第四節 私の価値
「価値を示せと言われても私、無一文なんですけど……」
女王様の言葉に対して、金目の物を出せという意味かと思って着ていた服を弄(まさぐ)る。
しかし案の定、この服は単なる部屋着。価値のありそうな物など何も入っていない。
どうせこちらでは使えないだろうけど、携帯電話くらいあれば良かったのに。あれなら異世界人の証明にもなったかもしれないのになぁ。
「持ち物の話ではない。儂はお主自身の『価値』を問うておるのじゃ」
「私自身の?」
「お主がこの島に住まうにしても、海に出てヒトの大陸を目指すにしても、儂らの許可と協力が不可欠じゃろう。故に、お主にそれだけしてやる価値があるのかどうかを聞いている」
「確かに……」
女王様の言うことは最もだ。
何のメリットもない……どころか、何をやらかすか分からない異種族である私を置いておく義理などはないだろう。
「価値って要するに、特技とかそういうことですよね?」
「平たく言えばそうなるな」
私を島に置いておくことのメリットを自己アピールしなさいってことだ。うーん、何だか面接みたいな雰囲気になってしまったぞ。
こういうの、あんまり得意じゃないんだけど──
「何も価値が無いというのなら、海に捨ててサメの餌にでもしてやろう」
──失敗したら死ぬ面接になってしまった。得意じゃないとか言ってられない!
「ええーっと……掃除とか洗濯とかは、人並みにできると思います!」
「メイドなら既におる。ヒトの体力では竜並みには働けまい」
うう、仰る通り……。私、人間の中でも体力無い方だし。
他に特技と言えるようなことといえば……うーん……。
そういえば、私は毎回履歴書の特技の欄で悩みまくる人間だった。自慢できるような資格とかも無いし……。
こういうときは趣味から考えていって、何か、何か……。
「……あ、パズルゲームなら得意です!」
「何じゃそれは」
あるわけないよね……! 異世界だもんね……!
ぷよ〇よとかテ〇リスとかなら無限にやっていられるんだけど、ゲーム機なんてないよね……。
というか、それも別に特技とは言えない気がする。大会に出るような実力があるわけでもないし。
うう、他に何かないか……。サメの餌は嫌だ……!
ぐるぐると頭の中を回転させながら、何かヒントは無いかと女王様の方を見る。
煌びやかな長い髪、くりくりとした大きな瞳、ぴこぴこと動いている尖った耳……。
耳、尖ってるなぁ……。あれって、いわゆるエルフ耳ってやつだよね……。
なんか、ちょっと触ってみたいなぁ……。
「みみ……」
「耳?」
しまった。声に出ちゃっていた。
「あー、えっと、その、耳かき……とか……?」
咄嗟に誤魔化そうと、変なことを口走ってしまう。
耳かきなんて特技でも何でもないじゃないかっ。
「……耳かき? なんじゃそれは?」
「えっ? いや、その……耳掃除とか、耳のお手入れのことなんですけど……」
呆れられてしまったかと思いきや、女王様は疑問を抱くような表情をしていた。
言葉の問題かと思って色々と言い換えてみるも、どうにも通じない。女王様だけでなく、周りの皆もふるふると首を振っている。
もしかして、ここには耳かきという文化が無い……?
「よし、ならそれを儂にやってみるがいい」
「えっ?」
「では他に何かあるのか?」
「うぅーん、そう言われますと、そうなんですけど……」
確かに耳かきなら出来るけど、そんなすごいことなんて出来ないと思う。
だからと言って、他の特技なんて何も浮かばないんだけれど。
「……わ、わかりました。あんまり期待はしないでいただけると助かります」
「ふん。価値が無かったらお主をサメの餌にするだけじゃ」
「ひぇ~……」
こうして、私の生死を賭けた耳かきが始まることとなった。
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