Lv.2 照れ屋な君と僕 ″K.A″



先日の一件で松本まつもと 音葉おとはが俺に興味を持っていることがわかった。

否、この場合松本音葉“が”ではなく、“も”と言うのが正しいか。



本人はそれに対し何度も否定していたが、顔を真っ赤にしてまでムキになっていたことから、簡単にそれが松本の嘘だとわかった。





どうやら松本は極度の照れ屋のようだ。





観察してもわからなかった松本の新しい一面を知れて嬉しいと思う反面、ふと考える。


何故嬉しいと思ったのだろう。


この感情になんて名前をつければ良いかわからない。




とにかく今の状態で言えるのは松本音葉が気になってしょうがないということだけだ。




気づけば俺の目は彼女を追っている。

松本音葉は小柄なわりにちょこまかと素早く動くものだから最近では首に微かな痛みも覚え始めている。

にも関わらず、視界に彼女の姿が入っていないと落ち着かないのだから俺はどうしたと言うのだろうか。



それだけでない。

俺は目だけに留まらず、耳にも不思議な現象が起こり始めた。




幻聴が聞こるのだ。



休み時間聞いた少し高い楽しそうな彼女の笑い声、授業時間の教師にあてられた時の自信のなさそうに発表する声、そんな彼女の声が耳から離れてくれず、特に眠る直前になるとリピートされるものだから、最近睡眠不足が続いている。





本当にどうして俺はこんなにも彼女が気になるのだろう。

考えれば考えるほど腑に落ちない。


俺だけが松本音葉に振り回されているなんて納得出来ない。



俺が松本音葉に興味があるなら、松本音葉だって俺に興味を持つのが世の理というものじゃないのか。



そう思っていれば、松本音葉も俺に興味があることを知った。

まあそれが世の理なのだから当然と言える。



ただ松本は俺に興味があるとは言うものの、俺に振り回されている素振りを見せないので、まだ納得のいかない部分は多々あるが。



とにかく松本も興味があるなら問題ないと、携帯番号とコミニケーションツールを聞こうとしたが、照れ屋な松本はあの一件から俺が近づくたび顔を赤や青に変えて逃げるため、なかなか聞くことが出来ない。

照れ屋とは言え逃げすぎだ。



そんな中、ふとした話から楓が松本の携帯番号とコミニケーションツールを知っていると聞き、それならばと聞いてみれば、本人に聞きなよー、といつもの軽薄そうな苛立つ喋り方で頑なに拒むので、拳で話をしたところ、快く自分の携帯を差し出した。


教えるならもったいぶらずに最初から素直に言えば良いものを……。本当にこいつは手の掛かる奴だ。



俺が松本音葉の連絡先をうつしている間、まだ何かぶつぶつと呟いていて苛ついたので、楓の携帯にある松本の番号などの個人情報は全て消去しておいた。

汚い悲鳴をあげ泣きそうな楓に少しだけ気が晴れたので良しとする。





その夜、早速俺は松本にコミニケーションツール使って何か送ってみることにした。


自分から誰かに何かを送るなんてこれが初めてのことなので、正直なんて送れば良いのか分からない。



麻生です、麻生だけど、麻生だ………?

いや、彼女と初めて連絡をするのだからこの場合、はじめまして、が妥当か……?





(……………面倒臭い。)


どうして連絡一つ送るのにこんなに悩まなくちゃいけないんだ。

また俺だけが松本に振り回されている。




――もういい。



俺は文を作ることなく空白を一つタップ、送信ボタンを押した。



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