エピソード:40 帝国征服?と、重大な一歩と
余裕でした。
いや嘘です。
実際には、一度やり直した。
おおまかな流れは二度目と同じなんだけど、氷竜の洞窟の攻略はもっと手間取ってたし、絵画世界への持ち込み方も一度目はもうちょっと手こずった。もう少しでもう一人のイケオジも連れ込みそうになるくらいには近寄られてたし、何よりも鑑定スキルで全てのメダルとスキルを読みとった訳でもないのに余裕かまし過ぎて、相手の混沌スキルとか封じて勝ったなと相手をぶっとばし、お話ししようとしたら天使みたいの出されそうになって首筋蹴り潰したら、相手がこっそりと有効化してた報復の神の加護スキルが発動して瀕死に、というか実際は殺されて一日前に戻った。
単なるダメージだったらHP差で耐えられたんだろうけど、やり方、いや、やられ方が良くなかった。
油断大敵。
二度目は、アルカストラの毒蟲の糸のガラテアさんからもらってた相手の魔法やスキルの一切を封じるアーティファクト剣をきらりに刺して万全を期したし、ステータスのランク差、レベル差、さらに絵画世界というアドバンテージが重なって、報復の神の加護スキルを封じたんだと思う。
いやでも時の神の加護つえーわ。初見殺しを完全に封じられる。同じ時間のやり直しに二度目は無いけれども、ぶっちゃけ時間帯や日にちをずらせば何度でもリトライ出来る訳だし。その安心感は無比の存在。
時空魔法のブーストもやばいしね。時の大神の加護を受けた相手が勝手な制限かけられてて本当に助かった。もし制限無しに順調に立ち上がって育ってたら、何度でもリトライされて、いつかは倒されてたかも知れない。
さて、これで大神のメダルも、闇、土、時、光と過半数を越えた。所持メダルも200を完全に越えて、240近く。それぞれの特性とか掴みながら次の戦いの準備をしなくちゃだけど、それより先に、だ。
絵画世界の維持コスト(発動にMP100かかり、さらに維持に1分でMP10かかる。つまり普通のステータスで魔石みたいなMP補充手段が無いと、発動出来てもすぐに息切れするか、短期決戦に臨むしかなくなる。けどまぁ私にとっては今更な程度だった)は気にせず、さっきの相手、パージメ卿だったかな。その側に行き、声をかけた。
「光川きらりは倒したよ」
「・・・そうですか。あなたが、七瀬綾華、様ですね」
「無理に敬称つけなくてもいいよ。それより、これから尋ねる事に正直に答えてね」
「・・・答えられない事もあります」
「大丈夫。帝国の最高機密とか、光川きらりとの関係を語れとかじゃなくて、あなたの主だろう皇太子との関係について教えて」
「それは、どういう・・・」
「あなたの想像の通りだよ」
私の獲得していたメダルに、過去見があった。予見の反対。対象の過去を見る事が出来る。その相手が、
「皇太子殿下は、複数の妻を持ち、子も成されています」
「関係無いね。それが偽装であろうと無かろうと、大切なのは、私が訊いているのは、あなたと皇太子との関係。あなたが彼をどう想っていて、彼があなたをどう想っているか、だけ」
そして彼の脳裏に浮かんだ光景の数々や心情なんかが伝わってきて、私は盛大に鼻血を吹いた。それでパージメ卿には、
「あなたは、酷い方ですね」
「うんまぁ、あなたが恋人ごっこしてあげてた光川きらりみたく、あなたや皇太子とかには懸想しないから安心していいよ。でも、あなたの受け答えの内容次第では、私はこの帝国滅ぼしちゃうかも」
「そんな事が」
「炎の精霊、溶岩の精霊、望むだけの数の赤竜やメジェド・グリフォン、さらにジグヴァーノの写し身や、ここにはヴォックスまでいる。今挙げたのだけでも帝城は潰せると思わない?その中に居る人達ごと。皇太子殿下も、皇帝陛下も、当然、含まれてくるよね」
「私に、どうしろと?」
「私に支配されなさい。拒否するなら、帝国は深刻な傷を負うでしょうね」
「私があなたに支配されれば、少なくともその未来は無くなると?」
「安心していいわ。あなたの主君であり想い人に刃を向けろとか強制するつもりは無いから」
「・・・帝国に敵対されるおつもりですか?」
「いいえ。私は友好的にあろうとした。でもその申し出を断ったのはあなた達」
それは事実だったし、パージメ卿も思い当たるところがありまくるらしく、悔しそうに歯噛みしていた。
「さて、答えを聞こうかしら」
ヴォックスには彼の背後に控えてもらった。まぁ何があっても対応可能なんだけどね。保険だ。
「あなたが皇帝陛下や皇太子殿下や帝国を害さないと誓うのなら」
「うーん、その全部は無理ね。たぶん。無意味に何の罪も無い帝国の人や兵士を殺したりしないのは誓えるけど」
「このあなたの世界を解除すれば、帝城は完全な戦闘態勢であなたを待ちかまえているでしょう」
「だから、帝国の全部を害さないとか誓えないの。あなたは私に命令できる立場じゃない。すぐに皇帝陛下その他を殺されたり、少なくとも帝城を崩壊させるか否か、あなたに出来るのはその悲劇を回避する事だけ」
十秒以上は悩んだ末に、彼は答えた。
私は彼の服従の仮面を外し、彼は私の支配を受け入れた。
良しっ!これで私の遠大な計画に貴重な一歩が記された。私の願いが叶えられる事はデスゲーム開始時に確認してあったけど、それでも一から十まで全部までではなく、彼らを現実の存在とするまでだったから、そぐわない世界設定とかをどうするのかは私にかかってた。
でも、これで片方を手に入れた。だったら、もう片方も手に入れよう。
私は予見のスキルなんかも使いつつ、絵画世界解除の準備を済ませてから、解除した。
絵画世界に入った時と同じく、ヴォックスの背に騎乗した状態で光川きらりの居室のベランダの先に、私は戻った。パージメ卿は、脅しの道具として、ヴォックスの手に握ってもらっていた。
私を出迎えたのは攻撃の嵐ではなく、皇帝らしき装いのおじさんとその脇に控えた皇太子、そして帝国の重鎮達らしき人々がベランダとその奥に勢揃いして、私に向かってひざまずいた。皇太子もその姿勢だったんだけど、パージメさんの姿を見た途端に立ち上がって叫んだ。
「パージメ!」
「控えよ、ヒュードロス。お初にお目にかかる。ラングロイド帝国第52代皇帝アロクモスサである」
「ご丁寧にどうも。光川きらりを倒した七瀬綾華です」
「して、現在の進捗はいかほどに?」
「全体の数の1/3以上を集め、七大神の内、四つの加護の
「すばらしいですな。残る三つも入手は確実では?」
「そんな甘い戦いじゃないですよ。七大神以外にも強敵がいます。今の主神とかね」
「それでも、十分に勝ち目はあるのでは?」
「まぁ、負けるつもりではやってませんが。さて、こうして出迎えてくれたという事は、帝国は私に敵対するつもりは無い、という事でよろしいでしょうか?」
「仰る通り。あなたがこちらに積極的に害を為そうとしない限りは」
「私に敵対していた賠償として、パージメ卿は私の支配下に置かせてもらいました。また、帝国が再び私に敵対しないという証の為に、皇太子も私の支配下に置きます」
「ふざけるなっ!父上!やはりこやつはここで」
「鎮まれ、ヒュードロス。ナナセ殿。あなたの支配下に置かれるという事は、生殺与奪だけでなく、意に染まぬ行動も強要されるという事か?もしそうなのであれば、やはり受け入れがたい。私と皇太子以外なら」
「帝国が私に恭順したという姿勢を見せるのなら、あなたか皇太子以外にはあり得ません。あなたは要らないので、皇太子のみがその資格を持ちます。安心して下さい。殺しもしませんし、肉体的な危害も加えませんし、生活もこの帝城や帝国に居たままになるでしょうから」
「むぅ、人質として、あなたの行く末に同道するのではないのか?」
「それはこのパージメ卿だけで足りてます。簡単は判断ではないでしょうから、しばらく時間をあげます。その間、皇太子殿下の妻達をここに呼んで頂けますか?彼女達に聞いておきたい事があるので」
「わかった」
帝国の重鎮達がぞろぞろと退出していき、しばらく待った後、皇太子の妻達がやってきた。
正妃クルエコ、第二妃ミシューレキ、第三妃エピュヒュツ。この内、子があるのは第二妃まで。彼女達はそれぞれ慇懃な挨拶をしてくれた。まぁついさっきまで、ぽっと出の平民が生意気かましてくれてたんだから、私に対してあまり好意的になりそうにも無いのは察せた。
私は先ず一人ずつ個別に面談。訊くのは主に皇太子とパージメ卿の関係についてだ。クルエコは知っててスルーしてた。ミシューレキは知っててあまり良くは思ってなかった。エピヒュツは知らなかったし、自分だけまだ子供が出来てなかったのに、男とちちくりあってたって情報は、だいぶ面白くない情報だったらしい。エピヒュツは三人の中で一番若くて一番後に妃に加えられたのに、あまり相手にしてもらえなくて鬱憤も溜まってたらしい。他の二人よりも出自の実家の爵位も低かったので引け目もあったらしい。
私は三人への事情聴取が終わった後に、衛兵の一人に皇太子を呼びに行かせた。というか出頭命令を伝えに行かせた。独りで私達が待ってる部屋にまで来るように、と。皇帝とかが相談しにいなくなってから一時間以上は経ってたからね。
十分経っても顔を見せず、二十分が経ち、そろそろ脅しをかけようかなって頃に、ヒュードロス殿下はやってきた。俺様キャラが泣き入ってるような、とてもソソる表情で。
「決心はついた?」
「帝国首脳部の判断を伝える。俺がお前の支配下に入るとしたら、それはお前が最終的な勝者になった時のみだ」
「分かってないみたいだね」
「何をだ?」
「パージメ。いつも二人きりになった時のように振る舞って。あなたの心を思い切り彼にぶつけてあげて」
「・・・かしこまりました、アヤカ様」
「なっ、お前、パージメに何をした?おいっ、正気を取り戻せっ!后達の前で事に及ぼうなどと気が触れたか!?」
「あなたも気を触れさせて下さいね」
生徒会副会長が持ってたのだろう愛の神の加護スキル、レベル25で、開錠ってのがあるのね。ためらいを無くすっていうものなんだけど、それが想い合っている仲ならどう作用するのか。
肉体的にはパージメの方が優れているようで、愛の神の加護スキルの影響もあってか、ヒュードロスの方もほどなく
正妃はコトが始まってからほどなくして不潔ですっ!とかいって去ってしまった。第二妃はどうしようか迷って時々腰を浮かしていたけど、二人の濃密な有様に、なるほどそんな手管がとか言い訳をつけつつじっくりと鑑賞し続けた。
第三妃エピヒュツは、最初からずっとガン見だった。下手すれば攻める側に加わりそうな勢いすらあったけど、そこは引き留めた。彼女には素質がありそうだったので尋ねた。
「ああいうのは、外から愛でるべき物なのです。それ以上の邪念を抱いてはいけません。尊さを損なってはいけないのです」
「なるほど。尊さですか」
「わかりますか?」
「まだ私は入り口に立っただけの不明な者でしょうが、なんとなくは」
「今はそれで十分です。そう遠くない内に、あなたにも分かる日が来るでしょう。」
「精進します」
何の精進だとか、どうやってとか思わないでも無かったけど、とても麗しく充実した時間だった。彼らにとってもそれなりに充実した時間であってくれたらしい。
一息つく度に皇太子に支配を試みたけどなかなかしぶとくて、受け入れたのは四度目までパージメが攻め続けた後のコトだった。
いつの間にか正妃も席に戻ってガン見仲間に加わっていたのは脇にさて置いて、私はパージメに告げた。
「とりあえずの別れには十分吐き出せた?」
「・・・お妃様達に鑑賞させたのは悪趣味では?」
「そうかも知れないけど、あなたも頑張って見せつけたんじゃないの?」
エピヒュツははっきりと、ミシューレキはおずおずとだけどうなずいていた。
「さて、と。当面のやる気ゲージは充填できたから、そろそろ行くよ、パージメ」
「ヒュードロス殿下は、連れて行かれないのですね」
「今はまだ、ね。戦いの最終的な勝者になるまでは、なるたけ余所見するつもりは無いから」
「かしこまりました」
私は清潔の神の加護スキルを有効化してパージメのいろいろな汚れを消し去ってから着衣させて、ずっと外で待っててくれたヴォックスやリグルドさん達と合流した。
「それで、この後はどうするんだ?」
「いったんお届け物の約束を果たして、北と東の残りを刈り尽くしたら、南に侵攻かな。でも中央大陸も狩っておいた方がいいんだよなぁ」
たぶんだけど、北大陸の残りは20ちょっとくらい。東大陸は10は無いくらい。中央はまだ数十は残ってるかもな感じだけど、一回目のランダム対戦が目前に迫ってきた事で、今まで誰かを殺す事を忌避してきた人達の間でも禁忌が破られてきて人が減る速度は加速していた。
ランダム対戦には、大神のメダル保持者達はたぶん含まれない。時のは例外だったのだと思う。次は水の大神の加護を得た相手をしとめる予定だったけど、これからの展開を含めて、これ以上後回しにすべきでないかも知れない対象が一人だけいた。
得体の知れない相手や、大神の加護を得てるライバル達に取られてしまっても、だいぶ困った事態になるかも知れないし。
私は最終的に私自身に頼る事にした。化け物じみたステータスになった自分の写し身でもあるドッペルスライムの複製に、メジェド・グリフォン1頭とグリフォン2頭、チフ助に祈助、ポイ助、にパラ助、さらにアー助の複製達まで付けて組ませて、縁結びと鋭敏、捜し物などの加護スキルで探索した位置へと、各チームを派遣する事にした。彼らでたいていの相手は狩れるだろうし、もし苦戦するようなら私が転移で助太刀すればいいし。
帝国の西部と南部向けに一チームずつ、さらに中央大陸にも一チームを派遣してから、私はポルジア王国王室にお届け物をして、東大陸で狩り残してたのも潰して拾い集めて、全体の過半数近くのメダルが揃ってから、私は校長先生の元へと転移したのだった。
それは、メダルを増やせていないプレイヤー達が、翌日にランダム対戦を控えた日だった。
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