金色で、ファイアドラゴンが赤色で、バブルドラゴンが水色だったのに、シャドウドラゴンがピンクと黄緑の二色って……。頭の中で組み立てていた法則が崩されてしまった気分だ。
なんでシャドウドラゴンなのに全身真っ黒じゃないのかなぁ。余計に覚えにくくなっちゃったよ。
「それで、お前は女王様の秘書に任命されたと聞いたですよ」
「ああ、はい。そうなんです、よろしくお願いします」
「ふんっ! 何を勘違いしているですか、自分はお前なんか認めていないのです!」
侍従長として新入りに挨拶に来てくれたのかと思ったら、そうではないらしい。
握手しようと伸ばした手は見事にスルーを決められてしまった。
「こうして間近で観察してみたですが……お前はやはり貧弱なヒトに過ぎないのです。そんなみそっかすに女王様の秘書なんて任せられないですよ!」
「みそっかすって久しぶりに聞いたなぁ……」
パラヴィーナはぷんぷん怒っているが、あまり威圧感は感じない。むしろなんだか和んできたくらいだ。
脅しに凄みがあった女王様と違って、どうにも見た目通りの子どもが
「──ですから、自分と決闘をするです! 自分が勝ったらお前はこの王宮から……いや、この島から出て行くのです!」
「え、えぇ~!?」
ぼーっと考えていたら、急にそんなことを宣言されて我に返る。
決闘って……戦って決めるってこと? そんなの無理なんだけど……。
「でも、ヒカリちゃんの『価値』は女王さまが認めたのよ~? パラヴィさまが勝手に決めたらダメじゃないかしら~?」
「そうなのだ。ヒカリの扱いは女王様が決めたことなのだ」
一方的な宣戦布告に、見かねた二人が助け舟を出してくれた。
いいぞいいぞ、もっと言って下さい。
「ふんっ。侍従長の自分に勝てないようでは、お前に女王様の右腕を名乗る資格など無いのですよ」
「いや、私そんなの名乗ってないですよ?」
「『そんなの』とは何ですか! このみそっかす!」
どうにもパラヴィーナは右腕という肩書に拘っている様子。
侍従長という立場として、急に現れた人間が秘書になんてなっているのが面白くないのだろう。
……といっても私、秘書らしいことなんてまだ何もしていないんだけど。
「自分が勝ったら女王様にもう一度裁いてもらうのです。こんなヒトなんかに『価値』など無いと、改めて証明してやるのです!」
「でも、パラヴィーナ様。決闘なんかしてもヒカリには勝ち目がないのだ。そんなのは不公平なのだ」
ドラゴン、それも
そんな相手とただの人間である私が力比べをしたところで、そもそも勝負にもならないはずだ。
「ですから、勝負の内容はお前に決めさせてやるですよ」
「ええっ?」
「単純な力比べをしたら相手にならないのは分かりきっているです。そんなので勝ったところで、女王様が認めるはずがないのです」
どうやらその辺はパラヴィーナも分かっているらしい。
「ですから、お前に有利な舞台で戦ってやるです。それで、それすらも自分より下であると分かれば、お前に『価値』など無いと証明できるです。それでいいですね?」
「そう言われても……」
「勝負は明日の朝──は、自分が起きられないので、昼過ぎにするです! それまでに決めておくですよ!」
「あの」
「覚悟しておくです!」
反論を挟む余地もなく、言うだけ言って堂々と退場してしまった。
残された私と、ヴルカーンとプルートは困った様子で沈黙してしまう。
決闘なんて言われても……怪我をしたりさせたりするようなことはしたくないなぁ。
でも、逃げて不戦敗扱いにされて、本当に島から追い出されるなんてことになったらすごく困る。サメの餌エンドがまた近付いてしまう。
うーん、どうしたものか……。
せめて何かパラヴィーナの弱点とか、攻略の糸口を見つけたい。まともにやって勝てる相手ではないのは間違いないはずだ。
そのために、二人に相談を持ち掛けようとしたところ──
「──お昼ご飯をまだ食べていなかったのです!」
さっき恰好つけて去っていったパラヴィーナが、慌てて食堂に戻ってきた。
あれ、この子結構……お間抜けさんだったりする……?
……なんか、なんとかなりそうな気がしてきた。
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