エピソード:41 オタ五人衆の場合 その1

語り部1:島田栄蔵しまだ えいぞう


 異世界転移/転生物というのは確立された一ジャンルであり、アニオタの自分にとっても楽しんでるもので、オタ五人衆と呼ばれる事になる我々の間でもメジャーな共通領域ジャンルの一つだった。


 デスゲームはともかくとして、異世界転移、しかも学校ごとってのは望み得る一つのパターンで、俺達五人は個別面談もそこそこに、抽選会場での合流を果たした。

「マジキタ、コレ、やばいって!」

「テンション、爆上げ!!」

「エルフとかケモミミ娘とかいるのかな?かなっ?!」

「R18展開とかありだよね?ねっ!?」

「落ち着け、落ち着くんだ同士諸君!ワクテカが止まらないのは俺も同じだけど、出落ちでやられるとか死んでも避けたいだろ?異世界俺ツェェチーレム生活送りたいだろ!?」


 テンション振り切れてたのはみんな同じだったけど、みんなより一個年上の織田さんが何を優先しないといけないのか、思い出させてくれた。

 オタ五人衆と呼ばれていても、それぞれの嗜好は若干ずつ違う。


「これは、異世界に勇者を呼んで魔王を倒してもらおう系じゃない。一人しか生き残らないってデスゲームだと最初から宣告されてておそらく変わらないだろう。それでも、協力し合うか?」

「当然でござる!」

「異議無し!」

「オタクの準備力、目に物見せてくれようぞ!」

「でもまぁスマホとか含め、もしもの時の為に準備しておいた異世界転移ノートまで取り上げられてるけどね」


 それからはモールの片隅で五人で固まり、潜めた声で作戦を立てた。誰がどの神の加護を受けて、どんな加護スキルを使えるのか。

 将来漫画家を目指してる織田さんが得たのは妄想の神の加護。仲間内から尊敬の眼差しを集めたのは言うまでもない。その加護スキルの妄想は、MP消費して、対象の誰かに、実際には存在しない妄想を見せられるという、使いようによってはかなり有利そうな物だった。

「自分はもうスキル取ってあるんだ。成長速度上昇。前衛職やるよ」

「拙者もでござる。拙者が加護を得たのは執着の神の加護。その加護スキルの執着は、対象の誰かに対象の何かに執着させる関心を寄せさせるというものでござるから、ヘイトコントロールには持ってこいでござるよ」


 ござるロープレを普段から自分に課してるのは居反田庸平いたんだ ようへいさん。彼はゲーム、特にギャルゲーに人生を捧げていた。アニメやマンガなども嗜むけれど、ゲーム派生の物が大半。嫁は画面の中にいると公言し、フィギュアにも否定的だけど、VRは有りとしていて、造形とかフィギュア嗜好の作田さんとはぶつかる場面が多い。


「そしたら、居反田には身体強化スキルが良さそうでござるな。確か、薬局的な看板の所にあったと思う、でござるよ」

「かたじけのうござる!取ってくるでござるよ!」

 居反田さんがいったん離れ、すぐに戻ってくると、元田さんが口を開いた。

「自分が加護を得たのは物語の神オーオルネ。その加護スキルは物語で、物語った内容をMP消費して実現する。使ってみないと分からないけど、それなりに役立てると思う。自分は鑑定スキルを取ってある」

「な、なんかスゴそう!」

「鑑定は、物語の設定にも相乗効果ありそうでござるな!」


 元田さんは、ラノベ系。自分でも書いたり投稿したりしてる。楽しんでるのもラノベ原作の物が大半。恋愛物とかも書いたりしてるせいか、リアル女性に対する当たりが厳しめだったりもする。女性に対する期待が高すぎる感じだ。まぁ同士の間では五十歩百歩だろうけど。


「えーと、そしたら流れて的に次は僕が話すよ。僕に加護を与えてくれたのは彫刻の神様、ゼッティカ。道具はもらえてて材料は必要だけど」

「も、もしかして、動く!?」

「はい。ただし動かすには自分のMPを消費するらしくて、あと、1/1フィギュアが動いてたら、目立ち過ぎるかなとか。持ち運ぶのも大変だろうし」

「「「あーー、確かに・・・」」」


 元田さんは、フィギュアオタ。自分でも作ってて、造形とかで美大進学を進路にしてたりもする本格派。デッサンとかもめちゃ上手い。アニメ絵とかも描けない訳じゃないけど、お気に入りの美少女キャラの至高のフィギュアを造る事を使命にしてる人だから、この加護は必然ですらあったのかも知れない。彫刻の材料得るのに使えそうだという事で、元田さんが取ったスキルは土魔法だった。


 で、残ったのは自分だけだったから説明した。


「えーと、自分が得たのは、眠りの神様の加護。その加護スキルは対象を眠らせるというものだから、スキルは闇魔法取っておいた」

「むぅ、モブコントロールに力を発揮しそうですな!」

「前衛二人に後衛二人。したら自分は中衛で出来る事見つけるよ。金とかない内は軽戦士ぽく動けるようにする」

「織田殿なら出来るでござるよ!」

「鑑定もあるしね!」


 各自の構成ビルドが判明した段階で、次はグループとしての方向性を定めないといけなかった。

「人を殺す覚悟は必要だけど、殺されたくないなら、るしかない。そこは、みんな、いいか?」

「もちろんでござる」

「やれるよ。尊い目的の為に」

「せっかくもらったチャンスだしね。あきらめたくない」

「ほっとこうとしても、狙われもするだろうしね」


 その自分の一言で、皆の表情も引き締まったようだった。


「そうだね。今はみんなレベル1だし、武器も持ってない。出たところで待ちかまえられてたら、島田君、眠らせてくれるかな?」

「レベル差次第でしょうけどたぶん。闇魔法で相手の視界も塞げるだろうし」

「拙者も相手の集中を散らして妨害するでござるよ」

「俺も物語のスキルで何が出来るか試そうとしてみる」

「僕は出来る事多くなさそうだから、相手に組み付いてでも動きを邪魔する」

「武器持ちがいたら、その相手を眠らせたりして武器を奪おう。最初の武器は居反田に。それで敵が複数いても一人ずつシトメる。それでいいかな?」


 皆がうなずいて、腹は決まった。覚悟が定まった。

 出口は、自分たちよりも大きな集団がいくつもたむろしてる四大国に続くところのは避ける事にして、トイレとかの先にあった非常用通路が中央大陸のどこかに出るっていう扉の先から、五人で手をつないで出た。


 白い霧の先で出会ったのは、見知った顔だった。自分と同じクラスで、自分を何かとイジってきた二人組。

 沢村と高橋って人間の屑。


「沢村~、おめ~、島田の事愛しちゃってんじゃねーの?どんぴしゃで読み当てちまうってどーなんよ?」

「んなむずかしー事じゃねーよ、高橋。どうせ石の裏に隠れてる虫ような連中だろ。固まって、みんなが行かないようなところから出てくるだろうって待ってただけだよ。んじゃ、おいしーくいただきましょうかねっ!」


 俺は、固まっていた。本当は、俺が武器持ってる沢村の方を眠らせる手筈になってたのに、ゆっくり振りかぶって下ろされてくる剣をただバカみたいに見つめてるだけだった。


「島田殿、しっかりするでござる!」

 居反田が横合いから俺の体にタックルしてくれて、剣の軌道からは外れられた。だけど、居反田の背中に切り傷が出来てしまって、そこから流れてくる真っ赤な血に、俺はまたパニックに陥りかけた。


「そっちのもう一人高橋が炎の魔法使いだ!俺と作田で沢村の方なんとかするから、元田は島田と居反田のフォロー頼む!島田、ここが正念場だぞっ!」


 俺の目の前で、織田と作田が沢村にからみついて剣の束で叩かれながらも剣を持つ腕を自由にさせなかった。居反田は背中の傷が痛くて仕方ない筈なのに、突っ立ったままの俺に高橋が火の玉を放とうとしたタイミングで、空の適当な方角を指さして、

「あー、UFOー!異世界にUFOーでござるっー!」

 とかバカなシャウトしてたけど、高橋はなぜかそちらに視線をそらせて、なかなか魔法を放てないでいた。

「くっ、ふざけるなよ、お前等。ゴミ虫はゴミ虫らしく、ふつーの俺らに踏みつぶされて終われってんだ!」


「いや、俺らがゴミ虫だとしても、お前等がふつーだとしても、だからってお前等に俺らが踏みつぶされてやんなきゃいけない理由なんて無いよな」


 自分の頭に浮かんでた事を元田が言ってくれて、少しだけすっきりした。元田の方を見て、元田も俺を見て、


「目がさめたか?物語の一発目いくぞ!いや一話目っていうべきか。島田は苦手意識を克服して、加護スキルで襲撃を跳ね返す!」


 物語の神様の加護スキルのせいか、自分の頭から恐怖感とかがすっ飛んだ。使いようによっては、これやばいと思う。ただ、自分はふっきれた頭で、眠りの神の加護スキルを発動。二人に組み付かれてた沢村が、ことんと地面にくずおれて寝息を立て始めた。


「おい、沢村!起きろよ!島田とかを踏み台にして駆け上がるんじゃなかったのかよ!?」

「残念だけど、違う筋書き物語になったみたいだね。僕たちは君たちを踏み台にして駆け上がる!」


 居反田が沢村の持っていた剣を奪い、体の真正面に突き出す姿勢で構えて、そのまま身体強化スキルを発動して突進。高橋はよけられずに体の中央に剣を突き刺されて、地面に倒れ込み、大量に出血しながら、メダルへと姿を変えた。


「もう一人は、島田。君がやるんだ」


 まだ寝息を立ててる沢村を五人で取り囲み、居反田から剣を渡されて、それでもなかなか踏ん切れなくて、皆で剣に手をかけた状態で何度も沢村の体に剣を突き刺して、ようやくメダルに出来た。でも、きつかった。何度もその道端に吐いてしまった。


「対人戦は、追々慣れていくしかなさそうだな」

「そうだね。まずは魔物とか狩って、レベル上げして、ステータス的な余裕を得たい。装備そろえるのにもお金かかるし」

「フィギュアも造らないといけないしね」


 その一言で緊張がほぐれ、みんなでゲットしたメダルの加護とかを確かめて、倒した二人の財布はもらって、別の場所に移動を開始。武器屋を見つけて、織田が槍を、元田が短剣と小盾を、居反田が盾を買った。これで金貨の20枚くらいが吹き飛んだ。

 そこで紹介してもらった宿屋で部屋を取って、今後の計画を立てた。


「メダルは、嘲笑と持続、か」

「嘲笑は、相手を不快にさせる。相手が自分よりも弱ければ萎縮させる、らしい」

「効き目は、あった、よ」

「みんなでそれぞれの加護レベル上げてみて、有望な変化がある人にとりあえず使ってもう方向でいいかな?」

「うん」

「異議無しでござる!」

「で、持続の方は、状態や効果を持続させる」

「え、それ、やばくない?」

「例えば、眠らせた状態をずっと続けられちゃうの?」

「対象の、意図した状態を、意図してる限り、持続できるらしい」

「つまり、さっきの眠らせた状態を意識してる間は持続できるけど、他の何かに気を取られたりしたら、少なくとも持続の効果は切れるとか」

「詳しくは試してみるしかないとしても、自分の彫像との組み合わせが一番良さそうに思うんだけど、いいかな?」

「なるほど。稼働時間をほぼ無視できるかも知れないと」

「うん。とりあえず木材と石材は買ってきてみたから、それで試しに彫ってみるつもり」

「では、作田殿は制作にとりかかってもらうとして、他は情報収集ですかな?」

「やっぱり、冒険者ギルドだろ!」

「この街にもあるらしいから、登録は済ませておきたいな」

「ダンジョンとかもあるのかな?!うはーっ!」

「作田を一人にしておくと危ないかも知れないから、護衛に一人残そう」

「んー、そしたら自分がいいかな。眠りと持続のコンボなら、少なくとも一人は完全に封じられる筈だし、ここにいる五人以外のメダル反応は近くには無いぽいしね」

「じゃあ持続は島田にいったん預けておくとして、それ以外の3人で情報収集。嘲笑のメダルはどうしようか?俺の妄想の加護はレベル2にしても変化無かった。いや妄想レベル2とか、何か痛いんだけど」

「拙者の執着でも同じでござるが、取れる対象が一つから二つになるようですな」

「さらにヘイトコントロールをやりやすくなるわけか。格下のモンスターを相手にする時はそのまま使ってもいいし」

「僕の物語のもレベル2だと変化無し。たぶん、文字数の上限が増えるぽいんだけど、微妙だからとりあえず居反田さんに預けておこうか」


 そうして初日の残りは、情報収集と、作田さんの初めての彫像制作に費やされた。持ち運ぶ時の大きさや重さも考えて、背の高さは30cm未満の、普段の作田さんから手抜きとも言えるくらいの、デッサン用のマネキン的な素体人形だった。

 不思議に思ったので訊いてみた。

「ポリシーには反しないんですか?」

「そもそものポリシーから言えば、自分のフィギュアに戦わせるとか、言語道断だし」

「ああ~」

「特に木製とか、身軽だろうけどフィギュア用の武器は銃器なんてのが無い限り期待するの無理だろうし」

「ビームライフルみたいの作って持たせれば?」

「何となく分かるんだよ。そういうの形だけ作っても、とりま今の加護レベルだと望んだ機能は持たせられないって」

「とりあえずお試しって事で、やられるのも前提なのね」

「そう。彫像だから関節部分の作り込みも出来ないし、持続と組み合わせた時どうなるか、不明な事も多いし」

「石の方は、もう少しは頑丈そうだけどね」

「それでも、石とか鉄とかの武器で攻撃されたら、すぐにぼろぼろにされると思う。小さいから、蹴られたりすればダメージは無くてもすっ飛んでしまうだろうし」

「じゃあ、いずれは鉄で?」

「鉄とか、いずれはファンタジー金属製かな。でもそういうのはすごい高いだろうし、鉄の塊だってそれなりのお値段する筈だろうな~」

「何はともあれ、動かしてみましょうよ」

「簡単な目と口しか彫ってない状態だけど、ま、いっか。えーと、どうすればいいか、って、起動!」


 実際にはそんなキーワードは不要で、念じるだけで良かったらしいのだけど、木製の素朴な人形はかくかくと全身を震わせて、人間らしく関節の稼働範囲を確かめると、目と口を開けて、作田に話しかけた。


「あなたが私の創造主マスターですか?」と。

 作田も自分もテンションが爆発したのは言うまでも無かった。外に出ていた三人が戻ってそれは核爆発に膨れ上がり、作田は他の四人用のフィギュアを制作させられたのは言うまでもなかった。もちろん、それぞれの推しキャラで、制作する順番も制限時間を決める際に、じゃんけんで血の涙と雄叫びが交わされたりもした。

 作田が同時に起動できるのは、加護スキルレベルが上限となるので、持続も含めた3体までとするか話し合われたけど、持続を有効化してる間は起動状態は維持される事が判明し、当面は2体までの運用とされた。

 織田さんの妄想の加護スキルが意外な効用を生んだ。それぞれの人形が話す声を、それぞれの推しキャラの声優の物に変換出来たのだ。もちろんその持続時間の間だけだとしても、大の男達が感涙を滝のように流した。


 さらに、元田の物語の加護スキルで、一時的な特殊能力を付与できる事も分かった。空中を歩いたりとか、魔法を使ったりとか、限度はあるにせよ、夢はとてつもなく広がった。

 さらにさらに、人形達に持たせる武器なんかも作ってもらおうと武器屋に相談し、その生きてるかの様な出来映えに感心されて特注でミニチュアサイズの大剣(ほぼ投げナイフ)やレイピア(ほとんど尖らせた鉄串を切っただけ)、鉄鞭(針金を組み合わせただけのもの)、大盾(鉄の端材をそれらしく折り曲げて人形サイズの取手をつけただけ)などを格安の値段で作ってもらったりもした。


 それからは初心者用ダンジョンでレベルを上げたりした。幸か不幸か自分達以外に他の生徒達は追加で現れなかった。初心者用ダンジョンを踏破した五日目までに、全員のレベルは10を越えた。それなりに順調だったとも言えるだろう。

 次はどのダンジョンに挑戦しようかと話し合っていたのだけど、リーダーの様子がおかしく、翌日早朝に一人で旅立とうとしていたところを捕まえて尋問して、事情を吐かせた。

 捕まっている、以前ふられただけの女子生徒を助けに行きたいと。他の四人とも、罠か、そうでなくても地雷だろうという認識は合っていた。が、複数のメダルが必要なのは確かだったのだ。一緒にいるらしい七瀬や伊藤は強敵だ。特に七瀬の方は複数の魔物を使役してるという噂もあったし、レベルも自分達より上だった。


 冒険者ギルドなどで移動経路や途中にあるダンジョンを調べ、魅了スキルの対策になりそうなアイテムを入手したりしながら南へと旅立った。

 中央大陸の中央北端に位置するウィゼフ王国から南に隣接するルームエ王国までは一週間ほど。そこから目的の街アルカストラまではさらに2、3日かかるそうな。

 七瀬のレベルは16でいったん止まったけれど、グリフォンとかその上の存在を使役するようになったとかやばい噂が中央大陸掲示板で飛び交っていた。


 国境の街の宿屋で何度目かわからない作戦会議が開かれた。

「このままじゃ、たぶん勝てない」

「だろうね。冒険者、戦士系と魔法使い系が一人ずつだったところに、もっと手練れのが加わったって噂もあるし」

「オークやオークチーフ、グリフォンやメジェド・グリフォンまで使役してるとか」

「あの剣道部エースの伊藤に加護与えてるの剣神らしいし」

「伊藤のレベルもじわじわとだけど上がってるよな」

「七瀬やその護衛の魔物や冒険者達と正面衝突するのは勝ち目が薄いし、こちらの犠牲もたぶん避けられなくなる。だから、援軍を頼もう」

「援軍て、他の生徒達とかって事?」

「そう。七瀬はまだ枚数こそそんな多くないけど、一気に増やせる力はある。だからこそ、そうなる前に叩くしかないって同士を増やし、自分達もレベル上げたりしつつ、好機を狙って、黒田さんを、助け出す」

「そうだね。七瀬や護衛を倒すってよりは現実的な目標かも」

「相手を出来れば分断して、一人だけなら眠らせて放置でいいだろうし」

「状況次第だな。出来ればメダル枚数は増やしておきたい」

「まあね。だけど、眠ってるのを攻撃すれば起きちゃうし、一度起こしたのを眠らせるのはけっこう大変だったりするし」

「人形は、最低でも、鉄製の等身大のが一体必要だね。それでどこまで粘れるかだけど、伊藤の剣を受けても一撃で倒されない頑丈さが必要だよ」

「・・・そうだね。一体は陽動に。もう一体が敵の間隙を突いて捕らわれてるだろう黒田さんを探し出す」

「服従の仮面とか、隷属の首輪とか、そういったアイテムを付けさせられてる可能性があるけど、すぐに破壊とか解除出来無そうならいったんはそのまま救出して、解除は別の場所で最短の機会にしよう」

「そういう筋に頼むしか無いかもだけど、見つけるのも頼むのもまたお金かかりそうだね」

「すまん、みんな」

「まあいいさ。乗りかかった船だし」

「ここまで来たら、呉越同舟でござる」

「それ言うなら一蓮託生じゃない?」


 ルームエ王国、特にアルカストラ近辺だとかなり七瀬が名を上げて人気も出てると中央大陸掲示板では話題になってたので、国境を越える手前にあったダンジョンでしばしレベルを上げつつお金を貯めた。


 12日目までに頑張ってダンジョンにこもり、織田さんはレベル15、他の4人はレベル13にまで上がり、鉄素材も何とか集まった。

 これでようやく戦えるだけの素地が出来たと思った矢先、その日の夜までに、七瀬のレベルが16から26まで激上がりしていた。

 何やったらこんなに上がるんだ!?と混乱してる次の日にはさらに29へ。中央大陸掲示板は絶望の声で溢れ、さらに数日後、七瀬がラズロフ大火山でレッドドラゴンを十頭も狩ってきたという噂が広まって、俺達も進退窮まってしまった。


「これもう、無理、だよね?」

「グリフォンとかその上の存在だけじゃなく、レッドドラゴンまで使役してるって噂も流れてきてるしね」

「せっかく、鋼鉄製のフィギュア、出来たんだけどね・・・」

「それでも、ドラゴン・ブレス一発浴びたら」

「わかってるけどさ・・・」


 誰からも根本的な解決策は出なくて、翌日は休みとなり、十五日目の夜。七瀬が東大陸に渡ったという情報が流れた。自分達が形成した大グループを食い散らかした生徒会5人が七瀬に敗れ、所持していたメダルごと食われたようだった。


「これで、メダル枚数でも追いつける見込みが無くなってしまったね・・・」


 誰ともなく言った言葉だったけど、

「いや、まだでござる。生きてる内はまだ終わってないでござる。東大陸に一日で、いや一瞬で移動したとして、あちらにまだ用事があるなら、こちらにはしばらくいないか帰って来ない筈である。ならば、ここを最後の好機とするしかないでござるよ!」

「そうだね。最終的な勝者にはなれないとしても、やられっぱなしで終わる事は無いし」

「たった一人の女の子くらいは助けて終わりたいよな」

「いや、終わらない。終われないよ!チーレムの最初の一人にまで手をかけてないのに!」

「フィギュアの五体同時起動もまだ見れてないしね」


 翌日から、七瀬は本格的に東大陸、特に王都周辺でのメダル狩りを始めた。


 自分達はこれを最後の好機と、移動を開始。三日後の夜には、アルカストラ近郊の森の中にある、やたら警戒の厳しい村の方に感じるメダルの反応へと近づいていった。


「片方が伊藤、片方が黒田さんかな」

「作戦通り、護衛はなるたけ眠らせてから縛り上げて無力化。戦ったり倒すのはなるべく伊藤だけに」

「レベル的にはそんな負けてないし」

「優秀なスカウト斥候もいるからね」

「みんな、命、大事に!」

「おぅっ!」


 斥候は、作田が最初に作った木製フィギュア。身軽さと小ささ、お手製のギリースーツなどもあいまって、自分達でさえも知らなければ容易に見つけられなかった。

 そんな彼女、クノイチさんは、黒田さんが囚われているキャンプの様子を偵察して戻ってきてくれた。


「標的は、十人かと思われます。冒険者の6人パーティーと、それとは別に戦士と魔法使いの男女のペア、そして最警戒対象の伊藤輝人。救助対象の黒田茜は、おそらくテントの中に。彼らは夕食を食べているところでした」

「ご苦労様、クノイチさん。引き続き周辺を偵察して、他に誰か伏せてないか、誰か交代でやってきたりしないか、あのやたら賑やかな村の方との間を警戒してもらえるかな」

「承知しました。我が創造者様マスター


 クノイチさんが姿を消すと、改めて作戦を詰めた。


「思ってたより人数が多いから、交代で眠り出してからしかける感じかな」

「だね。で、残ったのを眠らせて」

「伊藤が寝てくれると楽かもなんだけどなぁ」

「最悪、伊藤は眠らないし、こちらを迎え撃つ気満々かも知れない」

「まぁ、みんな言わないようにしてたけど、五人が計7枚のメダルで近づいてくれば、気が付いてない筈がないしね」

「でも、ここまで通された、近づけたって事は」

「誘ってるんだろうね、向こうも」

「上等でござる。策は先ほどまでに立てた物で。なるべく多くを眠らし、伊藤殿には鉄騎士を当てて、織田殿と拙者が突入し、黒田殿を確保し救出。その他3人は眠らなかった者達を牽制しつつ、退路を確保。そして皆で」


「楽しそうな話してるね。混ぜてもらえないかな?」

「なっ」

「伊藤!」

「どうしてここが」

「メダルの反応でバレバレだったよ。正確に言うなら、君達が国境を越えて、ムンバクに入った時点で完全に把握されてた」

「マジ、すか・・・」

「マジだよ。で、どうする?殺し合いから入りたい?」

「・・・こうして話しかけてきてくれたという事は、話し合いの余地があるという事でござるか?」

「ござる?まぁいいや。話し合いの余地はある。条件次第で、黒田は渡してもいいよ」

「まっ」

「本当に!?」

「なぜでござる?」

「・・・・・抱え込むのが面倒になったとか?」

「そこの君、名前知らないけど正解。あや、七瀬さんはね、優しすぎて、自分を魅了しようとした、裏切ろうとした黒田茜を何だかんだ理由をつけて、殺そうとしなかった。今月分を乗り切るメダルも与えた。今はまたメダルを大量にゲットしてるから、黒田に割り当てる分は余裕で確保できるだろうね。でも、そうすべきじゃない。何度そう七瀬さんに言っても聞く耳を持ってないんだよ」

「ええと、伊藤さんは、それだけ黒田さんを危険視してるって事?」

「そう。彼女に加護を与えてるのは、嫉妬の神。嫉妬が強まれば強まるほど、彼女が望む力を模倣ででも手に入れていくらしい。そんな危険な存在を生かしておくべきじゃないけど、僕は七瀬さんとの約束上、彼女を殺すことが出来ない」

「だから、俺達に、彼女を殺せと?」

「約束するよ。彼女はきっと全身全霊で君達に感謝して、どんな奉仕だってやってのけるさ。喜んでね。その上で、必要となれば、そしてそれは月一枚のメダル獲得のノルマと、最終的な勝者が一人という決まり上、絶対に、彼女は君達を残らず殺す。だから、殺されたくなかったら、適当に感謝の証を受け取った後は、迷わず殺す事だ」


 ごくりと、何人かの喉が鳴った。


「織田、殿。どうするでござるか?」

「どうするって・・・」

「伊藤さんは、真実を話してくれてると思う。それでも、黒田さんを助けたい気持ちは、変わらない?」

「覚悟は、決めておくべきだと思うな」


「ああ、それと、黒田茜に今月分として渡してるメダル一枚は回収させてもらうよ。君らも余分に持ってるらしいから、その一枚を彼女に渡してあげればいい。本音を言うなら、彼女自身のメダル一枚も余計に欲しいところだけどね」


「なんっ」

「いや、妥当だろうね」

「この場で命のやりとりをすれば、少なくとも一人か二人以上は無事では済まないし、事前に準備されてたのなら、こちらに気づかれないように退路は絶たれてると見るべきだし」

「でも、こっちで余分にあるのは2枚しか。それに、持続は俺達にとって生命線とも」

「ああ、じゃあそれはいいよ。七瀬さんはいっぱい獲得してるし、まだまだ増えるだろうから気にしないだろうさ。そんな一枚くらいをケチって、この厄札を他の誰かに押しつけられるのなら安いものだよ。

 そっちの余剰の一枚を渡せ。引き替えに、黒田を差し出す。引き取りには、そうだな。そこの人の気配を感じない奴。ゴーレムか何かか?そいつを着いてこさせろ。そいつに黒田を渡すから、二度とこの近くに戻ってくるな。俺はこの近くにいる冒険者達にお前達には手を出さないよう、でもきっちり離れた事を見送るよう伝えておく。ルームエ王国からは出て行く事を勧めるよ。七瀬さんから、レッドドラゴンの死体二頭を献上されてるしね」


 織田さんは、俺達の表情を伺いながら、嘲笑のメダルを伊藤に渡した。伊藤はメダルを手中に納めるとキャンプへと戻り始めた。


「助言ありがとう、伊藤さん。じゃあ、イルクシール、この人についていって、渡された人と一緒に戻ってきて」

 作田が言うと、鋼鉄製1/1人形が伊藤の後についていって姿を消し、やがてローブ姿に仮面を被せられた黒田さんを担いで戻ってきた。


創造主様マスター、先ほどの男から、伝言があります。死にたくなければ、服従の仮面は外すな。殺すなら、仮面を外さないまま殺せ、と」

「・・・・・」

「織田殿。考えるのはとりあえず後でござる。今は約定通り、ここから離れるのが先決でござる」

「そうだね。七瀬さんがいない間に、ルームエから出て、あと半月の間に、最低でも四枚以上メダルを稼がないと」

「行こう。黒田さん、だいじょうぶ?」

「・・・ええ。皆さん、助けてくれて、ありがとうございます。とりあえず、荷物みたく運ばれるの苦しいので、せめて体勢変えてもらえると、もっと助かるかも、です」

「あ、ああ、気がきかなくてごめん。元田、ええと、お姫様抱っこに変えてやってもらえるかな」

「イルクシール、聞いた通りだ。体の前で、こう、両手で抱えるように変えてやってくれ」


 元田の身振り手振りが通じたので、五人+一体に、さらに一人が加わって、新たな旅路が始まった。人が多い方という事で、ルームエの東へと向かって。そこから南方面へと迂回しつつ、メダルを狩っていく事にした。


 ジョーカー疫病神を押しつけられたというのが、正直な感想で、織田さん以外の四人の共通認識なのは、何も言わずとも交わす視線だけで読みとれた。織田さんでさえ、時折黒田さんと言葉を交わしながらも、悩ましそうな表情を浮かべていた。


 誰も傷つかずに目標を達成した筈なのに、俺達の雰囲気はどんよりと淀んでいた。



ーーー

伊藤輝人のそのちょい後。


「良かったのか、行かせて?」

あいつ黒田がヤバい奴ってのは、グラハムさんも分かってるのでは?そんなヤバい奴を綾華は、七瀬さんは殺せない、殺そうとしてないとこが一番ヤバい。これで連中に殺されるか、連中を殺して生き残るにしても七瀬さんにはっきりと敵対してくれば望ましい。僕が公然と殺しに行けるからね」

「あなた、良い性格してるわね」

「よく言われますよ。特に綾華に」

「それほめてないと思うけど・・・」

「さて。これでようやく僕はここから離れられます。レベルももっと上げたいし、メダルも増やしておきたい。お二人はどうします?」

「アヤとの契約期間はまだ残っているが、我々の補助や護衛が必要な存在では無くなってしまっているからな」

「そうね。恩はまだまだ返せてないのだけど」

「そしたら、ご一緒しませんか?僕も多勢に囲まれる時があるかも知れませんし、お二人なら信用出来ますから」

「テルトがそう言ってくれるなら同行しよう。一応アヤに許可を取ってくれるなら」

「ええ。お願いできるかしら?」

「彼女は今忙しいでしょうし、彼らが逃げてここから離れるのに日数も必要でしょうから、そしたら伝えますよ。その間、準備を進めておきましょう」


 護衛してくれていた冒険者パーティーには、ギルマスへの伝言も頼んでおいた。厄介者を他人に押しつけられたお陰で、今夜からはぐっすり眠れそうだった。何よりも、黒田茜に綾華の手を下す必要が無くなったのが一番喜ばしい事だった。

 自分の知る限り、何を目標にしたとしても、数百人を殺し尽くして平然としていられるほど、七瀬綾華は頑丈なメンタルをしているとも思えなかったからだ。全くの無関係な連中だけならともかく、黒田茜を平然と殺すには近し過ぎた。


 蟲毒の壷の店主に頼んで、黒田茜の仮面には発信器GPSみたいな機能を組み込んでもらっておいた。自分に渡された受信機には、だいたいどの方角にどの程度離れたか、伝わるようになっていた。

 足取りは追えるのだから、いざとなれば自ら彼女をシトメに行こう。そう決めながら、その日は早めに休んだのだった。

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