第三節 女王裁判!
「というわけで、女王様に裁いてもらおうと連れてきたのだ」
「……なるほど。ご苦労じゃったな、ヴルカーンよ」
あれからヴルカーンに連れられて、この島の女王様が住まうという王宮にやって来ていた。
目の前の金ぴかの椅子に座っているのが件の女王様で、周りにはメイドや兵隊らしき恰好のドラゴン娘たちが数名並んでいた。
ゲームなどで言うならばここはいわゆる『玉座の間』という場所なのだろうけど、女王様の椅子の他に豪華なつくりは無く、こういう場にありがちな堅苦しさのようなものは感じられない。
女王様の話を聞くなら
「さて、漂流者よ」
ヴルカーンとの話を終えた女王様が、一つ咳払いをして私と目を合わせる。
「儂がこの『竜の島』の唯一の女王。
その名の通り、美しく煌びやかな長い金色の髪と、同じく金色に輝く瞳。そして翼や尻尾も当然のように黄金色。女王様は
そういえば、
……ただ、何より一番気になったのは──。
「何じゃ、そんなにじろじろと見おって。儂の顔に見覚えでもあるのか?」
「あ、その……大人の人って、いないのかなー? って……」
女王様もヴルカーンと同じ、幼稚園児くらいにしか見えない背格好だったのだ。
それどころか、周りにいるメイドとかもみんなそうだ。みんな小さな女の子で、大人はどこにもいない。
この部屋の堅苦しくなさも相まって、どうにも幼稚園のお遊戯会に紛れ込んでしまったような感覚になる。
「ふッ!」
突如、女王様は唾でも吐くかのような仕草で、軽く息を吹き出した。
すると、開いた口から光る弾丸のようなものが飛び出て、反応も出来ないほどの速さで私の顔の真横を通り抜けて行った。
そしてその弾丸は壁にぶつかり──あまりの衝撃で壁に大きな穴を開けてしまった。
「儂は齢三千を超えておる。口の利き方には気を付けろよ、小娘」
「すみませんでしたーっ!」
文字通り一息で殺されそうになった私は、気付けば額を地面に擦りつけていた。
見た目とこの場の雰囲気に騙された……! これは幼稚園児のお遊戯会なんかじゃない、言うなれば反社会組織の賭場だ……!
目の前にいるのはお人形さんのように愛らしい女の子じゃない、拳銃を構えた殺し屋だ……! 死にたくなければ認識を誤るな、私……!
「……で、お主の名は何と言う?」
極めて機嫌の悪そうな女王様の声が響く。『大の人間嫌い』とは予め聞いていたけれど、ここまで不機嫌になるとは……。
これ以上余計な刺激を与えないよう、土下座の姿勢を保ったまま質問に答える。
「ははーっ。
名乗ってから思ったけど、こんなバリバリ日本人の名前を正直に喋って大丈夫なものなんだろうか?
日本語は通じているしオッケーなのかな? いや、そもそもなんで日本語が通じているんだ……?
異世界転移あるあるのあの、自動翻訳魔法みたいなものがあるとか……。有難いけど、それがあるなら他にも色々と説明してほしいんだけど……。
「太陽の……光……」
そんな風にあれこれ考えている間、反応が何も無いのが気になってちらりと顔を上げる。
すると女王様は驚いたような顔で何やら考え込んでいた。それだけでなく、周りのドラゴン娘たちも皆少しざわついているように見える。
これってもしかして『私、何かやっちゃいました?』ってやつ……?
いや、本当に何にもしてないんだけど……!? 聞かれて名乗っただけで怪しまれるなんて、いくらなんでも理不尽すぎるっ!
「あの、私の名前に何か……?」
「……いや。何も無い。お主の名など知らぬ」
ぷい、とそっぽを向く女王様。
いやいや、絶対何かあるでしょ、その反応……。
しかし、ここで変に突っ込んで機嫌を損ねたら、次は本当に顔面を消し飛ばされるかもしれない。
「ええと、私、もともとは日本って国にいたはずなんですけど……ご存知ないですか?」
名前の話をこれ以上続けるのは良くなさそうだ。そう判断して、別な話題を振ってみる。
「知らんな。ヒトの国など興味もない」
「あはは、そうですよねぇ……」
「ふんっ。この島はヒトの大陸から遠く離れた絶海の孤島じゃ。ヒトがどんな名の国を興し、潰しているかなど耳にも入らん」
恐らく──というか確実に、その『ヒトの大陸』とやらに日本は存在しないだろう。
地球の世界地図をどれだけ辿っても竜の島なんて無いのだから、こちらの世界地図をどれだけ辿っても日本列島などありはしないはず。
ただ、こうして私が来たということは、もしかしたら前例もあるかもしれない。
ヒトの大陸に行ってみたら、同じように転移してきた人……ないし、それに連なる手がかりを聞けるかも。
「ヒトの大陸に行けば何か分かるかも──とでも考えておるじゃろ」
と、考えていたことをピタリと当てられる。
それに対して反応するよりも早く、女王様は次の言葉を繋いでいた。
「それよりも先に、お主にはまずやらねばならないことがあるじゃろうが」
「はぇ?」
やらなければならないこと? 土下座はもうしているけど……。
「お主の『価値』を示せ。何をするにしても、話はそれからじゃ」
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