第四節 従者たちのお仕事
朝食を終えた後、ヴルカーンとプルートの案内で王宮を見て回った。
王宮を名乗っているだけあって全体的に広く、部屋の数もとにかく多い。
案内はまだ途中ではあったものの、少々歩き疲れてしまったので、今は中庭のベンチに座って休憩させてもらっている。
「いやぁ、広いなぁ……」
中庭には見渡す限り色とりどりの花が綺麗に咲き誇っていた。
そしてこの庭園も広いというのに、目立たないところもきちんと手入れされているのがよく分かる。日頃から大事にされているのだろう。
「庭のお手入れとかもメイドさんがやっているの?」
「そうね~。基本はわたしたちのお仕事だわ~」
この王宮のメイドの仕事は多岐に渡り、どれもレベルが高い。
ここに来るまでに調理場や洗い場などを覗いて来たが、どこも想像以上に本格的だった。
例えば、食品の保存には冷蔵室や冷凍室が用意されていて、その技術もかなり高い。朝食のレベルの高さから分かっていたことではあるんだけど。
「冷凍室とか、あれの管理もメイドさんがやっていたよね」
「あれは
要するに魔法みたいな力で、冷蔵庫や冷凍庫と似たような仕組みを作っているらしい。
「……でも電子レンジとか、電子機器は無いんだよね」
「デンシキキ?」
「電気を使う機械──装置とか、道具みたいなもの。知らないかな?」
「う~ん、聞いたことがないわね~」
これだけ文明のレベルが高いなら、機械とかの技術が発達していてもおかしくはないように思える。けれど、そういった類のものは何処にもなかった。
よくある話だけど、この世界では魔法が科学の代わりになっているってことかな。
「電気って、雷のことなのだ?」
「まぁ、同じようなものだと思う」
電気のすごい版が雷……っていう考え方だけど、たぶん合っているだろう。
「
「雷は動力にするには不安定だって言っていた気がするのだ」
確かに、雷からエネルギーを作るっていうのは難しそうだ。
太陽光発電ならぬ落雷発電……実際にやっているところとかってあるのかな?
「そのデンシキキっていうのは何が出来るのだ?」
「私のいた国だと電気の力で色々やっていたの。明かりを点けたり、風を吹かせたり、お湯を沸かしたり……。本当、色々と」
「おお、それを聞いたらニエーバが喜ぶと思うのだ」
「そうね~」
ニエーバ……って、なんか、どこかで聞いたことがあるような。
「ニエちゃんは技師長なのよ~。多分、まだ寝ていると思うけれど」
「あ、今朝女王様がちらっと話に出していた子」
「あいつが件の
「うーん、私もそんなに詳しくないんだけど……」
期待されても技師とやらが聞いて納得できるような話は出来る気がしない。
今まで携帯電話とか当たり前のように使っていたけれど、あの小さな箱にどんな技術が詰め込まれているかなんて真面目に考えたことなかったし。
「……そういえば、
この場にありもしない電子機器の話をしていても仕方なし。ちょっと話題を変えてみることにした。
「そうなのだ。ボクは火を吹いて肉を焼いたりお湯を沸かしたりできるのだ」
「わたしは泡を吹いてお洗濯が出来るわ~」
「やっぱり名前の通りなんだ」
火を吹くのは分かりやすいけれど、泡を吹くっていうのはちょっと想像しにくい。
泡っていうと……カニみたいにブクブクと……? うーん、プルートがそれをやっている姿はあんまり見たくないなぁ……。
「みんな属性? っていうか、種族? を活かしているんだね」
「というよりも、何がやりたいかによるわね~。
戦士とメイドと技師。この三つが王宮における主要な役職らしい。
「わたしはメイドの仕事が好きだったから、こうしてずっと続けているの~」
「ボクも戦士の仕事が好きでやっているのだ」
そう言って胸を張る二人。その表情からは、各々の仕事に対する誇りのようなものが伝わってくる。
「メイドさんの仕事はなんとなく分かったけど、戦士って何をするの? 何かと戦うの?」
「んー、あんまり戦うことはないのだ。狩りとかはするけれど、普段はメイドや技師のお手伝いをしているのだ」
「戦わないんだ?」
「竜は同胞で争うようなことはしないし、海賊がやって来ることも滅多にないのだ。要するに、ボクらは戦うような相手がいないのだ」
侵略者は滅多に来ないとはいってもゼロではないので、島のパトロールは欠かさないらしい。私がヴルカーンに助けられたのもパトロール中だったからだそうだ。
警察とか騎士みたいな役割なのかと思っていたけれど、どうもそんなの必要ないくらい治安が良い島のようだ。それなのに『戦士』って名前なのはちょっと違和感があるけれど。
「ちなみに、技師はものづくりが主な仕事なのだ。例えば冷凍室を作ったのは技師長のニエーバなのだ」
「わたしたちの着ている服とか、椅子やテーブルみたいな家具も作ってくれるのよ~」
「へぇ、そういうのも作れちゃうんだね」
どうやら仕立て屋さんとか大工さんとか、そういった技術者を全部まとめて『技師』と呼んでいるらしい。
技師が設計したものを実際に組み立てる人手として、戦士が駆り出されることも多いのだとか。
「わたしたちのサイズじゃヒカリちゃんには窮屈でしょうし、後で技師の子にお願いしてヒカリちゃんに合わせた服とか椅子も作ってもらいましょうね~」
「いいの? それは助かるなぁ」
そういえば、着てきた服っていうか、着ていた服はこれ一着しかない。
流石に女児サイズの服は着られないので、オーダーメイドしてくれるなら有り難い話だ。
「あ、ヒカリちゃんの仕事着はどうしようかしら~?」
服のアレンジや飾り付けなんかは自由らしいが、メイドにはメイド服、戦士には隊服という基準のデザインがあるらしい。
それなら秘書は秘書の服ってことになるわけだけど──。
「そもそも、秘書って何をする役職なのだ?」
「むしろそれは私が聞きたいんだけど……」
社長秘書っていうとなんか、スケジュール管理とかをしているってイメージがあるわけだけど。
私の場合は女王様のサポートとかをすればいいのだろうか。……具体的な内容が浮かばない。
「秘書って今まで誰かいなかったの?」
「ヒカリが初めてなのだ。王宮には戦士とメイドと技師しかいないのだ」
「秘書が分からないんじゃ、秘書の服ってどうしたらいいのかも分からないわね~……」
正直、着られるのなら何でも良いんだけど。あんまり拘りもないし。
「まぁ、それは後にしましょうか。そろそろ王宮の案内に戻りましょう~?」
「っと、そうだね。引き続きよろしく、二人とも」
「任されたのだ!」
あれこれ話していたら結構時間が経っていたようだ。
二人の小さな手に引かれて、ベンチから立ち上がる。
秘書の仕事などについてはまた後で考えるとして、今日はしっかり王宮を見て回るとしよう。女王様にも言われたことだし。
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